創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」24話 恋人たちはノマド .ad(アンドラ公国1)
23話のあらすじ
火星滞在の経験をじかにひとびとに広める仕事と、行く先々の土地でドメイン名とつながる新しい土地神さま……守護者を呼び起こす仕事を行い、水素ガスで空を駆けるメタルクラッド(全金属)飛行船に乗り旅をするカップルのジョニーと絵美。ふたりは、初仕事となったアセンション島にて、新しい女神のアセンションちゃんと西アフリカの海の神アグエさま、そしてひとびとに見送られて次の滞在先、アンドラ公国を目指したのだった。
24話
場所: 地球、アンドラ公国(ドメイン .ad)
記録者: ジョニー マイジェンダー: やや男性 18才
出身地: ブリテン 趣味: ネコとたわむれること
フランスとスペインの間、四角いイベリア半島の付け根にあるピレネー山脈の中央部からすこし東。小さな国アンドラは、山麓の中にぽつんとあるところだ。この国から西に100km行ったところには、ピレネー山脈中央部の最高峰アネト山 (3,404m)、第2位のポセッツ峰 (3,375m)、第3位のモン・ペルデュ (3,355m)などが並んでいる。
山の中とあって、23世紀の今もアンドラ公国には鉄道が通っていない。休日にはスペインやフランスから観光客がやって来るそのときには、電気や水素で走るルートバスや車を使うか、少人数専用の大型ドローンを専用駐車場に停める。
今回の僕らのようにメタルクラッド飛行船を小さなヘリポートに降ろすというのはとても珍しいことだったようで、その姿を見ようとするひとや、写真を撮りに来ているひとたちがいた。
万能通信アイテムであるコミュニ・クリスタルは、あらゆる場所を超えてその映像をホログラフで表すことが可能だし、ひとや守護者(ガーディアン)と呼ばれる神さまがたや、地球と火星の物流をすこし手伝ってくれるリトルグレイや、この第三次元には物質の肉体を持たない、意識体として存在するシリウス、アルデバラン、アークトゥルスなど宇宙人たちの姿を呼び出して会話をすることも出来る。
それでも、カメラという道具を使って、被写体を紙媒体に印刷し物質として残すことに価値を見出すひとびとがいて。僕がバレンタインデーに使ったメッセージカードはロンドンの街並みを描いた線画のイラストだったけれど、ロンドンの写真を使ったカードもちゃんと売り出されている。グレイ宅急便を使い3分での配達を地球や火星でやってもらえるようになった現在は、そうして写真を紙媒体に印刷したものへメッセージを手書きすることに、価値が出ている。瞬時にやりとりが出来るようになったからこそ、逆に手間と時間をじっくりかけたものを贈られたら誰でも嬉しいものだった、そういうことだ。
一般のひとびとには、まだコミュニ・クリスタルは浸透していないけれど、きっと全世界のひとびとがこのアイテムを利用するようになり、コミュニケーションをとることも仕事もそれで素早くホログラフでやれるようになったとしたって、意外に写真とか手書きとか、紙幣やコイン、そういうアナログなものには郷愁も出て、新たな価値が出てくるものなのかもしれない。
山の近くとあって、わりと強めの風が吹いている。ヘリポートに固定したメタルクラッド飛行船は、風を受け流す仕組みに最新の技術を使っているから、風船のように飛んで行ってしまう、ということはまず無いから安心だ。
『よく来たわね、ジョニー、絵美!』
頭の中に響く女性の声。はしごをつたって飛行船を降り、アンドラ公国の土に靴をつけて立つと、そこにはひとりの女性が立っていた。
「あ、ええと……」
『アンドラ公国の守護聖人でもある、マリアよ』
慈愛溢れる微笑みを浮かべる貴婦人、ママ・マリアだ!
「マリアさま! こんにちはっ」
はしごから降りてきた絵美も、女性に挨拶をした。
『ようこそ、アンドラへ』
ママ・マリアの歓迎を受けて、僕らはとても嬉しくなった。
(続く)
次回予告
ママ・マリアに連れられて、アンドラ公国の「メリチェイの聖母」の言い伝えが残る教会へ。そこで新たな「.ad」につながる守護者を呼び出す……。4月中旬ごろの投稿を予定しています。どうぞ、お楽しみに~。
※見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりTome館長さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。