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エッセイ|浅瀬の硝子Ⅵ_行きつけのカフェ

行きつけのカフェにいる。
田園調布の駅前にあるペリカンコーヒー。
飲み物も食事もスイーツも美味しく、店内はデザインが行き届いて雰囲気も良いし、中の席は埋まっていてもテラス席ならたいてい座れる。
今日もテラス席に座って、ラズベリーティーソーダを飲んでいる。夏のリップオイルのようなあざやかな赤。自然な甘みが美味しくて、すぐになくなってしまう。さっきまで食べていたバニラアイストッピングのシュガーバタークレープも、恋人から一口もらったエスプレッソシェイクも、思わず「おいしい」と声が出る仕上がりだった。

ペリカンコーヒーは私にとって初めての「行きつけのカフェ」だ。
実家にいた頃は、出不精なのもあり日常の中にカフェに行く習慣がなかった。高校時代の一時期「行きつけのカフェなるものが欲しい!」と言って放課後に友達を連れて学校の近くの(といっても、寄り道禁止の校則だったので、教師に見つかるのを警戒して一駅隣の御茶ノ水の)カフェでフロートを食べたりしていたけれど、それも三、四回のことだったと思う。ふつうのチェーンのカフェベーカリーで、ふつうのフロートだった。仲良しトリオの放課後の過ごし方としては、別に教室の机で話すのだって同じように楽しかったはずなのだけど。
高校のあいだ寄り道や塾通いでしばしば足を運んでいた御茶ノ水は大学に入るとすっかり縁のない場所になり、そのカフェベーカリーへも卒業してからは一度も行っていない。まだ同じ店があるのかも分からない。

そんなこんなで、恋人の家に引っ越してきて見つけたこのペリカンコーヒーが初めての行きつけになっている——といっても、思えばいつも外出好きの彼に手を引いてもらっていて、一人ではまだ来たことがない。出不精というか吝嗇家というか、そんな性格はなおっていないのだと思う。それでも、何を飲んでも食べても美味しいこの場所は確かに私のお気に入りになっていて、「引っ越したら通えなくなるのか」と予定もない転居のときを想像して心を寂しくするほどなのだ。

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