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将棋界のお話4.

今の若手はアンドロイドかホモデウスか

今年度の将棋界では、ちょっとした異変が起きている。
若手の勝率が尋常でないことになっているのだ。
下の表を見て欲しい。

1位 伊藤匠     20歳 17勝2敗(0.895)
2位 佐々木勇気   28歳    8勝1敗(0.889)
3位 藤本渚        18歳 13勝2敗(0.867)
4位 藤井聡太    21歳 16勝3敗(0.842)
4位 高田明浩       21歳 16勝3敗(0.842)
(2023年8月3日現在、勝ち数8勝以上)

28歳の佐々木勇気八段を除き、上位5人中4人が20歳前後。今を時めく藤井聡太と同世代である。(藤井聡太含む)

これまで将棋界では、勝率上位は、20代後半から30代が上位を占めていた。こんなに若くなったことはかつてなかったのではないか。

彼らは何者か?
前々回、将棋界はシンギュラリティを迎えて5年経過したと言ったが、彼らは将棋の覚え始めからAIを使っているAIネイティブ世代と言えよう。

彼らの特徴を筆者なりに紐解いてみよう。

読みの深さ…彼らは従来より長い手数を読める。もちろんAIにはかなわないが、AIに刺激された脳の訓練の成果だろうか、従来より先を読むシミュレーションの深さが違う

形成判断の正確さ…局面ごとに、どちらがどれだけ良さそうかの判断が優れている。これもAI評価値導入の影響が大きいだろう。AIが数字で指し示す情報、例えば、この局面だったら、後手が3ポイントリードしているなど、局面と数値をその都度脳に叩き込むことで大局観が磨かれるのだろう

非常識の常識化…AIが直線最適化思考(前回解説)を研ぎ澄ましていった結果、従来良くないと言われてた将棋界の常識を覆す手が次々と生まれている。例えば、金を3段目に上がる、敢えて歩を打って局面を元に戻すなど。そして、AI以前に育った棋士は、どうしても従来の常識とのせめぎ合いがあり、新しい発想を受け入れるのに躊躇するが、彼らはそれをすんなりと受け入れている

また、彼らのアティチュード(姿勢)にも共通したものを感じる。
まず、若いわりに冷静沈着だ。例えば、将棋の解説は、経験を積まないとなかなかうまくプレゼンできないものだが、彼らはなんなくこなしている。それも非常に冷静に。
さらに言うと、長手数を厭わないこと、つまり、最後まであきらめない姿勢。
これもAIの特徴でもあるのだが、彼らは負けるにしても最後の最後に詰まされるまで最善手を指し続ける。普通の棋士は、ほとんど負けの局面になると、どうしても気力が萎え、投げないにしてもあきらめの境地が態度に出てしまうが、彼らはそんなことはない。それどころか、負け局面でも最善手を指し続ける。まるでそれが常識だろというように。確かに、万に一つ逆転の目が出てくるのも確かだし、それを追求するのがAIの良さでもある。彼らはそんなAIの良さを取り込んでいるとも言える

前回、棋士がアンドロイド化していると言ったが、もっと言うと、棋士として一つ上の次元にアップグレードしている感じなのだ。ホモデウス化※と言ってもいいかもしれない。

但し、ヒトらしい側面もあって、18歳の藤本渚君は、昨年棋士になって迎えた7戦目の対局で会場である東京を大阪と勘違いし、不戦敗になったという、くすっと笑える話もある。

いずれにしても、これから彼らは数々の常識を塗り替えていくことになろう。楽しみだ。

※ホモデウス…ユバノ・ハラリの著書。AIがヒトをアップグレードし、ホモ・デウス(神のヒト)になっていくことを促すというもの

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