【#84|本の紹介】天祢涼『希望が死んだ夜に』から考える子どもの格差
<この記事を書いた人>
Kai Nishitomi
1988年生まれ。神戸市出身。塾講師/塾経営者。
大学在学中の20歳で学習塾を開業。
以後マンツーマン専門のプロ講師として自塾・大手塾にて授業を担当。
「自ら学ぶ力を高めるための学習法の分析と指導」を専門とした指導スタイル。医学部をはじめ難関大受験指導を中心に活動。
最近では社会人の学習・スキル獲得のためのアドバイスも展開。
今回はミステリー小説のご紹介です。
ミステリーの中でも社会派ミステリーと呼ばれるジャンルで、謎が明かされていくストーリーの中で、現代社会に対して問題提起するようなテイストの作品です。
問題視される子どもの格差
この手の小説はあまり内容について語りすぎると致命的なネタバレになってしまうので、引用したあらすじに毛が生えた程度で留めることにすると
主人公のネガはかなり不遇な家に生まれています。
ストレートに表現してしまうなら「貧乏」です。
あまりに家にお金がないので、仕方なくネガ自身もバイトをしますが、それは生活リズムに影響し、学校では遅刻や居眠りが多く、学業も芳しくありません。
フィクションなので少し極端な部分もあるかもしれませんが、絵に描いたような悪循環です。
でもこれは、フィクションの世界に限った話ではなく、今日本で問題視されていることでもあります。
・格差の再生産
・貧困の再生産
などと呼ばれます。
端的に言えば「親の貧困が子に引き継がれること」を指します。
引き継がれるのは経済力だけではありません。
意欲や学力なども引き継がれるものとして挙がっており、昨今流行りの「親ガチャ」という言葉の背景になっています。
今回はこの問題を結構マジメに考えてみようという、結構社会派な記事です。
問題の根本は何か?
この問題は「経済力」を中心に語られることが多いです。
「経済力のある家庭は私立の小学校や塾・予備校など、高額な教育サービスが買える。だから子供の学力が上がり、その子は学歴を手に入れる。結果、高収入な仕事に就ける」
みたいなロジックです。
特に
<経済力→教育サービス→学力>
の流れはニュースなどでも良く見かけるもので、一見すると説得力があるように見えますが、ことはそう簡単ではありません。別の主張もあります。
例えば
「経済力のある親は知的レベルが高い。家に本がたくさんあり、会話のレベルも高く、子どもと話す時の語彙も豊富だ。努力の水準も高い。それらを当たり前の環境として育った子どもは自然と学力が高くなり……以下略」
みたいな主張です。
つまり
<環境/文化レベル→学力→経済力(→教育サービス)>
みたいなことです。
これは学力をコミュニケーション能力などの社会性に置き換えても同じようなロジックが作れます。
一体何が根本原因なのか?
経済力が学力を作っているのか?
学力が経済力を作っているのか?
教育サービスが学力を作っているのか?
環境が学力を作っているのか?
遺伝が学力を作っているのか?
実はよくわかっていません。
わかっているのは「少なくとも結構アンフェアな社会だ」ということだけです。
僕は教育業界に長くいるので、否が応でもこの問題に直面します。
子どもたちはみんな素直な良い子です。
その子なりの希望を持っているし、その子なりの問題に直面しながらも、懸命に生きています。
でも、願いが叶う人と叶わない人は出てきます。
希望の学校に進学できる人・できない人
希望の職業に就ける人・就けない人
理想とした生活水準を達成できる人・できない人
これらが本当に本人の努力だけの問題なら、一昔前に流行った「自己責任」という言葉で片付くでしょう。
ですが、どうやらそうではないと。
親の影響を大きく受けているっぽいと。
まぁ親かどうかを未定としても、少なくとも努力以外の要素が割と大きいようだと。
だから社会はこの問題を解決したいわけです(多分)。
でも、先ほど述べたように解決策どころか原因すらよくわかってないというのが現状でしょう。
もちろん社会の賢い人たちが頑張ってもわかっていないのだから、僕にわかるはずがないのですが、せっかくなので原因を考察すべくちょっと思考実験してみましょう。
金持ちが突然失業したらどうなるか?
もし経済力が学力を作っているのなら、
経済力が高く、子の成績も優秀だった親が突然失業して無収入になったらどうなるのでしょう?
この瞬間学力が落ちるとは考えにくいですよね。
74ページ目までは理解できていた本が75ページ目から突然わからなくなるなんてことは起こりません。
教育サービスはどうでしょう?
収入がなくなったので塾を辞めなければいけなくなった。
学習リズムが維持できなくなり、モチベーターも失った子の成績が徐々に下がっていくというのはあるかもしれません。
そもそも子のメンタルが不安定になるかもしれません。
失業のショックで子に当たるような親ではなくでも、子は親の不安や絶望を敏感に察知するものです。親も不安定なメンタルの中で子供に接するのが億劫になり、子は承認や愛情を感じられず、学校での行動も荒れてきて学力形成どころではなくなるかもしれません。
色んな可能性が考えられますね。
もちろん、ちょっと前まで高収入だったぐらい優秀な親なのだから、とっとと再就職して万事解決。というパターンもあり得るかもしれません。
貧乏な人が宝くじに当たったらどうなるか?
逆パターンも考えてみましょう。
この小説の主人公ネガが、宝くじで3億円当たったら?
学力向上のために塾に通うでしょうか?
既に結構なハンデがありますが、それをひっくり返すぐらいの努力ができるでしょうか?
あるいは
学力で勝負するのは分が悪いと考え、専門性を身につけるべく専門学校へ進学するでしょうか?
もっと直接的にお金を増やす手段を考え、投資などをするでしょうか?
それとも、ただ3億円を娯楽に浪費して終わるでしょうか?
成果は努力で掴んだものか?
もったいつけた書き方になってしまいましたが、この記事に結論めいたものはありません。
単に考えてみたかっただけ。
そして教育業界で子供たちと日々接する身として、僅かかもしれませんがこの記事を読んで下さった方にも、少しだけ考えて欲しかっただけです。
作中では事件の真相を追う刑事が、ネガたちのことを調べる中で子どもの貧困の現実を突きつけられます。
この刑事も決して裕福な家庭で育ったわけではなく、それでも苦労して今の地位を形成した自負を持っていました。
その刑事の印象的な独白が
この独白は平成31年の東大の入学式での上野千鶴子さんの祝辞を彷彿とさせます。こちらも一部引用します。
僕は幸いなことに今やりたい仕事ができていて、割と日々を楽しく過ごしています。
そのために努力もしたし、リスクも冒したとは思います。
ただ、こういう言葉を聞くと
本当に成果は努力で掴んだものか?
は大変疑わしく感じます。
ちょっと暗い感じの記事になってしまいましたが、こういう視点で自分の人生を捉え直してみるのも良いのではないかと思い、書いてみました。
『希望が死んだ夜に』を読むと、貧困の連鎖に絡め取られた子供たちの絶望がよくわかります。
興味のある方は是非読んでみて下さい!
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