創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」 47話 恋人たちはノマド .af(アフガニスタン10)
46話のあらすじ
アフガニスタンの地で、火星滞在体験の話を子どもたちや大人のひとびとに伝え終えたジョニーと絵美は、オフタイムの休みをカブールの町で散策することにした。
縦長の植物工場、透明な壁の世界樹ビルが林立し、無数の水路に水車が回る美しい町をふたりで歩く。地元産のひよこ豆のスープをいっしょに食べた思い出に、そのお店で買ったお土産用のペアカップとスプーンが残るのだった……。
47話
場所: 地球、アフガニスタン(ドメイン .af)
記録者: 絵美(エミ) マイジェンダー: やや女性 19才
出身地: 日本 趣味: ネコとたわむれること
ふたりで食べた思い出の、イスラム様式の綺麗なカップとスプーンをお土産に、あたしとジョニーはカブール空港へと戻ってきた。
『お帰りなさい、ジョニー、絵美』
大天使ガブリエル……ジブリ―ルさまが、真っ青な空の下でふわりとスズメ柄の翼をはためかせ、浮いている。
その隣には、アラビア衣装に身を包んだ、アフガニスタンの母と呼ばれる詩人のナーゾ・アナーさんもいっしょだ。衣装の中から見える、ナーゾさんの瞳もどこか優しい。
そして、中村哲さんが残したマドラサとモスクまで車で連れて行ってくれた運転手のガブリさん。あたしたちが帰ってきたのを見てマルハバン、やあ、とアラビア語でナイスな笑顔を見せてくれた。
あたしたちのオフタイムを、大天使さまも、ナーゾさんも、ガブリさんも気遣って、このカブール空港で待っててくれたんだね。
「ただいま帰りました、ジブリ―ルさま、ナーゾさん、ガブリさん! ふたりの時間を取らせてくださって、ありがとうございました」とあたし。
「もっと滞在したくなるくらい、このアフガニスタンは素敵なところでした、ジブリ―ル、ナーゾさん、ガブリさん」
ジョニーも満足そうに笑う。
うん、先のアラブ首長国連邦のオフタイムはふたりでスキーの予定だったけど、新しく守護者になった200年前の火星探査機アル・アマル君、マーズホープオービターの望みを叶えていっしょにスキーを滑ることになったから……。まあ、それももちろん、ものすごーく貴重な体験だったけど。
今回のアフガニスタンのオフタイムは、ふたりの時間をすごーく楽しめたよね、ジョニー!
「もう次の地へ飛び立つのか。またいつでもおいで」とガブリさん。
「はい。アフガニスタンの夜空にまたたいていた、あの満天の星を、あたし、きっと一生忘れません、ガブリさん」
「僕もです。……その、あの夜は歌でのフォローをありがとうございました」とジョニーが恥ずかしそうにガブリさんへお礼を告げた。
そうそう、マドラサとモスクの外で、星を眺めた夜にふたりでちょっぴり親密になってたから、それが周りにバレないようにって、ガブリさんが気を利かせて歌を歌ってくれたんだった。それも一生、ぜーったいに忘れないよね!
「さればアッラーに讃えあれ、天を地を司り、あらゆるものを司るアッラーに……」
ガブリさんがコーランの一節を歌い出す。ナーゾさんが加わって、重ねられた歌声になる。
『天と地のいと尊きをその御身に受けたまう。これこそは全能にして全知のアッラーにあらせられたまう……』
ずっと聞いていたくなる旋律。あたしたちの旅立ちのために、歌ってくれていると思うと……イスラムの地は、ほんとに歌と祈りとが、生きることと深く深く結びついているんだね。
『この星の営みが、長く長くいのちとともにあるように……。その願い、このガブリエル、ジブリ―ルが確かに聞き届けていますよ。この先も良い旅を、ジョニー、絵美』
大天使さまが、そっとあたしたちのこの地でのお別れのときを告げてくださった。
「はい。ジブリ―ルさまも、ナーゾさんも、ガブリさんもお元気で!」
「グッバイ。また、いつか」
あたしもジョニーも、ずっとこのアフガニスタンにいたくなる気持ちをなんとか抑えて別れの挨拶に応じ、カブール空港の青い空に浮かぶ水素ガスの気球船、メタルクラッド飛行船へと続くはしごを登った。
(続く)
次回予告
メタルクラッド飛行船に戻ったジョニーと絵美は、火星の自然創生コロニーにいるふたりの上司と通信をする……。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりびりぶ の新しく生まれ変わるblogさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。