「MIU404」 - 感性を鷲掴みする匙加減
★★★★
随分と久しぶりに真面目に全話観た日本のドラマでした。
私も御多分に漏れず、野木亜紀子さん脚本の作品が大好きです。「空飛ぶ広報室」「重版出来」「アンナチュラル」あたりで好きなドラマの上位が埋まってしまいそうなので、「MIU404」も楽しみにしていました。
野木さんの作品はどれも人情に満ちていて、大きなどんでん返しというよりはちょっとした驚き、「そんな角度から光をあてるんだ」と思わされるエピソードごとのクロージングに泣かされることが多い気がします。
MIUもまた、そうした瞬間がたくさんあるドラマでした。
菅田将暉の登場時はシンプルに度肝を抜かれましたが、個人的には村上虹郎の出てくる回の終わりと、ハムちゃんを助けに行く回の井戸のシーン。どちらも癖になるほどググッと刺さる、染み渡るような切なさに涙が出ました。脚本の存在の大きさというか、ドラマは決して役者が作るものではなく、企画と脚本と演出の中に役者が生きているものなのだと思わされます(韓国の俳優のコン・ユさんが、役者は作る側ではなく作品の一部、といった趣旨のコメントをされていたことがありましたが、それがなんとなく分かりました)。
もちろん、このドラマはキャスティングもちょっと他にない力強さがあるというか、例えるなら抜群に強いスポーツのチームのような組織力を感じさせる面々だった気がします。綾野剛、星野源、菅田将暉が並ぶだけでもエースが渋滞していて圧倒されそうなのに、鈴鹿央士、岡田健史といったスーパールーキーが思う存分に存在感を発揮し、脇を固める麻生久美子と橋本じゅん、生瀬勝久といった顔ぶれが絶対にゴールを割らせない安定感を見せる。もちろんキャスト以外もパズルのピースを嵌めるような隙のない布陣で。というか星野源が主演のドラマの主題歌が米津玄師というのはちょっと贅沢が過ぎて脳がバグりそうだなと思いました。
攻守のバランスや経験値の多様性が絶妙で、横の繋がりも厚そうですし、そうした組織としての強さをベースに、物語とともに全員の演技がパワーアップしていき、なんというか、表現したい世界観のイメージが最終的にぴったり共有されていく、そんな感じです。
正直、全話を通しての物語が何かずば抜けていたかと言われたら、そういうわけでもない気がするのですが、とにかく丁寧に積み重ねられた物語が最後にキレイに完成する、その世界観を誰ひとりとして損なわない。何のと言われると分からないですが、何かしらの「集大成」のような印象を受けました。
伊吹と志摩のバックグラウンドがもう少しディープに掘り下げられても面白かった気がしますし、久住は最後まで謎のまま終わるわけですが、久住の闇の深さに対して伊吹と志摩があくまでこちら側の岸に立っているという相対性だけでも充分なのかもしれません。
いずれにしろあらゆる「塩梅」がすべて、職人の極上の仕事に感じられました。主題歌は何度も味見しては味付けを直したような、少しも重たくないのに、この瞬間にこのイントロが鳴ることで一気に心が解放される、その一点を突きにくるために煮詰められたような楽曲。視聴者の感情の起伏までも計算されています。登場人物たちは傷を負って、向き合い、癒されていくのですが、それもまた押し付けがましくなく、時間の経過とともになのです。その過程に観ている側もまたいつの間にか癒される。多分、その緩やかに感性を掴まれる感覚がやみつきになるのでしょう。「アンナチュラル」も何度も繰り返し観てしまうドラマですが、MIUもそうなりそうです。