「38師機動隊(元カレは天才詐欺師)」 - マ・ドンソクとソ・イングクの痺れるバランス
★★★★
"痛快"を全力で表現するようなドラマ。日本での配信用にタイトルとメインビジュアルが改変され過ぎだと随分と話題になっていましたが、邦題(元カレは天才詐欺師)は確かにかなり実態に即していないものになっていますね。恋愛要素も否定はしませんが、恋愛ドラマとして昇華されるストーリーではまったくありません。
もちろん、ヒロイン的役割を担うスヨンの可愛らしくも芯のしっかりしたキャラクターは魅力的なのですが、とにかく税金を徴収するのがお仕事の公務員マ・ドンソク(ガタイがいいおじさん)と軽妙洒脱な詐欺師のソ・イングク(腹の読めないイケメン)のバディに尽きる作品。
小物から大物へと3段階に標的を移して詐欺を仕掛けながら進んでいく物語は構成が緻密でありながらも小難しすぎず、程よい間隔でタネを明かしては観る側を気持ちよく裏切って行ってくれます。この返し縫いのようなどんでん返しがとても巧い。詐欺がテーマなだけあって、誰のどれが本音なのか分からず、視聴者をそれと気づかないうちに騙すことへの意識が細部まで行き届いている、そんな印象を受けました。タネ明かしのシーンで流れる音楽がだんだん気持ちよくなってきます(笑)。
そしてソ・イングク演じるジョンドにはもちろん詐欺師になるに至った背景があり、次第に見えてくる彼の人間性もまた面白みに溢れています。一方のマ・ドンソク演じるソンイル、マ・ドンソクというとイメージはどうしても武闘派なのですが(先に「バッドガイズ」を観ていてもちょっと面白いかもしれません)、このドラマではむしろ頭を使うのがメイン。いつも少しどこを見ているか分からない目でどこか自信なさげな姿を見ていると、「こないだの映画では素手でゾンビを殴り倒してたのに…」と演技の幅の広さに思わず唸ってしまいます。ですが情に厚く、たぎる正義感を秘め、一見不器用で詐欺の道ですらクソ真面目に入っていこうとするものの、ジョンドとあれやこれやプランを練ることを実はすごく楽しんでいる様子が、なんだかとても気分の良いキャラクターでした。あとソンイルの何がなんでも決め台詞を言うところはとにかく可愛い。
ふたりが仲間たちと仕掛ける詐欺はどれも手が凝っていて(多少力業な部分はご愛敬)、「詐欺とはかくもスマートであるべきもの」といわんばかり。いつだって綱渡りしている分、常に奥の手があって、臨機応変に道筋を変えていくテンポの良さは観ていて飽きません。
最後はややあっさりして感じますが、話はキレイに着地して、ほんの少しの寂しさが漂う不思議な余韻を味わえます(ラストシーンのちょっとした遊び心は個人的にど真ん中だったので「おおっ」となりました)。大筋は勧善懲悪の痛快劇ですが、主役ふたりが心を通わせていく過程がやたらやみつきになるので、続編があればぜひ観てみたい作品。それにしてもマ・ドンソクとソ・イングクというバランス、つくづく絶妙なのかもしれません。