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【#60】ちょっとマニアックな学習論(記憶の種類について)

こんにちは!
定期的にやってくる学習ネタです!

今回はちょっとマニアックに、心理学の用語を、特に記憶に関する用語を少しだけ紹介してみます。
僕は大学受験生でも社会人でも、学習コンサルをする時にはできるだけこういった用語を使って解説するようにしています。

「なんでそんな面倒なことをするのか?」
「専門知識は専門家がわかっていれば十分じゃないのか?」
「ただのブランディング、なんならマウントじゃないのか?」

と思われる方もいるかもしれません。
まぁブランディング要素が含まれている節は否定できませんが、それを差し引いても学習者に十分なメリットがあります。その理由も含めて、書いてみたいと思います。

上達に必要な唯一の力


「歌が上手い人は耳が良い」

というのを聞いたことがありますか?
耳が良いから「目指す音」と「今自分が出している音」の違いがよくわかり、その差を埋めるように修正していくので上達が早いのだそうです。

運動が上手い人も同じです。
運動が上手い人は自分の身体がどう動いているかを把握する力が高いそうです。どこの筋肉を使っているとか、関節がどれくらい曲がっているとか。そして「理想とする動き」と「今の自分の動き」の差を修正していくので、これまた上達が早い。

そして勉強が上手い人にも同じことが言えます。
勉強が上手い人は自分のアタマの状態を把握するのが上手いんです。

・この記憶はすぐに忘れるヤツだ
・これぐらい印象に残れば多分大丈夫だ
・今日はいつもより計算の速度が遅いなぁ
・何か頭がごちゃついてきたからいったん紙に整理してみよう

みたいな感じです。

これらを総合すると、上達のために必要なのは「目の良さ」であると言えると思います。
(音楽の場合は「耳の良さ」ですが)

特に「自分を把握するための目」です。
この目の精度が高いと、自分の状態を正確に把握することができます。

ぶっちゃけ、状態の把握さえ正確なら対処法なんてなんでも良いんです。
なぜなら自分を把握する力が高い人は、試行錯誤を繰り返す中でアタリの方法を引いたときには、それがアタリだと自分でわかるからです。

ちなみに勉強における「自分の状態を把握する力」には心理学の世界で名前がついていて、メタ認知と言います。

言葉を知ることで目が良くなる

では
自分の状態を把握する力を高める
つまり
目を良くする
ためにはどうすれば良いでしょう?

その答えのひとつが「言葉を知る」ということです。

人間は言葉によって物事を区別します。
日本人がハマチブリを分けるように。
サッカーにディフェンダーミッドフィルダーがいるように。
車の車種に色んな名前がついているように。

知らない人から見ると
「一緒じゃん」
と思えるようなものでも、それを区分し、それぞれに名前をつけ、言葉を与えることで人間は区別ができるようになっていきます。

そして、より細かく区別できるようになった状態こそ「目が良い」なんです。

記憶の種類

ということで

記憶の種類を表す言葉を知る

自分の中の記憶を区別できるようになる

目が良くなる(メタ認知能力が上がる)

という効果が期待できます。

今回は記憶の種類の中でも比較的わかりやすいものを紹介します。

まず短期記憶長期記憶という言葉は割とポピュラーだと思います。
本当は短期記憶の前段階として感覚記憶というものもあるのですが、今回この辺の話は割愛します。
なんとなく日常で使われているニュアンスであってます。

詳しく知りたい方はこちらのリンクを見てください。

今回は

長期記憶にも色々あるんですよ

という話をしてみます。
認知心理学では長期記憶はさらに細分化されていて、分け方には諸説あります。
全部説明すると大変なので、今回は代表的な2つを紹介します。

・エピソード記憶
・意味記憶

です。

エピソード記憶

その名の通りエピソードとしての記憶です。
「昨日帰りにコンビニでシュークリームを買った」
とか
「前回の会議でコーヒーをこぼした」
とかです。
体験の記憶と言っても良いかもしれません。

意味記憶

エピソード記憶と対比されるのが意味記憶です。
これは
「1+5は6だ」
「フランスの首都はパリだ」
みたいな記憶です。一般的に知識と呼ばれるものと思っても良いでしょう。
これはエピソード記憶と違って

どこで入手した記憶かわからない

というのが特徴とも言われています。確かにフランスの首都がパリであることはみんな知っていますが、それを知った時のエピソード記憶は既になくなってしまっているでしょう。
(知らなくてものすごく恥をかいたエピソードを持っている人は覚えているかもしれません)

100-23は?

