応用を利かせず人まねばかりは失敗する
落語に多いパターンですね。
たとえば「子ほめ」を例にとってみましょう。
ただ酒を飲みたいと思ったはっつぁんが、ご隠居さんにお世辞の言い方を習って生まれたばかりの赤ん坊をほめに行きます。覚えておいたほめ言葉を言おうとしますが、習ったことと状況が違うのでことごとく的外れになってしまう…というそんな話です。
要するに、応用が利かず、これまでにしたことをそのまま繰り返してしまうわけですね。しかもこのたぐいの人はとにかくマネをしようとします。自分で考えるのではなく、まず「答え」を欲しがり、そのまま実行したがるんです。
これは現代においても同じようなことがよく起こります。何かをしなければならない状況になったら先輩がどうしたのかを知ろうとし、それをそのままマネようとするわけです。
そのためでしょう。
すぐに他人に意見を聞いて、答えをもらおうとする。
自分で考える前に人に頼る。
だからいつまでたっても自分一人で行動できるようになりません。その割に、成果は自分の実力であるかのように錯覚します。
しかも、この種の人はすぐに他人の影響を受けます。テレビドラマで何かがうまくできている場面を見るとそれが当然だと思うようになるし、マネてみたくなります。その通りにすればうまくいくような気がするわけです。
権威がある人から批判されるとすぐに考えを変えてそれまでに自分のしたことを否定し、自分より下だと思う人から批判されると不満に思い、感情的になるのも特徴的です。
しかも、それまでのことにしがみつくか、それとも考えを変えるかの分かれ目は論理的にどちらに説得力があるかではありません。
もし、論理的な試行の結果であればそれはそれで納得がいくものですが、ほとんどの場合はたまたまだったり、言われたときの雰囲気だったりします。そもそも論理的に進めた結果ではないのでそうなってしまうのは当然です。
この種については「どんなワンパターンなのか」「ネタ元は何なのか」を確認してみれば理解しやすいかもしれません。
「ワンパターン」に頼るばかりの人…というのには大きく2通りあります。
・他人に依存する
・過去の成功に依存する
です。
仕事は千差万別ですし、その時に関わる人も十人十色。いくらプロセスや仕組みが有効なものだと言ってもすべてが全く同じことの繰り返しで上手くいくわけがありません。
たとえば、みなさんに子供が男の子1人いたとして、そろそろ3歳を迎えようとしていたとします。そんななか女の子の第2子を授かりました。
はい、第1子と全く同じで全く差のない育て方をしますか?
しないでしょう?
それと同じです。
過去の経験や知識、他人の経験や知識は参考になりますし、それらの知見を多くの引き出しの1つとして取っておくことはできます。
しかし、だからと言って1から10まですべてまったく同じにして、全く同じ成功にたどりつくか?と言うと話は違います。そんな仕事の仕方がしたいのなら、どこかで本を買ってきてその通りに"だけ"していればいいのです。
こと、B2Bビジネスにおけるソフトウェア開発に限って言えば、全く同じシステム、ソフトウェアを作る依頼というものは絶対にありません。
ここで1つ「プロジェクト」の定義を改めて確認しておきましょう。
そう「独自性」が常につきまといます。
そもそもソフトウェアの場合、全く同じものが欲しければフォルダごとコピペすればいいだけです。だからコピペをするのではなく新規で作るにせよ、改造するにせよ、機能追加するにせよ、再構築するにせよ、必ず以前までの開発とは異なる部分があるはずです。
それが、
・要求事項が違うのか
・予算の上限が違うのか
・期限の厳しさが違うのか
・担当される方(の人柄?能力?やりやすさ?)が違うのか
・過去の資産(リソース)の有無や量が違うのか
・自チーム内のメンバーの質が違うのか
なにかが違うはずです。まったく一緒になることは100%ありえません。にもかかわらず「ワンパターンで考えるばかりの人」は自分で考えることをせず、とにかくワンパターンにこだわるあまり、一つひとつの仕事の成功するための条件を顧みず、同じことをしようとして失敗を繰り返すのです。
挙句の果てに
「あれー?前はこれで上手くいったんだけどなー」
と言い出すわけです。私はこれこそが鉄血宰相ビスマルクのいう
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
だと理解しています。
失敗した時の言い訳に「前はうまくいった」
変化を求められた時に「今まではこれでやってきた」
という人の多くはこうした大きなリスクを抱えている…ということを自覚した方がいいかもしれません。
