創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」 45話 恋人たちはノマド .af(アフガニスタン8)
44話のあらすじ
アフガニスタンの新たな守護者として現れた、女流詩人のナーゾ・アナー、そして大天使ジブリ―ルや運転手のガブリとともに、ジョニーと絵美はマドラサとモスクに到着した。アフガニスタンのひとびとや子どもたちへ、火星滞在体験の話を伝えるために。
45話
場所: 地球、アフガニスタン(ドメイン .af)
記録者: 絵美(エミ) マイジェンダー: やや女性 19才
出身地: 日本 趣味: ネコとたわむれること
「……じゃあみんな、アフガニスタンのここの空から、火星を見てみましょう」
あたしは、輝きに満ちた瞳の子どもたちへ、そう提案した。あたしとジョニーの火星での体験談は、21世紀に中村哲さんが残したと伝わるイスラムの学び舎、マドラサのなかで今、語り終えたところだ。
子どもたちにも、まわりであたしたちの話をそっと聞いていた大人のひとたちにも、火星での体験がしっかり伝わったみたい。コミュニ・クリスタルのホログラフを使うのも便利なんだけど、じかに会って話すと、やっぱりあたしたちの伝えたい何かがより深く伝わることって、あるのかもしれないって思った。
あたしたちの火星滞在の体験。
地球の周回軌道まで宇宙エレベーターに乗って、そこから葉巻型の宇宙船でコールドスリープも使ったりして地球から3年をかけて火星へ。火星の宇宙エレベーターで、火星の地上へ。強い放射線が降り注ぎ、過酷な砂嵐の吹くところなので、それを防護し、屋外での調査の作業も出来る、車と人型との変形が可能なフロンティア・ロボに乗る。
その移動で、火星で暮らすための火星自然創生コロニーへ。みんなが集まる共用コロニーには、農場と植物園と淡水の人工の川が作られた、鳥さんやカエルさんや魚さんもいるパークエリア、商店街と住居が合わさったパサージュエリアがあって、パサージュエリアのデートでジョニーと食べた高級レストランのメインディッシュはゆでたまご、とかもまるっとお話ししちゃった。
子どもたちはあたしとジョニーの話を聞いて……。もしも火星へ行けるなら、ひとりで暮らせるドームホームで、コミュニ・クリスタルやドリームゲームを使いながら生活してみたい子。共用コロニーのパサージュエリアで、火星人チョコとかのお買い物をしてみたい子。フロンティア・ロボで火星の過酷な屋外を相手に、調査へ挑んでみたい子。それぞれのいろんな夢を話してくれた。
もちろん、やっぱり地球がいいや、って、地球のなかでお仕事をすることを選びたい子どもたちもいて。地元アフガニスタンの農業や、踊りや歌を継承したり、観光を推したい子。うちの真菜お姉ちゃんみたいに、宇宙で使える技術を身に着けて地球から宇宙のスペースデブリ回収とか、アフガニスタンにいながら地球や宇宙のどこかとつながって仕事をしてみたい、という子。神学生として、ガーディアン・フィーリングの技術について学びたいという子も。
みんなの夢が叶うよう、あたしも大いなるひとつの神さまや、ちいさな神さまがた……あっ、ここイスラムのひとびとの地では天使さま、守護者の方々にもそっとお願いしておいたよ。
夕暮れの火星を見ようと、みんなで外へ出たら、アフガニスタンの澄んだ空にはもうたくさんの星が輝き始めていた。
「あんなにたくさんの星が輝いているのに、ずっと住めるのは基本、地球だけなんだなあ。21世紀に核戦争や環境破壊や気候変動で星ごとダメになる、っていうことがなくてほんとに良かったよ。23世紀の今に暮らせているのは奇跡なのかもしれないな、絵美」
そうだね。隕石が落ちても、ブラックホールが突然やって来てもダメになっちゃうんだもの。よく昔の科学者が、地球もいつかは人間の住めなくなる状態になるから、火星への脱出を……なんて言ってたけど。火星はもっと過酷な環境で、23世紀の今の技術でさえ、将来火星に地球みたいな海と緑の大地を作れるようになるかなんて不明。
いつ何らかの理由で、すぐに終わるかも分からない地球が今日あることに感謝をして、大切に大切に生きものたちといっしょに暮らしていくことが大事だよね。宇宙のどこかに地球で暮らす年月以上のタイムスパンを逃げることなんて、できそうもないんだから。
「ずーっと、できるだけ長く、青いこの星が続くよう、大いなるひとつの神さまや、天使さまがたや、守護者の方々にお願いしたら、きっと奇跡は続くよ、ジョニー」
ほんとに、できるだけ長く。火星の不毛の大地だけでなく、アフガニスタンの峻険な岩だらけの山脈や、地球のあちこちに残る緑化も出来ない砂漠を体験すれば、地球の青さと緑とが、どんなに大切なものかを知るよね。
『……はい、絵美、ジョニー。その願い、確かに聞き届けましたよ』
パタパタとスズメ柄の翼を広げて宙に浮かぶガブリエル……ジブリ―ルさまが、優しく微笑んでくれた。大天使さまが聞き届けてくれたなら、うん、きっと大丈夫だって思える!
『我ら守護者もいるぞ、忘れるな。子らがどのような未来を作りゆくか、とこしえに見守ろう』
アフガニスタンの母、新たな守護者となったナーゾ・アナーさんも力強く答えてくれる。
「だって、ジョニー!」
「そうか……」
ジョニーがほっとした表情を浮かべた。
「あっ、あの星が火星だね!」
あたしは、びっくりするぐらい輝くアフガニスタンの夜空のたくさんの星のなかで、ようやくちっちゃな火星を見つけて指をさした。
「あんなに、遠くてちっちゃくしか見えないところの星まで、行って帰ってきたんだね」
「……うん。一番良かったのは、絵美と出会えてカップルになれたことだよ」
ジョニーがそっと、あたしにささやいた。わー、どうしよう、そんなこと直球で言われちゃったら、ふわふわなしあわせな気持ちになって、それこそ宇宙のどこまででも飛んで行っちゃいそうだよ??
「あたしもだよ、ジョニー」
遠くの火星を見つめて歓声をあげている子どもたちや大人のひとたちには聞かれないくらいの響きで、ジョニーに言う。
どこからか軽やかな音色が聞こえてきて、それは運転手のガブリさんの歌声だった。歌いながら、あたしたちふたりにサムズアップサインを送ってくる。
わ、バレてたんだ! もしかしたら、男のひとと女のひととのことには厳粛な文化に育っているイスラム圏のまわりのひとたちに、今のことがバレないように歌ってくれたのかなあ?
アセンション島ではキスをしたり、アンドラでは手を握ったり、をその土地ごとの守護者の方々を呼び出すために、儀式で見せてきたから、ちょっぴり慣れてきてたかもとは言ったって、こうやってバレちゃうと恥ずかしいね!
(続く)
次回予告
火星の体験をアフガニスタンのひとびとへ伝え終えたふたりは、カブールの町へ戻る……。
どうぞ、お楽しみに~。
見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりアウリンさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。