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どうみてもBL / 「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」

メソポタミアから古代ローマまで、血を吸う化け物のストーリーは世界中に存在していた。吸血鬼として知られる今日のイメージのほとんどは19世紀のバイロン卿とブラム・ストーカーに依るところが大きい。最近流行しているゾンビと違ってヴァンパイアは人の世に紛れ込むので、小説の題材として100年以上も人気のコンテンツである。ゾンビが相手なら殺すか逃げるかしかないが、ヴァンパイアはカフェで隣の席に座ることもできるのだ。
1976年にアン・ライスが発表した「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」はすぐに映画の制作会社が権利を買ったものの、どう撮ればいいのか悩んでいるうちに権利が変わっていき、けっきょくゲフィン・レコード創業者の映画会社が予算を出して1994年にようやく映画化された。こうした権利のたらい回しや複雑化のことを英語では development hell (開発地獄)と表現する。本作はまさにこの地獄の果てで、トム・クルーズと駆け出しのブラッド・ピットの共演で公開された。
時は18世紀、ニューオーリンズの農園主であるルイ(ブラッド・ピット)は人生に絶望していたところ、ヴァンパイアのレスタト(トム・クルーズ)によって"死かヴァンパイアか"という選択を迫られ、ヴァンパイアとして生きることを決意する。レスタトは次々と人を襲って血を吸うものの、ルイはなかなか踏み出せず小動物の血を吸うことしかできずにいた。ある日ルイは、両親を亡くして悲しむ美少女クローディア(キルスティン・ダンスト)を抱きしめたところ、ついに首筋に噛みついてしまう。レスタトはクローディアをヴァンパイアとして生まれ変わらせ、ルイと共に行動するようになるも、クローディアは貪欲に吸血していくようになる。やがて自分の身体が幼いまま成長しないことに不満を抱いたクローディアはレスタトを憎むようになり、復讐を果たそうとするーー、という、まさにゲーテの「ファウスト」のパロディである。
さて、これはホモの話として解釈することも可能である。レスタトというガチホモによって同性愛の行為をさせられたルイが、再び踏み出せずにいたところ、若い女を好きでもないのに抱いたせいで、レスタトとの三角関係になってしまう、というストーリーでもある。むしろ、こうした同性愛の話をヴァンパイアに仮託して語ったに過ぎないのではないか、とさえ思う。「ファウスト」では博士はグレートヒェンという少女に恋をした。大人の男が少女と関わりを持つというストーリーはヨーロッパの伝統芸能のようなものだ。
ルイとクローディアは後にレスタトを殺めたのではないかとして、ヴァンパイアのサンティアゴとアーマンド(アントニオ・バンデラス)によって尋問される。クローディアはサンティアゴによって日光で処刑されるも、アーマンドはルイを助け出し、共に生きていかないかと誘われる。ルイはこの申し出を拒否してニューオーリンズに戻り、現代まで生き続けてきたものの、ある日、弱りきったレスタトに再会する。ルイはレスタトからの誘いも拒否すると、インタビュアーのダニエル(クリスチャン・スレーター)をヴァンパイアにしようと目論むーー、という映画である。つまり、三角関係がもつれたところ、他の男が現れ、女はいなくなり、以前の男に戻る気もなく悩むルイはようやく抱きたい男が見つかるーー、という話だ。
この映画はそれまでの吸血鬼モノと異なり、ヴァンパイアが若いイケメンであり、なおかつインタビューに応じるほど人の世に馴染んでいた点がユニークだ。この人間フレンドリーな"イケメンの化け物"という設定は後に大きな影響を与えたと言えるだろう。原作者のアン・ライスはエロティックなシリーズやSM系の小説も出版していたので、こうした解釈はきっと本人もあの世で喜んでいるはずだ。

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