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鍵盤の日!特級からピアノの歴史を感じてみよう(特級レポ2023)

特級セミファイナルが待ち遠しい寿すばるです。突然ですが、クイズです!
ピアノの鍵盤数っていくつか、ご存じですか?

1. 54鍵
2. 61鍵
3. 73鍵
4. 88鍵
5. 97鍵

さて正解は……
…………

答えは『全部正解』なんです!

ピアノは88鍵でしょ、って? そうなんです、現在のピアノは88鍵。
ピティナのコンペティションでも88鍵のピアノが使用されていますね。
でもこれ、ほんの100年くらいのことなんです。

ショパンやリストが活躍していた19世紀頃でさえ、ピアノの鍵盤数はまだ88鍵ではなく、シューマンと妻クララの結婚祝い(1840年)に贈られたピアノは80鍵(グラーフ社製)、ショパンが最期(1849年没)まで使っていたというピアノは82鍵(プレイエル社製)、ショパンより40年ほど長生きだったリストが愛用していたピアノは85鍵(ベヒシュタイン社製)という具合。

と、いうわけで、鍵盤の日(8月8日で88鍵)にちなんで、鍵盤数の変化という視点からピアノの歴史を辿ってみたい! と思います♪



ピアノはいつ誕生したの?

ピアノの誕生は1700年頃とされ、作ったのはフィレンツェの楽器製作者であるバルトロメオ・クリストフォリ。スピネットやチェンバロなどの鍵盤楽器を製作しながら、それまでの鍵盤楽器とは仕組みの違う4オクターブのピアノを発明したのがはじまりでした。ただしこのピアノは残念ながら現存しておらず、人づてに文献の中に残るのみ。

現存しているピアノは、彼が1720年代に作った3台で、49鍵から54鍵の鍵盤を備えています。このサイズ感はチェンバロと同等で、音色もチェンバロに近い音がしたのだそうです。
参考:メトロポリタン美術館(英語)

1720年頃に作曲されたJ.Sバッハの『半音階的幻想曲とフーガ,BWV903』を山田ありあさんの演奏で見てみましょう。(ピティナ・ピアノ曲事典

88鍵の中央部あたりだけを弾いていますね。これが49~54鍵の時代の音域でした。だけど今より30鍵以上も少ないとは思えない程に完成された音楽ですよね。
バッハや当時の作曲家たちがオルガンや管弦楽を作曲したり演奏していたことを考えると、彼らの頭の中では音域も音の種類も54鍵では到底収まりきらない大きな音楽が鳴っていたのだろうなぁと思えてきます。

参考までに、特級ファイナルの会場にもなっているサントリーホールのオルガンは9オクターブとのこと! 4オクターブどころじゃありませんね!
バッハはピアノが88鍵あったらどんな曲を作ったのでしょうね。
参考:サントリーホール


古典時代は『チェンバロ兼用』から『ピアノ用』へ

古典の作曲家に分類されるハイドンやベートーヴェンは、増え続けるピアノの鍵盤数とともに『チェンバロ兼用』から、『ピアノ用』の曲へと音域を広げていました。

1784年に出版されたハイドンのソナタ集から、小野田有紗さんの演奏で『ソナタ 第54番』を聴いてみましょう。
ピティナ・ピアノ曲事典

5オクターブに広がった音域をめいいっぱいまで使い、当時の最高音(88鍵だと右から12番目の白鍵)が特徴的かつ効果的に使われています。

1805年のベートーヴェン『ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第4番』は、ベートーヴェンがエラール社製の5オクターブ半の音域を使って作曲を始めた頃の曲です。
鈴木愛美さんの演奏をお楽しみください。
ピティナ・ピアノ曲事典

どっしりした低音と右手のきらびやかなパッセージが、新しい楽器で作曲する楽しさを物語っているようですね。


ロマン時代は6オクターブ7オクターブと共に

音域の拡大はまだ止まず、1810年頃には6オクターブを越え、数年後には低音は低いド(88鍵では左から3番目の白鍵)まで出せるようになります。ここでリストが1848年に作曲した『巡礼の年 第1年「スイス」 「オーベルマンの谷」』をご覧ください。演奏は嘉屋翔太さんです。
ピティナ・ピアノ曲事典

4オクターブの頃から順に聴いてくると、これまでになかった大地を揺るがすような低音や、洞窟の中で水滴が落ちるような高音が鮮やかですね。


88鍵盤になったのはいつから?

