契約書・見積書の注意点(基礎編)
ビジネスパーソンたるもの、契約書のことは法務に任せておけばいいなどと無知無責任では済まされません。
案外、身近にないからと言って無関心を貫く人も多いようですが、ある程度の責任者になれば嫌でも関わってくることになります。その時になって
「あ、自分初めてなんで」
と言えるかどうか…悩ましいところですよね。
20代であれば許されるかもしれません。
30代だと前半ならまだなんとか…後半だと白い目で見られ始めます。
40代にもなるとさすがに恥ずかしいと思われるかもしれません。
でも、そうなるまでに
「誰かが教えてくれることはまずありません」
実際、私が所属していたIT業界においては、そういう事例によって大きな問題を引き起こした挙句、契約面でも不利に立たされて大赤字に貢献(?)したリーダーやマネージャーというのも見たことがあります。
そしてそれはもちろん、仕事以外の売買契約でも無知が命取りにならないとも限りません。経理でも、営業でも、商品開発でも、なんらかの形で契約書に関わる機会はあります。
プライベートの商品売買などでもそうでしょう。
家や車など、高額商品を購入する際には非常に面倒な書類作成がついて回ってきます。
しかし、多くのビジネスパーソンは契約書についてあまり理解できていないように思います。
とくにミスを起こしやすいのが「日付」です。
実は、契約書に記載する日付は大きく分けて「3種類」あります。
作成日
契約書を作成した日付のことです。
この日付を入れておくことで、作成者が契約書をつくることができる年齢に達していたかどうかなどを示すことができます。
成立日
実際に契約が成立した日付を指します。
この日付において、契約書に記載された内容が法的に有効になったことを示します。
効力発生日
契約内容の効力が発生する日付を意味します。
「本契約は、平成○年○月○日まで遡って適用される」というような文言を入れておくことで、契約成立日より前の時点を効力発生日とすることもできます。
契約書に日付が一つしか記載されていなければ、通常は
作成日=成立日=効力発生日
を意味します。
しかし、それぞれ別の日付を記載しなければいけないときもあります。
たとえば、「秘密保持契約書(=NDA)」を作成するとします。取引先との基本契約、あるいはプロジェクトごとの個別契約の際に締結するので知っている人も多いことでしょう。
これを、実際に当事者が押印した成立日は平成30年1月1日だったとしても、その1ヵ月前から効力を発生させたい場合は「本契約は、平成29年12月1日まで遡って適用される」と記載し、有効期間の始点をずらすこともあります。
このように、成立日と効力発生日をずらすこともあるので注意しましょう。
「成立日」のバックデートはリスクがある
また同様の例で、成立日を12月1日に遡らせるとトラブルの元になります。
実際に押印したのは1月1日ですから、相手が「契約成立日にそのような契約書が成立していない」ことを理由に契約の無効を主張してくる可能性があるのです。そのような余計なトラブルを起こさないためにも成立日ではなく、効力発生日をずらすようにしましょう。
契約書のミスは、会社に大きな損害を与えるような問題に発展してしまうこともあります。「自分は法務と関係ないから知らなくてもいい」などと考えず、最低限の知識は持っておくべきです。
「捨印」は押さない
多くのビジネスパーソンは「印鑑を押す」ことに対して慎重だと思います。むやみに捺印して責任を取らなければいけなくなるリスクを理解しているからでしょう。
とくに注意すべきなのは、「捨印」です。
捨印とは、契約書や文書を作成するときにある程度の訂正をしても構わないということを示すために押される印鑑です。書き損じや書き間違いをするたびに、書類作成者に訂正印を押してもらいに行くのは手間がかかります。
そこで、事前に捨印を押し、相手に訂正権限を与えておくのです。
捨印の側に「一字追加」などと訂正の内容が記入されていれば、書類作成者が訂正に同意したことになります。捨印は、お互いの手間を減らす便利なルールですが、これが悪用されることもあるので注意が必要です。
たとえば、「百万円」と記載された箇所に二重線を引いて「一億円」と訂正します。そして捨印の近くに「二文字削除、二文字加筆」と書けば、法的には有効文書として通ってしまいます。
そのようなリスクがあることをしっかり理解して、信頼している相手にだけ捨印を押すようにしましょう。私自身は無用なトラブルを避けるために、多少事務的な負担が増えるとしても捨印は押さないようにしています。
見積書には「有効期限日」を明記する
もし見積書を作成する仕事をしているなら、ミスを防ぐために今度から実行すべきことがあります。それは
「見積有効期限日」
を入れることです。
見積有効期限日とは、見積書そのものの有効期限のことです。
たとえば、「本見積提出後2週間」というように明記します。
見積書に有効期限を設けるのには理由があります。
繁忙期と閑散期では人件費が変わりますし、為替や物価変動でも受注環境は大きく変化します。半年も経ってから「あの見積書で契約します」と回答されても環境は大きく変化しています。
新たに原価計算して最新の見積書を提出する必要があります。
ですから、必ず有効期限日を明記するのです。
「半年も前の見積書をもとに回答してくるなんてありえないだろう」などと思い込んでいると痛い目を見ます。
ビジネスの相手がみな善人とは限りませんし、海外との取引では商慣習が日本とまったく違うこともあります。勝手な思い込みで判断するのではなく、起こりうるミスを予測し、事前に手を打つことがビジネスでは肝心となります。
性善説で進めたいのなら、他人に迷惑のかからないところでやりましょう。
最低でも、営業部にてお客さまに提出する見積書(概算・正式)は、この有効期限日が必ず記載されています。
しかし、中には各組織から個別に概算、超概算の見積書をお客さまに提示することもあるでしょう。場合によっては、企業の中で見積書の書式が統一されていないこともあると思いますので、部または課、あるいはプロジェクトや人によっては記載していないケースもあるかも知れません。
そういった際に、期限日が無いまま提出してしまうと、あらぬ問題に発展しかねませんので注意しましょう。