~神話・民話の世界からコンニチハ~ 3 アマビエさま
おはようございます。今日も気持ちの良い晴れ空になりそうです。
栄(は)えある三回目は! 怒涛(どとう)の勢いで、江戸時代の海に妖怪として現れ、このご時勢にふたたび降臨して疫病退治の神さまになろうとしている「アマビエ」さまのお話&インタビューです!
アマビエ: はよう、わらわのインタビューをするが良い!(ピカピカと体を光らせる)
すー: ええ!? いきなり来ましたね。さすがアマビエさま、押しが強い(笑) すでに皆さんご存知かもしれませんが、それでも一応順番として、お話のあらましを先にさせて頂きますね。
今回のお話
昔むかし、江戸も後の頃のこと。肥後(現在の熊本県)の海に、毎晩毎晩光り輝くものが現れました。肥後の役人がそれを調べに行くと、それは姿を現しました。それは語り始め「わらわは海の中に住むアマビエと申すものなり。この年より6年は豊作となろう。しかし病も流行る。早々にわらわを写しひとびとに見せるが良い」と申し伝えて、海中へと戻っていきました。江戸には、その姿が記された絵とともに話が伝わってきたそうです。絵には、ざんばらの長い髪、くちばしのような口、魚のひれのような耳、うろこに覆われた体、三本の足が描かれていました。
……お待たせいたしました。それでは、現代の不思議存在の大スターとなったアマビエさまのインタビューです!
すー: パチパチパチパチ!(拍手で出迎える)
アマビエ: なにとぞよしなにのう。
すー: さっそくですみませんが……。アマビエさまのお話は、ちょっとうがった見方で考えてしまうと、当時のお役人が小金稼ぎのために、アマビエさまの写し絵を売る目的で作った詐欺的なお話なんじゃないの!? とも思ってしまうんです。言い伝えの中では、病を調伏するとも言っていないし、これまではアマビエさまが登場するマンガでも、奇妙な妖怪としての扱いが強かったように思います。でも面白いことに、江戸時代の時点で、世界的にもわりとポピュラーな半人半漁のお姿が残っているので……本当に魚人が存在していたのかも……というロマンを感じます。
アマビエ: わらわはのう、ちと霊感の強い者に昔は姿を見せることができたのぞ。現代の宇宙人グレイのようなものかもしれぬな。しかし、わらわの思いとしては、ひとびとをなんとか救いたいと、ずっとずっと思っておったのぞ。
すー: そうして、世界中のひとびとがうちに巣ごもりしなければならなくなって、家で何かやれることないかなー、と考えるようになったちょうど今この時に、アマビエさまを描けば病から逃れられる、という言い伝えが瞬く間にインターネットを介して広がって……病魔調伏の大役を担うに至ったというわけですね。
アマビエ: わらわを描くのじゃ! そしてそれをひとに見せるのじゃ! さすれば描いた者、絵を見た者どちらにも疫病退散の御利益を約束しよう!
すー: そうメッセージを送られたら、そんなにお金がかかるものでもないし、不安な気持ちも落ち着くし、この未知の病気に対する恐怖を克服する方法としては最適ですよね。外国の人たちからは「日本ではそろそろコロナちゃんというゆるキャラの女の子が出てくるかと思っていたけど、アマビエとかいう妖怪が出てきて予想の斜め上だった」っていう評価らしいですね。確かに、なんでも女の子キャラにしちゃうのは日本の得意技ですけど。
アマビエ: コロナちゃんはさすがに不謹慎じゃ。わらわという存在がおるのじゃ、それで十分であろ。
すー: アマビエさまは「海女美絵」とか「天美絵」という漢字でもって表現すると、本当に今のアマビエさまの大流行に相応しいお名前になりますね。
アマビエ: 中には「アマエビ」と連想する者もおるがの。
すー: 世には「かっぱあまびえせん」なるパロディの創作写真も出てきていますね(笑) この気鬱な時代に、疫病退散のご利益と、絵を描くことによるアートセラピー、見た人への病気の蔓延に対する心理的不安を無くす効果、パロディも受け入れてくださる笑いとユーモアの伝播。いいことばかりです。江戸時代の最初の話はちょっと詐欺っぽい感じもして怪しかったんですけど、今ここではもう、妖怪じゃなくて神さまですよね。ありがたやありがたや。
アマビエ: わらわを信じよ! さすれば「天冷え」として、温暖化すら退散してくれようぞ~!
すー: マジですか(笑)そのサービス精神旺盛で、豪気なところが、ちょっと大丈夫かい? とささやかな疑問も起こるんですが(笑)ごめんなさい、私も最初に話を知ったときは、偶像崇拝をさせようとするアヤシイ妖怪っていうイメージでした。
アマビエ: 神々の世界を姿かたちにするということは、そこに邪(よこしま)な心や金もうけが目的となる危うさが生じてしまうからの。大切なのは、絵を描く者、見せる者、見る者の心じゃ。無心に祈りを込めて作る絵……絵だけでなく、あらゆる作品とは、上手い下手を問わずとても神聖なものじゃ。それがアートの始まりじゃ。祈りをカタチにするということじゃからの。そして、わらわの姿を描いた者がまず救われ、その気持ちを絵を見る者たちに広げてゆく。それは、目に見えぬこちら側の世界では、とても重要なことなのぞよ。
すー: 祈りがこもったものならば、それは上手い下手を問わず偶像ではない、ということなんですね。
アマビエ: 世界中に残る彫刻や壁画や絵画、建造物や、絨毯や……詩や歌や踊りや楽器や芝居や物語はの、祈りが残る大切なものじゃ。決して無くして良いもの、壊して良いものなど、本来は何も無いのぞよ。金もうけのための、邪念がこもった数珠や印鑑のような怪しいシロモノでなければの。
すー: 数珠や印鑑(苦笑) よく、お金もうけが大好きなアヤシイ宗教の傾向をご存知で。アマビエさまもそのひとつかと思っていましたけど、さすが神さまレベルの妖怪! 懐が深いですね。疫病退散、そして温暖化の歯止めまで! そこまでしていただけるのに、決してお金を払えとは言われない(笑)アマビエさま、どうぞこれからもよろしくお願い申し上げます。
アマビエ: わらわを信じよ~! (ピカピカとまた光って天に昇っていく)
すー: すごい……ほんとに神さまになっちゃった……。アマビエさま、どうもありがとうございました。
第三回 「~神話・民話の世界からコンニチハ~ 3 アマビエさま」は以上です。
すこしでも楽しんで頂けたなら、それに勝る喜びはありません。
ここまでお読みくださり、誠にありがとうございました。
次回予告
第四回はふたたびアフリカの、ベナンやギニアなどに暮らすフォン族の神話から。原初の母ナナ・ブルクさまから生まれた双子の創造神、マウ・リサさまがたのお話&インタビューを予定しています。どうぞお楽しみに~。
※ 見出しの絵は「『肥後国海中の怪』(京都大学付属図書館所蔵)」を参考に、私がパソコンのマウスを使って拙いながら模写したものです。二次創作を快く認めて下さり、デジタルデータとして公開されていなければ、ここまでアマビエさまが広がることは無かったかもしれません。京都大学付属図書館の方々、ありがとうございます。