サイズが見積もられていないことの弊害
見積りには常に「リスク」がともないます。
なにせやってることは"未来予測"です。完璧に予知でもできない限り、リスクがないわけがありません。お金にしても時間にしても「見積り」を軽く見る人はそういう仕事に就く資格はありません。
見積りが甘いことを許容するということは、これから開始する活動に対して責任を負う気が無いということでもあるのですから。
見積りが実際よりも過小だった場合は、請け負った側には大きな損失になります。逆に多く見積りすぎると、依頼者の不信を買ってしまいます。
一般に、見積りの技術に不安がある状態(前回も失敗している場合)では、多めに調整するような心理的な力が働くようです。ですが、見積りに不安があるのなら「わからないから多めに積んでおこう」ではなく、その不安がどこから発しているのかを追及すべきです。
・どのような中間成果物を作りながら進めていけばよいのか、
わからないところから発してしているのか?
・「設計書」に何を書けばよいのかわからないところから発しているのか?
要するに、もっと具体的なレベルで自分の不安の出所を探っていけばよいのです。それをせずに相変わらず「いきなりの工数」で見積もっているようでは、いつまで経っても不安の発信源を突き止めることはできないし、今回も次回も
「また前回の失敗ように最後になって…」
という不安から解放されることは絶対にありません。こういう状態を繰り返しているうちに、自分が見積もる工数と実際の工数に、
見積り工数 × 係数 = 実際の工数
の関係があることに気づく人がいます。
たしかに、見積りの時点では見えていなかったことが起きたりしますので、今回のプロジェクトでも、何か予想しきれないことが起きるのだろうと予測するわけです。
そして、工数の中に「保険」を投げ込むことになります。
もっとも、元になる工数が"適当"ですから保険の係数も適当です。一般に「保険」の分は元の工数のだいたい1~3割の間と言われています。そして、このような中では「保険」は効果を発揮するのです。見積り工数に保険を組み込んでいたおかげで遅れが表面化しなかったり、表面的には小さな遅れですんだりするわけです。
こうなると見積りをする人たちにとって「保険」を掛けるクセはやめられなくなります。
この保険を仕込んだ工数を、顧客が許容してくれている間はこの方法でなんとかやり過ごせたのかもしれませんが、90年代半ばから市場が発した納期の短縮要求を前にして、現在ではこの種の保険は通用しなくなっているものと思われます。
運よく通用したとしても慢心しないでください。
依頼者が私たちだけを見込んで単独で依頼してくれているわけではありません。正常なビジネスをとり行う企業であれば内部統制のルールに従い、必ずあいみつをとっているはずです。私たちが「保険」をかけて価格点で大きく他社より高価になってしまった場合、常に私たちに仕事を発注してくれるとは限らないのです。
そうして見積りに「保険」を加えることでリスクが顕在化しなかった場合に黒字化、あるいは大きな利益率を生み出した成果は、必ずしも
"安定した能力によって得た再現性の高い成功(実績)"
とは呼べません。
お客さまの都合や、競合他社の取組みによってあっという間に崩れるもので、将来的な安定を見込めないという意味で不安定な成果でしかないのです。
このやり方"しか"知らないエンジニアをリーダーやマネージャーにしてしまった場合、ある特定のお客さま相手に、ある特定の時期だけは通用することはあっても、中長期的に市場の変化等を勘案した場合、他の市場や他の時代では全く通用しなくなる可能性が高い、と言うことを忘れないようにしましょう。
見積りの際にわざわざ保険を適用させないと真っ当に見積もることもできない理由は、「サイズ(規模)」が見積られていないためにそこで提示された工数に根拠を持たせることができないことにあります。
そのような状況の中で作られたスケジュールを、根拠のないスケジュールになっているにもかかわらずそれが承認されていることにあるのです。
業務にかかる「工数」は誰にでも"平等"に過ぎていきます。
要するに時間のことを言っているのですから当然です。
1人だけ"日が暮れない"なんて人はいません。
だから、工数だけでは進捗の状況は肥握できないのです。
本来、進捗管理の中で問われるのは、
「その日に生み出した成果物の"サイズ"が、
1日の生産性として適当なものかどうか」
です。
これを判断する方法には、以下の2つがあります。
①その日に終了すべき「量」として事前に割り当てた量を生産できたか
②全体の「量」をその日の生産性で割れば、予定の日数で終わりそうか
いずれの判断をするにも「サイズ(規模)」という要素は不可欠です。
一般的に
金額 = 工数 × 単価
工数 = 規模 × 生産性
で見積りなさいと言うのは、そういうことです。
そしてこのとき重要なポイントが1つあります。
見積りは、この成果物を生み出す作業に取りかかる(ずっと)前におこなった"予想"でしかないということです。それに対して今、実際に1日の作業を実施し、1日分の成果を得たわけです。
これは予想ではなく"現実"です。
実際に作業に取りかかってみることで見積りの段階では気づかなかったことに遭遇します。その機能で求められていることがいくつかの機能にからんでいて思ったように作業がはかどらないという事実、あるいは予想よりも項目の「量」が多くなりそうだといった、直面する事実です。
事前にきちんとサイズが見積られていれば、最初の1日の作業から得られる情報から見積られているサイズや工数、さらにはスケジュールなどを調整することができます。
しかし、サイズが見積もられていない状態…すなわち『全体像』を正しく把握する気が無いリーダーやマネージャーのもとではこのような調整は実現しませんので、そこでおこなわれる進捗会議等では"遅れている事実"を追認するだけになってしまいやすくなるのです。