では、いつから『ピアノは88鍵』になったのでしょうか。
1800年代の後半頃には音域の広さだけでなく、鉄のフレームや鋼鉄弦の登場などによって更に多彩な表現が可能になりました。

その技術革新に伴うように、1860~70年台にはスタインウェイ社が88鍵のピアノを作り始めています。この年代だとリストも存命で、リスト音楽院には晩年のリストが所有していたベーゼンドルファー社製の88鍵ピアノが展示されています。
参考:メトロポリタン美術館リスト音楽院(英語)

しかし、世間では88鍵より少し少ない80~鍵のピアノが既に普及していたことも影響してか、1900年に作曲されたラフマニノフの『ピアノ協奏曲 第2番』では、まだ88鍵の最低音であるラの音は出てきません。
ピティナ・ピアノ曲事典
三井柚乃さんの演奏

プロコフィエフやバルトークくらいの時代になると88鍵の最低音『ラ』が様々な曲に登場するようになっていきます。1917年プロコフィエフ作曲の『ピアノ協奏曲 第3番』(ピティナ・ピアノ曲事典)を小野寺拓真さん、1926年バルトーク作曲の『ピアノ・ソナタ,BB88,Sz80』(ピティナ・ピアノ曲事典)を神原雅治さんの演奏でどうぞ。

ラフマニノフも第2番では使いませんが、上記のプロコフィエフやバルトークよりも早い1909年作曲の『ピアノ協奏曲 第3番』では88鍵の最低音と最高音が出てきます。
2020年特級グランプリ尾城杏奈さんの駆け抜けるラストをご覧ください。
ピティナ・ピアノ曲事典

こうなると88鍵では足らないのでは? というくらい。振り返っても、どの時代の作曲家もその時代の最大の鍵盤数を生かして作曲していますよね。


88鍵より多いピアノってないの?

あるんです!

有名なものだと、ベーゼンドルファー社製の『インペリアル』という97鍵のもの。
このピアノは、ブゾーニの依頼から開発されたもので、バッハのオルガン曲などを編曲するときにもっと低い音が必要だったそう。
確かに、オルガンの足鍵盤だともっと低いですからね。

余談ですが、ピアノの鍵盤数について調べていたら『3倍ピアノ』なるものを見つけました。鍵盤数なんと264鍵!

コーヒーのプロモーションのようで、細~い鍵盤が並んでいてなかなか攻めたビジュアル。ピアノは1つの音に対し2~3本の弦を使う構造なので、おそらくそれを1本ずつにして微分音(半音よりも狭い音程)に調律しているような音がします。

すごい生々しい弦の、すごいハンパな音……。苦手な方はスルー推奨ですが、面白がれる人なら1回くらい見てもいいかも。私は……1回でいいかな(笑)でも微分音に調律した音楽は『マイクロトーナル・ピアノ』や『マイクロトーナル・ミュージック』といって、ちゃんとジャンルがあるんです。これもそのひとつといえるのかも。
音楽の懐、深いなぁ。


おまけ:ピアノの本当の名前は……

ちなみに、私たちが日常でピアノと呼んでいるこの楽器の本当の名前は『クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ』(弱音も強音も出せるチェンバロ、の意)で、はじめてこれを知ったとき、私は『リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ』(@天空の城ラピュタ/シータの本当の名)みたいだなって思いました(笑)

でもピアノを発明したクリストフォリに関する文献によると、彼は『Arpicembalo』(アルピチェンバロ)って名付けたかったみたいですよ。

もしクリストフォリがアルピチェンバロの名をもっと積極的に広めていたら、今日の私たちは88鍵のこの鍵盤楽器を『アルピ』と呼んでいたかもしれませんね~♪


セミファイナルまであと10日を切りました!
コンテスタントたちは、この間に世界でまだ誰も弾いたことがない新曲の楽譜を手渡され、短い期間で仕上げるという試練も待ち受けています。

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座席数767席の親密な空間で彼らの音楽を聴いて、肌で感じて欲しいです!

2023年8月18日(金)10:30開演(10:00開場)
会場:第一生命ホール
出演:2023年度セミファイナリスト7名
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セミファイナルのライブ配信はこちらです♪

(写真提供:ピティナ/YouTubeスクリーンショット:寿すばる)

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