人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 四十四話「退却」
登場人物紹介
織田信長: みなさんご存知、尾張生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発つ。
ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。
助左衛門: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋または呂宋助左衛門。
ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。
天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。
四十三話のあらすじ
聖パウロ天主堂の中で始まった、弥助と偽司祭ファルソディオの素手の武闘による勝負。闘いに慣れた弥助の圧倒的な有利になりましたが、偽司祭はいよいよ本性の鬼の姿を現しました。
四十四話
三本角の鬼と化したファルソディオは、両手を合わせてその中央に禍々しい色の気の玉を作り出した。
「うおりゃあああ!」
ファルソディオが手を突き出すと、気の玉が弥助をめがけて飛んで行く。
(……これは、ひとを巻き込む!)
弥助は動じた。彼の背後には信者たちの席が並んでいる。奴隷と見下していた弥助にボコボコにされたという恨みを胸に、自らを信じる者たちをも巻き込むことに躊躇の無い攻撃をファルソディオは決めたようだ。
「くっ……」
弥助は、禍々しい気弾を防御の構えで引き受けた。もろに圧がかかり、信者たちのあいだにガラガラと倒れ込む。座席で勝負を楽しんでいた信者たちは、逃げるどころか興奮し「ファルソディオ! ファルソディオ!」とより高らかに偽司祭の名を叫んだ。
「弥助兄さん!」
「兄貴!」
「弥助よ、無事か?」
見かねてジョアン、助左衛門、信長の三人が駆け寄る。
「はっはあ! さっきの勢いはどうした!? サムライよ」
ファルソディオが壇上で口角を釣り上げて笑っていた。
「加勢は必要か、弥助よ?」
「……この勝負は一対一だ、ノッブ」
「かように不利とあらば、我らみなで加勢し、闘うことも必要ぞ。目の覚めぬ信者どもも、この際は敵として良いではないか」
「だけどノッブ、それでファルソディオだけじゃなくて、鬼たちと信者たちがぜんぶ敵になったら、数が多すぎる。オレたちはここから出られないまま、負ける」
「かといって、あの化け物を相手におぬしひとりの力では万事休すじゃ」
そう、一行が迷っていると。
ガジャジャジャーン! と強烈な不協和音が、オルガンから聖パウロ天主堂のなかのすみずみにまで響き渡った。ファルソディオも、屈強な鬼たちも、信者たちもみな耳をふさぐ。
『さあ、今のうちに』
オルガンを鳴らす聖アントニオの思いが、一行にそっと伝わった気がした。
「よし、このうちに退却じゃ、弥助」
「……分かった、ノッブ」
四人は全力で聖パウロ天主堂の出口へと駆けた。
「音を止めろ、アントニオ!」
苦りきった顔でファルソディオが命じる。
「これはファルソディオ様、失礼を」
アントニオは慇懃に肩をすくめて詫びた。
「あのサムライたちを逃がしたな? ……まあ、いい」
フン、と偽司祭は鼻で笑う。
「ははは! 今のこの俺を倒したいのなら、大陸の五つの秘宝、大海の七つの秘宝を世界から見つけることだなあ!」
勝ち誇ったファルソディオの声が信長たちに聞こえた。負けて逃げた者を、天主堂の外まで追いかけようという気はないようだ。
日の光のもとへと出られたことに、一行はほっとした。
「媽祖殿のところへ一旦戻るとしよう」
「そうだな、ノッブ。いのちがあって、よかった」
「ほんとですね、弥助兄さん」
「ほんまや。お天道様が尊いわ~」
小高い丘を降りて、澳門の町の港にある媽祖の家へと、信長たちは向かったのだった。
(続く)
次回予告
媽祖さまの家へと戻ってきた信長公一行は、ファルソディオが告げた、彼をなんとかするための「大陸の五つの秘宝、大海の七つの秘宝」について聞いてみます。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりぴよまろさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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