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こんなに暴れて未来は大丈夫ですか / 「ターミネーター」

You're terminated, fucker.
(おまえはおしまいだよ、バカめ)

Sarah Connor

もし、ドラえもんが殺人兵器だったらーー。
ハリウッドで雑用係などをしていたジェームズ・キャメロンは、1984年の映画「ターミネーター」の脚本によって人生が変わることになる。未来からやってきたアンドロイドあるいはサイボーグが登場人物たちを襲うという設定は世界中の観客を楽しませ、1987年の「ロボコップ」と並んでSFジャンルのヒット作となった。ちなみに、この2つの映画はどちらも同じ制作会社の作品である。
T-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)が完全に機械ならアンドロイドと呼べるのだが、あたかも生体細胞が体内に存在しているかのような描写をされていたので、ロボコップと同じサイボーグともいえる。
さて、映画「ターミネーター」がユニークだった点は、未来においてアンドロイドたちにとって危険な人物であるジョン・コナーの母親、サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)を殺すという筋書きだった。母親が息子を産む前に殺してしまえば、未来の危険が排除されるというAI(スカイネット)の判断である。
ところが、ジョン・コナーの誕生を阻止すれば、また他の脅威がきっと未来において現れているだろう、あるいは、もっと状況が酷くなるかもしれない、という推測もスカイネットはきっと演算したに違いないのだが、それでもどうしてもジョン・コナーだけは消したかったのだろう。また、そもそも未来からT-800が現れた時点でサラ・コナーおよび周辺の人たちの人生は変わってしまうわけだから、この映画が進むにつれて未来がどんどん書き換えられ、未来の世界はてんやわんやになるのではないかーー、という、このあたりは映画なので、細かいことは言いっこなしである。SFというジャンルはこの地球には存在しない設定を持ち込むわけだから、どうしてもあちこちにほつれた部分はできるものだ。
オーストリア人であるシュワルツェネッガーのたどたどしい発音の英語もT-800役にピッタリだった。有名なT-800のセリフ I'll be back (戻ってくるぜ)はシュワルツェネッガーの代名詞になり、その後の主演映画「コマンドー」や「トータル・リコール」などでも I'll be back というセリフを言っていた。日本語字幕では気づきにくいが、ハリウッドはこうしたファンサービスを劇中によく盛り込んでいる。
映画は大ヒットしたのだが、ジェームズ・キャメロン監督はあるテレビドラマの脚本家から「未来から来た者が人間らしい感情を知る」「ちぎれた指を取り戻す」というエピソードを剽窃したと訴えられ、キャメロンは多額の金銭を支払って和解し、その後のエンドクレジットに脚本家の名前を加えることになった。こうしたアイディアの盗用、剽窃はどこまで認めるべきであるのか、難しい問題である。人の思いつくことなんてどうしても似通っているものだ。あらゆる欧米の小説は聖書の注釈とも言える。
余談になるが、ジェームズ・キャメロンは本作の公開から数年後、妻と離婚することになり、慰謝料として「ターミネーター」の権利を1ドルで妻に譲渡した。監督の結婚生活が terminated したわけである。

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