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仙台駅から帰れなくなった。

前日に折坂悠太さんのコンサートを楽しみ、美術館みたいなクラシカルホテルに泊まっていた。

朝、早めにチェックアウトをし新幹線の改札前に差し掛かるとすごい人集りができていた。

テレビカメラの撮影
駅員に尋ねる人の長蛇の列
ただただ立ち尽くす人々の群れの中

東京の駅でこうなっているのは何度かニュースで見たことがあるけど、まさか8年振りくらいに乗った帰りの新幹線で自分がこうなるとは夢にも思わなかった。

家を出る直前に生理になってしまって今日は特に腹痛がひどかった。
早く家に帰って休みたかったのに。

新幹線がいつ再開されるかわからなかったので持っていた切符はキャンセルして高速バスを待つことにした。今考えるとこの選択が甘かったのかもしれない。

直通のバスはなかったので盛岡行きのバスに乗って、途中で乗り換えることになる。

重たい身体を引きずって歩き、ようやく着いた盛岡行きのバス停で、長蛇の列になっていた。
列の前の方に並ぶおばさんがテレビカメラのインタビューを受けている。

窓口で西口発と東口発の2種類のバスがあって、東口発のバスはその後西口を経由するから満席だと乗れないので東口に行って下さいと指示された。

正直、もう歩けなかったけど一刻も早く帰りたかったから本当にこれが最後だと思って東口まで歩いた。

東口に着いたらみんな立って何時間も待っていた。

一時間に一本。これに乗れなかったら次。
またそれに乗れなかったらそのまた次、というようないつ来るかわからない循環がすでに出来上がっていた。

1、2時間くらい待合室に座ってそれを眺めていたけど、ついに座ってるのも限界になった。

十三時過ぎ。
そろそろ新幹線も動くと聞いたけど、きっとそっちもまたこんな風に並ぶんだろうなと思った。

ただただ、もう横になりたかった。

目の前の大きな建物の壁に大きくネットカフェの文字が見えた。

もう、ここでいい。休んでから最終で帰ろう。
最終で帰れなかったらその時どうするか考えよう。

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インターネットカフェを出ると空はもう真っ暗で、街灯のともった仙台駅東口は夜の街にがらりと雰囲気を変えていた。

昼間はあんなに人が並んでいたバス停も5、6人程度になっていて窓口はすでにシャッターが閉まっていてもう誰もいなかった。

私だけがずっと竜宮城から帰ってきた時のおじいさんのような気持ちだった。

盛岡行きのバスが到着すると、意外と人が並んできてこの人達ももしかして私と同じ気持ちなのかもしれない、と思った。

高速道路から遠くの街の点々とした光が見えている。
まるで今、乗っている乗り物は私たちを乗せた銀河鉄道のように思えた。

もうすぐ帰れるかもしれない。そう思いながら盛岡まで向かっている。

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今朝、ホテルを出る前も
インターネットカフェの真っ暗な部屋にいた時も
ようやく乗れた盛岡行きの高速バスの中でも

たまたま持ってきた燃え殻さんの日記みたいな本を読んでいた。

今のやるせない気持ちとか
見出し始めた少しの希望とかを文章に投影させることでいまの私は癒されていた。


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