エピソード記憶と意味記憶の違いを説明した文章の中で僕が好きなのが

「100-23は?」

というもの。
(どこかの論文で読んだ気がするんですが、思い出せなかったので引用元は紹介できませんが…。)

「100-23は?」と聞かれて、そりゃ

「77」

と考えたと思います。もちろん正解です。
この時はみなさんは意味記憶を使って問題を解いています。
たぶん、ここで例外はありません。

さて、改めて質問します。

「100-23は?」

「いやだから77でしょ」

この瞬間に枝分かれが発生します。

「さっき計算した時の答えが77だったから」
という理由で77と答えた人は、今度はエピソード記憶によって答えを出したということです。

一方で、律儀に改めて計算し直してくれた方は、再び意味記憶によって答えを出したことになります。

失くした鍵を探す時は?

今度は僕の体験に基づく説明を。

朝、出勤するために家を出ようとしている。
鍵がない。いつもの場所にない。
どこだ?

ここで

昨晩帰ってきた時の自分の動き

を思い出そうとする人は、エピソード記憶を引き出していることになります。
僕はこれをよくやります。

一方で

いつもの場所にないなら、可能性の高い場所は…

と考えるなら、意味記憶によって「自分が鍵を入れやすい場所」を知っていて、そこを探していることになります。

勉強は意味記憶で

こんな感じでエピソード記憶と意味記憶を区別します。

ここで、この2つの記憶に関して、勉強の時に陥りがちな罠をひとつ紹介します。
特に受験や資格試験の勉強で多いのですが

エピソード記憶で問題を解いてしまう人が多い

ということです。
例えば、何かの試験のための講義を受けたとします。
それについての問題を解く時に

「講義で先生が解いていたやり方を真似る」

という方法で問題を解く人がいます。
これはエピソード記憶で問題を解いているということなんですが、エピソード記憶は記憶を呼び出す条件がシビアすぎて試験では役に立たないことが多いんです。

また、この方法だと意味を理解せずともエピソード記憶を頼りに先生のやった手順を模倣すれば問題を解けてしまうこともあるため、本質的な理解に繋がらないことも多いです。

エピソード記憶が勝手に呼びだされてしまうこともあるので、絶対にやっちゃダメとかではないんですが、あまりよくない勉強法です。

天才の感覚

逆に、勉強のセンスがある高校生なんかは

「今この問題解けたんですけど、単に昨日先生がこうやって解いてたなーって記憶で解いてるんで、1週間ぐらい経ったら解けないし、他の問題に混ぜられても解けないと思います」

みたいなことを言ったりします。
このセリフを言う人は勉強のセンスがめちゃくちゃあります
(対処法は人と状況によるので割愛します)

感覚的にエピソード記憶と意味記憶を分別できているし、
・エピソード記憶で問題を解けていても実践的ではないこと
・問題には正答できていても本質的な理解には至っていないこと

が把握できています。

これが「目が良い」という状態ですね。

勉強において「天才」と言われる人たちは誰に教わらなくても感覚的にこれが区別できています。
おおよそ才能の正体というのはこんなもんだろうと僕は思っています。

ただ、ちゃんと言葉を学んで、訓練してエピソード記憶と意味記憶を区別できるようになれば「天才」と同じ感覚を後天的に手に入れることもできます。

僕が教えている「学習法」というのはこんな感じのものです。

足りないのは才能ではない

僕は勉強がうまくいかない多くの人にとって

足りないのは才能ではない

と思っています。
なぜなら才能の多くはこうやって言語化可能だし、言葉として学び、訓練すればある程度の精度では誰でも再現可能なものだからです。

たまたま「自分を把握する感覚の鋭利さ」を幼少期に獲得しなかっただけ。
でもそれは、鍛えれば大人になってからでも手に入るものです。

もしこれを読んで下さった方が何らかの勉強を頑張っている方なら、上手くいかない時にただがむしゃらに時間だけを積み上げるのではなく

・自分の状態を詳しく把握すること
・そのために、勉強が上手い人の感覚を知ること

を目指してみて下さい。

Kai Nishitomi
1988年生まれ。神戸市出身。塾講師/塾経営者。
大学在学中の20歳で学習塾を開業。
以後マンツーマン専門のプロ講師として自塾・大手塾にて授業を担当。
「自ら学ぶ力を高めるための学習法の分析と指導」を専門とした指導スタイル。医学部をはじめ難関大受験を中心に活躍。
近年は社会人の学習・スキル獲得のためのアドバイスも展開する。

sublimeでコンサルサービスを始めました!

【学習コーチング】
資格試験のための勉強をしている方、教養としての学び直しをしたい方に勉強法をアドバイスします。
これまでの学習歴と勉強したい内容をヒアリングしながら、良いクセを活かし悪いクセを直していくことで学習効果を向上させます。記憶・理解・思考に対して理論的な背景を説明しながらアドバイスするので、他の勉強に活かすこともできます。
「学生時代から全く勉強なんてしていない」という方でも大歓迎。
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