プロローグ: 「AIの民主化」が始まった
ちょうど先週、PIVOTの佐々木さんと話した動画2本が2日で合計10万再生を超えました
ありがとうございます
皆さん注目されてるテーマなんだなと改めて実感しております
今回は、生成AIを通じて何が起きているのか?について、整理していきたいと思います
今、世界で何が起きているのか
AIの民主化時代の到来
2017年、「AlphaGo(アルファ碁)が人間に勝利」というニュースを覚えている方も多いでしょう。この出来事は、「AI元年」と呼ばれ、人工知能(AI)の分野において重要なマイルストーンとなりました。アルファ碁は、DeepMind(ディープマインド)という研究機関によって開発された囲碁プログラムであり、2016年に行われた囲碁の対局で、世界的な囲碁チャンピオンである李世ドル(イ・セドル)九段との間で5戦にわたる対局が行われました。
当時、囲碁はその複雑性と戦略性から、人間の知性や直感に頼るゲームとされており、人間の囲碁プロ棋士に対してプログラムが勝利することは非常に難しいと考えられていました。
しかし、アルファ碁はディープラーニング技術を応用したニューラルネットワークを使用し、大量の囲碁の対局データを学習することで戦略を習得しました。アルファ碁は独自の手法を用いてプレイし、李氏とのマッチで4勝1敗の成績を収めました。この結果、アルファ碁が囲碁の世界チャンピオン、つまり人間に対して勝利したことが明らかになりました。
この出来事は、AIの進歩と可能性を示すものとして大きな注目を浴び、AIの研究開発や応用への関心を高めました。アルファ碁の勝利は、人間の知性や直感に頼るゲームでも、十分なデータと学習能力を持つAIが優れた戦略を編み出し、人間を超えることができることを示しました。
これ以降、他のボードゲームや競技においてもAIが人間に対して勝利する場面が増えており、AIの進化が続いています。また、アルファ碁の成功は、AIの応用範囲が広がり、医療診断や自動運転などの分野にも活用される可能性を示しました。
それから約5年。2022年11月に「ChatGPT」が登場しました。この時期の前後、AIは「文章を認識する/書く」「画像・映像を認識する/生成する」「発話する/声を変える」「判断/評価する」など次々と人間の能力を獲得し、それらの能力を組み合わせることで、毎日100以上の新しいツールが登場し、後発で優れたサービスが次々に登場してきています。
例えば、ChatGPTは「文章を認識する/書く」「判断/評価する」などの能力を文章を生成することによって実現しています。
Midjourney(ミッドジャーニー)は「文章を認識し」「画像を生成する」、リトリーバルベースド・ボイスチェンジャー(RVC:Retrieval-based Voice Changer)は「音声を認識し」「発話する」という能力をそれぞれ「画像」や「音声」を生成することで実現しています。
また、「音声を認識する」「発話する」「考え方を学ぶ」を組み合わせてAIでスティーブ・ジョブズを再現した、「スティーブ・ジョブズと電話できるアプリ」といったユニークなものも登場しています。
これらの事例から分かるように、チャットのUIに生成AIを組み込んで対話型で使えるようにしたという事は一つの大きな発明とも言えます。
これにより、誰もがAIと対話しながら使うことができますし、誰もが生成AIを組み合わせることで新たなツールを作ることができます。つまり、「AIの民主化」が始まったのです。
「AIの民主化元年」とも言える2022年を境に、世界は大きく変わりました。紀元前・紀元後といってもよいくらい、「AIの民主化」前・後の世界の景色は大きく異なるのです。
生成AIが3億人の仕事を奪う
生成AIはマクロ経済へ莫大なインパクトを及ぼすと予想されています。ゴールドマンサックスが出したレポート(※1)によると、仕事の3分の2はAIの自動化の波にさらされ、4分の1が生成型AIで置き換えられる可能性があると言われています。推定すると、約3億人の仕事が自動化されると予想されていますが、私自身は実際はもっと多くの人に影響があるだろうと考えています。
