自然の境地【入口】
今日は畑仕事をすべきだった。
明日から暫く雨模様の予報。
きゅうりと葉物の跡地は草刈りが追い付いていない。
綺麗に整地して秋採りきゅうりとブロッコリーを植える予定だった。
しかし、それに体が付いていかない日もある。
午前中までは良かった。
しっかり朝食を食べ、町の図書館へぶらりと立ち寄る。
面白いものは無いかと物色していると、久方ぶりに友人を見た。
フラワーアーティストをしている彼女である。
暫く会っていなかったが、彼女は随分と活き活きしていた。
僕の手にしているミステリー本を一瞥し、「相変わらず好きね」と笑う。
よもやま話に花を咲かせる間も無く、彼女は早々に立ち去ってしまった。
また忙しいと言う。
一体何がそんなに忙しいのか、僕には皆目見当もつかない。
数冊の本と、
帰路途中にある菓子屋の饅頭を購入し、
僕は山小屋へ帰って来た。
午後は多少の業務をこなし、日は傾く。
そろそろ夕方だぞ、
と思いソファから立ち上がろうとするが、
如何も頭重感がある。
そう言えば先刻より体が重い。
額に手を当ててみるとやや熱い。
鼻がズルズルする。
―――風邪?
こう言うものは早めの対処に限る。
直ぐさま葛根湯をあおると、改めて毛布にくるまり丸くなる。
薄暗い室内に寝息が落ちる。
夕闇が迫って来る。
あれもしたい、
これもしたいと、
脳内では必死の畑作業が繰り広げられるが、
僕の手は虚空を掴む。
目を開くと日はとうに暮れている。
窓の外には朧月が掛かっている。
如何やら寝過ぎたようだ、
否、
今日の力仕事は元より諦めていた。
ここ数日の体調不良甚だしい。
先日も小一時間ほどの作業で疲労困憊だった。
体調不良は数日前から始まっているものだ、
その徴候をいち早く感じ取る事が大切、
と言うが、
僕は如何やら自身の体に疎いらしい。
何時もギリギリで気が付く。
もう少し本能的に直覚出来れば。
頭を使用しすぎる事の弊害である。
農作業をしていると、感覚的な事の大切さを思う。
植物たちの意思を、何となく肌で感じる。
全て生き物は会話している。
「人間だけが人間だけと会話している」
そう言った人がいたが、自然の中に居るとそう言う境地に入る。
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