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下水道事業債務拡大による自治体破綻について考える

基本的に水道や下水道はじめ公共事業というものは赤字前提で運営されているようなところがあるが、許容できる赤字の程度というものがあるのも事実だろう。赤字があまりに大きい場合、それはやがて自治体破綻につながるというのは、理屈としては当たり前の話である。

あまりにも当たり前すぎるインフラのため、普段は意識すらしないが、
本当に大切なものは失ってからはじめてその存在に気付くということだろうか。

正直、下水道が破綻するということが信じられない部分がある。
しかしデータを見ていくと、この先、そう遠くない将来、下水道、浄化槽は確実に破綻する。
トイレが流せない日がやってくるということだ。
通常運転の場合でも、この先長くはもたない。
もし大きな災害、つまり大きな地震が起きた場合、その瞬間、下水道は使えなくなり、しかも復旧は絶望的である。
絶望的というのは言葉が正しくないかもしれない。
復旧はしないと言ったほうが正しいだろう。

・1億2000万人が使うインフラ

下記のグラフは令和4年度(2022年度)の環境省 一般廃棄物実態調査の資料をもとに作成したものである。
この資料によると、公共下水道を使用している人口は約1億人、合併浄化槽、みなし浄化槽を使用している人口は約2000万人いる。
日本に住む人の1億2000万人、ほとんどの人は公共下水道か浄化槽を使用しているのだ。

・景気対策としての下水道事業

この記事によると、バブル崩壊後、景気対策として多くの自治体で下水道事業を行うのがちょっとした流行りだったようだ。

道路やダムなどの土木工事を伴うインフラは高度成長期、バブルの時代にかけて整備されてしまっていたため、土木作業を行う会社の仕事がなかったところ、目をつけたのが下水道事業だったようだ。

下水道は道路やダムと違いすでにある道路の下を通すため、用地買収にかかる費用、手間がない分、施工業者に落ちる金額が大きい。
また下水道配管は水道管よりも何倍も口径が太く、地下の深い位置を通すため、掘削量が多いため、同規模の水道配管と比べると配管の敷設工事費用が3〜4倍になるそうだ。
下水道管はある程度は自然勾配で流すが、それだと限界があるため、ポイントでポンプアップしないといけないため、そのためのポンプ設置費用、維持管理費もかかる。それがバブル崩壊後、仕事が少なかった地元の土建業者のちょうど良い仕事となった。
しかも、一度設置されてしまえば、メンテ費用もかかる。
生活インフラだから予算が削られることはまずない。
そのため浄化槽で十分だった地域、下水道が必要ない地域にまで下水道が広がった。おそらくそのほとんどは赤字を前提として始まったものだろうと予測できる。

その結果が下記のグラフである。

2000年から2022年の間で、公共下水道利用者は約3000万人増加している。
この公共下水道の増加は景気対策として行われた下水道事業によるものだろう。つまり、そのほとんどは赤字であるということだ。
そしてこの公共下水道の増加は取り返しのつかない副作用を同時に生んでしまっている。
浄化槽の減少により、浄化槽に携わる仕事をする人が激減したのだ。

浄化槽を設置に関わる国家資格、浄化槽設備士という資格があるのだが、
2015年のデータでその資格保持者の平均年齢が62歳、
浄化槽の保守点検に関わる国家資格、浄化槽管理士という資格については、
2016年のデータで平均年齢が56歳となっている。
最新のデータでは一体どうなっているのだろうか。

当然、新しく資格を取得する人もほとんどいない。
令和5年度の合格者数は下記の通りだ。
 ・浄化槽設備士 合格者数 181人 合格率23.2%
 ・浄化槽管理士 合格者数 316人 合格率30.9%

ちなみに、令和5年度の司法試験合格者は1781人 合格率 45.3%である。

トイレは流せなくなるけど、裁判はできる国というのが日本の未来だ。

・公共下水道整備計画は各地で休止が続出、しかし・・・

いくつかの自治体で公共下水道の赤字が見過ごせない金額になってきているようだ。
公共下水道の整備計画の休止が続出している。

今年の3月6日の房日新聞に、お隣の館山市の下水道料金改定と下水道整備計画休止、についての記事があった。

この記事によると、館山市の下水道事業というのは毎年3億~5億円の赤字が出ており、さらなる赤字につながるということで数年前から事業区域拡大も休止しているとのことだ。

館山市の下水道事業は平成10年、1998年に開始されている。これは時期的に見ても景気対策の下水道事業素のものだろう。
もともとの計画区域は450ヘクタール(4.5km2、これは2kmx2kmよりちょっと広いくらいの区域)元々の計画自体、かなり小規模である。
現状、209ヘクタール(2.1km2、 2kmx1kmくらい)までしか整備されていない。しかしこれ以上拡大予定はない。なぜならさらなる赤字を産むからだ。
現在の館山市の公共下水道利用人口は4738人、209ヘクタールで4738人である。
公共下水道というのは人口密度が1haあたり、40人以上でないと採算が合わないと言われている。

館山市の場合、23人/ha、もともとどうやっても採算が合わない、そういうものだったのだ。

館山市の人口は約4万5000人、地理的にも半島の先端であり、小規模の市で過疎化が進む地域でもある。こういった地域で景気対策として行われた公共下水道はそう遠くない将来、廃止になるだろう。

しかし、下水道事業休止はこのような小規模な都市に限った話ではない。
人口81万人の政令指定都市、新潟市でも公共下水道の整備を休止しようとしている。


下記、上記YouTubeを一部切り出した資料である。

新潟市における総合的な汚水処理の推進説明動画(YouTube)

最初に断っておくと、この資料の地図は新潟市のものではなく、説明用に分かりやすく便宜上作成した地図だそうです。

黄色い線が現在整備されている公共下水道管であり、赤線で囲まれた部分が公共下水道を使用可能な地域である。
それ以外の緑色のエリア、左の紫色のエリアは今後下水道を整備しないということだそうです。

この地図を見るだけでどれだけ切羽詰まっているのかわかるだろう。
紫はまだ分かるが、緑色のエリアは道路や水路が障害となり、下水道を整備が困難ということで下水道は整備しないということだ。
これは説明用の資料ということだが、実際の現場もこうなるだろう。

下水道が整備されないということは、合併浄化槽で対応するしかないのだろうが、それは無理な話である。浄化槽を設置する人も保守点検する人ももういないのだ。バキュームカーを運転する人はいないのだ。

先ほど、公共下水道の増加により、浄化槽が減少したため、浄化槽に携わる業務を行う人が激減したと書いたが、仮に下水道が増えてなくても、浄化槽に携わる人の数というのは激減しただろう。そういうものなのだ。
現在の流れだと下水道が減少し、浄化槽が増えることになると予測されるが、浄化槽に携わる業務を行う人が増加するとは思えない。

結局、下水道にしようが、浄化槽にしようが、先はあまり長くはないということだ。

トイレは流せなくなるけど、裁判はできる国というのが日本の未来なのだ。

・都市設計の基本は上水道と下水道の整備である

大げさな話だが、文明というのは例外なく川沿いで発祥している。
都市設計の基本というのは上下水道の整備であると言っても過言ではない。

身近な話に戻ると、下水道が破綻するということは、その場所に人が住めなくなるということだ。
まあ、そうなる前には自治体が破綻しているだろうが。

にわかには信じがたいことだが、事実を一つ一つ見ていくと、下水道破綻というものがかなり現実味を帯びてくる。

通常運転でこれなのだから、大きな災害、つまり大きな地震があった場合、その時点でドボンである。

しかし、安心してほしい。裁判はできる。

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