いつもワンパターンで物事を考え、自分でその場に応じた応用ができない人と言うのは言い換えれば、必要なシチュエーションに応じて『考える』癖が抜け落ちているということです。
『考える』努力を長い間してこなかった、
『考える』努力をしなくても周りが何とかしてくれたために、
手を抜いて、結果だけ求める癖が定着してしまっているのです。
大人とは言え20代であればまだ改善することもできたでしょう。しかし30代、40代でもこうなった状態では応用力をつける能力を持たせるのは非常に難しいと言わざるを得ません。
よほど今までの環境がぬるま湯だったのでしょう。
この種の人は言われたままを繰り返し行動する『作業者(worker)』に向いています。自ら考え、産みだし、臨機応変に対応できるあるいは対応させる『指導者(leader)』には向いていません。
そして、これは持って生まれたあるいは育ってきた環境が育む資質であることが多いため、基本的に後になって改めるのは難しいと言われています。
前述で「20代であればまだ…」と言ったのは「学生」から「社会人」に切り替わってから自分の中にプライドや固定観念ができあがるまでの短い期間
であれば吸収意欲が高く、また環境の変化に対応する心構えがあるために
他の年代と比べると変化する可能性が高いためです。
むしろここが最後のチャンスと言ってもいいでしょう。数少ないチャンスを逃してしまった人は、よほど強い信念でも持たないと「心の改善」を行うのは難しいものです。
ダイエットや禁酒・禁煙に失敗する人が圧倒的に多いのはそのためです。
経営学の父、P.F.ドラッカーの名言の中でも言われていますよね。
応用力を身につけるための格言としても同じことが言えます。
たしかに、過去の成功事例や他人から模倣できるノウハウは基礎的な方法の習得として重要です。しかし、本当に使いこなし成果を出すためには、日頃から習慣化する癖が必要なのです。
応用のために重要な姿勢は、基礎を繰り返し活用し、同じ方法であっても
「どんなときであれば失敗し、どんな時であれば成功するのか」
を正しく理解し、盲目的に同じことを繰り返すのではなくTPOにあわせて使い分けられるようにすることにあります。
もちろん応用力のある人でも時として『人マネ』は利用します。しないわけではありません。しかし頭の中で思い描いているものがまったく違います。「同じ結果になる」とは考えていません。「なれば楽でイイナー」とは考えているかもしれませんが。
人マネで"同じ成果"を上げようとする人は『実行から結果まで』の一連をマネようと考えます。まったく同じマネをすれば、全く同じ成功がついてくると信じているのです。
だからちょっと前提条件が異なっただけで同じ結果とならず失敗します。
たとえば、ソフトウェア開発の世界だと
「アジャイルがいいらしい!」と言われたので、さっそく飛びついてとにかくアジャイルを採用したら失敗した。
「国内開発にこだわるなんてもう古い!今はオフショア!」という言葉に踊らされて兎角オフショアさえすれば成功すると思って飛びつき、質の悪い製品を納入されて大炎上。国内で1からやり直しとなった。
よく聞く話です。
「アジャイル開発手法」も「オフショア」も、それ自体は優れた施策ですし、正しく活用できれば大きな成功、大きな利益を生み出すのは間違いありません。ですが、たとえば
協力的でない、アジャイルを理解していない顧客相手に通用するか?
オフショアのリスクを理解しないまま、国内ベンダーに提供するのと同じレベルの設計書群を同じように海外ベンダーに提供して、同じように「行間を読む」「忖度する」等のことをしてくれるのか?
というと、答えはNOです。
本質的な部分を見ようとせず目先の行動だけを人マネても上手くいかない…というのはイヤというほどわかりきっていることです。作業レベルであれば1つや2つはただの模倣でうまくいくケースもあるかも知れませんが、業務レベルや事業レベルでも同じと勘違いしていると、上手くいくものも上手くいかなくなります。
模倣することによって"応用する手管"の1つに取り込もうとする人は、
いくつかの多様なシチュエーションのなかで『実行』を真似てみて
その『結果』を分析し、最適解を模索する
ためにマネを活用するのです。
当然、必ずしも同じ結果になるなんて最初から思っていませんので、
どんな条件で、どんな結果になるのかを幾通りも知ろうとします。
その手法や知識、経験を、完全に"自分のモノにする"のであれば、
trial and error(日本ではトライ アンド エラー)
によって仮説検証するプロセスは当然の流れだと知っているのです。
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