では、具体的にAIがどういう観点で業務に役立つのでしょうか。ポイントは5つあると言われています。
1つ目は、「情報検索の高速化」です。
ChatGPTなどの生成AIは、大量の情報を瞬時に検索し、関連する回答を提供できます。これにより、情報を検索する時間が大幅に短縮され、業務効率が向上します。
2つ目は、「自動化と効率化」です。
例えば、メールの作成、報告書の作成、カスタマーサポートなど繰り返しの多いタスクを効率的にこなすことができます。その結果、より重要な戦略的な仕事に時間を割くことができます。
そして、3つ目は、「多言語対応」です。
生成AIは、多数の言語を扱うことができるので、国際的なビジネスコミュニケーションが容易になり、企業は新たな市場への参入障壁が低くなります。
4つ目は、「クリエイティブ」です。
ChatGPTをはじめとする生成AIは、大量のデータから新しいアイデアや提案を導き出すことができます。これにより、イノベーションを促進し、競争力を高めることができます。
最後、5つ目は、「個別化されたサービス」です。
生成AIは、個々の顧客に合わせパーソナライズ化されたコンテンツやサービスを提供することができます。そうすることで、顧客満足度が向上し、ビジネス成長に寄与します。
ゴールドマンサックスのレポートには、AIに自動化される雇用の国別割合についてもまとめられています。全世界の平均・約15%に対し、日本は約25%と、かなりの影響を受ける可能性が示されています。
また、日本は10年間のAI採用期間に年間約1.5%の生産性向上が見込まれています。全世界平均が約1.3%なので、日本における生産性向上の余地はかなり大きいと言えます。
正直に言うと、私はもっと高くなるのではないかと思っています。お役所仕事を批判するつもりはありませんが、日本では事務的な仕事が多いため、この部分はAIによって大幅に改善される可能性があるでしょう。
AIが奪う仕事は何か?
実際は、ほとんどの仕事はAIによる自動化の影響を「部分的にしか」受けません。AIによって丸ごと代替されるケースより、AIが仕事を補完してくれる方が大半です。ホワイトカラーの仕事が比較的影響を受けやすい傾向があり、一方でブルーカラーの現場系の仕事は影響を受けにくいとされています。
米国の場合は、63%の仕事がAIのサポートを受け(補完)、30%は全くの変化がなく(無風)、約7%が完全に置き換えられる(代替)とされています。
この結果を見ると、昔「ただ指示されたことだけをやってるんじゃない!」とよく怒られましたが、「ただ単に指示されたことだけをやる人」が本当に必要がなくなる時代が来るのだなと感じています。業務のうち、「作業」や「提案」などの受動的業務はAIによって代替及び補完が可能です。これらの業務が繰り返し行われる決まったパターンに従っているからです。
一方で、主体的に動かしていく必要のある「価値の定義や評価・交渉やコンサルティング・実行・洞察や発見」のような能動的業務は、AIに代替が難しい傾向があります。これらの業務が人間の直感や感情、対人スキルを必要とするからです。
したがって、私たちは、受動的な業務と能動的な業務を区別し、受動的業務にはAIを活用し、能動的業務の方にこそ注力していく必要があるのです。
作業工程の多くをAIがカバーし始めるため、顧客への提供価値をより上流の実行価値へシフトすることが求められます。それに伴い、従業員のスキルもより上流にシフトをしていかないと、この先競争力を維持し、成長を遂げることが難しくなるでしょうし、働く従業員の観点からするとAIに代替されてしまうリスクが高まっていくと言えます。
かつ単一の仕事ではなく、それらを組み合わせて完成形に近づけていけるディレクション能力や、トータルでのプロデュース能力は非常に重要と言えます。
このように、生成AIができることは今はかなり限定的ですが、その限定的な範囲から人間を遥かに超える能力を発揮し始めているのが今なのです。
仮にこの限定的に活用できる能力を組み合わせたり、繋げられるとすると何ができるのでしょうか?
次回はそれを考えていきたいと思います。
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