「ライフ」 - 善悪のあわい、決着しないことこそが人生
★★★★★
俳優陣が豪華だなぁと心惹かれて見始めたドラマです。序盤から「秘密の森」に似た雰囲気を感じたのはチョ・スンウが出ているからかと思っていましたが、なるほど脚本家が「秘密の森」を書いた作家さんということで納得しました。
物語は救命医として働くイェ・ジヌ(イ・ドンウク)の務めるサングク大病院に、ある日親企業からク・スンヒョ(チョ・スンウ)が社長として赴任してくるところからスタート。時を同じくして父のように慕っていた院長のイ・ボフン(チョン・ホジン)が副院長の家で転落死を遂げます。企業のように病院を作り替えて行こうとするスンヒョに反発するジヌは様々に抵抗を試みる中、一方では院長の死の真実も気にかかり…。
冒頭から様々な要素が絡みあって、何が本筋か曖昧なため、観ている側は自分の掴んでいる綱が本当に頂上に続いているのか分からないような不思議な気分になります。この感覚が「秘密の森」にとても似ていました。
ジヌには幼い頃に事故に遭い下半身付随になった弟のソヌ(イ・ギュヒョン)がいます。ソヌもまた医者であり、自分を必死に守ってくれるジヌに対して罪悪感を持つかたわらで、ふたりの間には揺るぎない絆があるように感じられます。
ですがあらゆる登場人物の善悪、そして人間関係を、絵具を手で擦るようにぼかしてしまうのがこの脚本家の面白さだと思います。どうやらソヌはジヌの同期の小児科医、イ・ノウル(ウォン・ジナ)に想いを寄せており、となるとここはもしや三角関係なのか…?とさらに新たなラインが物語に見えてくるのです。
そうして話が進むにつれて無数の糸が散らされていき、果たしてこのドラマは最後に収束するのだろうかと不安すら覚えるのですが、ラストはまた味のある纏め方で物語はあるべき場所へと着地します。
いかんせん面白いのは確固たる悪役やヒーローが存在しないこと(最後まで嫌な奴はいますが)。ク社長は初めこそ不快極まりない雰囲気で登場してきますが、人間味もあれば見せない優しさもある。かたや主人公のジヌはスペックで言えばめちゃめちゃ完璧ですし、終始かっこいいはかっこいいですが、どこか無鉄砲で詰めが甘いところも出てくる。その他のキャラクターも「悪役なのかな?」と思わせておいて、最終的にはみんながみんな、それぞれの利害の中で落とし所を掴んでいくようになるのです。
現実の世界はむしろそういうものなのかもしれません。絶対的に善い人も悪い人もおらず、主張のブレない人もいない。キャラクターが明確に定まっていてその中で喜怒哀楽を表現できる人もいない。そうした人間の多面性が、ドラマという型の中でも違和感なく描かれていることが総じてこの作品を味わい深いものにしているのです。
結末がいかにも結末らしいものではないのもまた然り。挙がっていた問題が全て解決してめでたしめでたし、なんて瞬間は普通の生活の中には決して訪れません。このドラマもまたドラマだからと言ってそんなエンディングは求めず、解決しないことはそのままに、けれど未来に繋がる変化が生まれたことは分かる、そういう場面で終わっていきます。ラストシーンはずっと眺めていられるような美しいものでした。
ドラマに何を求めるかによりますが、ごく普通のごはんとお味噌汁とおかずを食べた夕飯のあとのような、日常的な幸せが後味に残ります。自分の人生と照らし合わせて重ねたときに、染みる部分がいくつもある。観ていてそう感じる作品です。