"事業において「中国特殊論」は危険である" -China Conference Vol.1 イベントレポート-
急激な勢いで成長を遂げ、世界の革新の中心になりつつある中国経済。SNSの普及によって購買行動が変わり、スマホシフトの先端を走る中国での消費のあり方は世界のスタンダードになっていくことが予見されます。しかし中国に多く存在する革新的なユニコーン企業の存在は、日本であまり知られていません。
そこで、スタイラーでは中国経済の最新事情に詳しい方をゲストにお招きし、知見を共有してもらうイベントを『China Conference』としてシリーズ化することとしました。
今回のテーマは「フードビジネス業界」。
ゲストは北京出身で、ゴールドマンサックス、外資系コンサルティング企業などを経た後、中国現地にてアパレルEC企業を2社経営・バイアウトした経験を持ち、現在は日本で飲食店向けにO2O決済サービス『Take Me Pay(https://www.takemepay.com/)』を提供している『日本美食株式会社』の董 路(Lu Dong)氏。
アジアを中心にニューリテールプラットフォーム『FACY(https://facy.jp/
)』を展開する小関との共通点は、「アジア×テクノロジー×金融」という複数業界を横断したキャリアを背景に持つこと。中国経済急成長の表側だけでなく裏側にも迫りました。
成長を続ける中国経済
中国経済は近年、調整期にあるとはいえ、持続的な成長を続けていると言えます。
直近25年間の日本のGDP成長率が1.07倍であるのに対し、中国のGDP成長率が23倍にもなっていることからもこのことは明らかです。
それに伴い、もちろん中国の人々の暮らしも豊かになっています。
現に、保有資産が1億円以上の人が多い国ランキングではアメリカが1位、中国が2位、日本は3位。さらに、50億円以上の資産を持つ人が多いランキングでも中国はアメリカに次いで2位にランクインしています(日本は8位)。
董「中国経済の圧倒的な成長を背景に、中国人の消費マインドは大きく変化しました。
消費が増えることで収入が増える好循環がまわり続け、中国15都市で1人当たりのGDPが2万ドルを超えるまでに。
所得の向上によって、中国国民のライフスタイルに変化が生じています。一人一人の消費意欲が高まり、安くていいものではなく、高くていいもの・生活を彩るものが求められるようになりました。”高いものはいいものに違いない”、という考えも浸透しています。」
小関「日本も戦後の復興から高度経済成長、バブル経済前まで、常に所得が上がっていました。これに合わせて付加価値の高いものの需要が膨らんだんですね。
一方、1991年のバブル崩壊以降はデフレが常態化し、歴史が逆に進んでいます。成長が続くアジアから見ると反対の方向に動いているんですね。」
「爆買い」はまだ始まってもいない!?
まさにホットな中国経済ですが、”中国から日本”への視線も熱いと董氏はいいます。
董「とは言え、先に経済成長を遂げて、付加価値の高い生活用品にあふれる日本のファッションや化粧品は、まだ中国でも圧倒的な人気を誇り、日本語での最新情報を得るために日本語を勉強する若い人も多いです。
日本では数年前から中国系観光客の爆買いが話題になっていますが、中国国内のパスポート保有者はまだ人口のわずか5%。それでも、中国人は年間で1億4000万回渡航しているというデータがあるので、1人2回は海外旅行に行っていることになります。
一方で、日本には年間800万人しか来ていません。つまり、爆買いはまだ始まってもいないのです」
海外旅行の可否は基本的に、経済力に依存することが多いため、1人あたりのGDPと、海外旅行者数は相関関係にあると言われます。
その観点から考えると、中国から日本へのインバウンド旅行のポテンシャルは計り知れません。
ここまでは、中国経済をマクロな視点から解説し、日本からみた中国経済がどのような位置にあるのか、ということをお伝えしました。
そしてここからは、そんな中国経済を支える中国国内市場の各プレイヤーを具体的に解説します。
中国のフードテック業界の特徴
フードテック業界のユニコーン企業の特徴は大きく3つ。
1:フードから始まり、サービスを”横断的”に展開
中国のフードコマースサービス最大手である『美団点評』は世界No.1のO2O(オンラインとオフラインを連携させた)企業です。
当初は、フードレビューをメインにしたサービス設計だったのが、現在は旅行予約、配車予約、民泊、チケット販売など幅広いサービスを取り扱っています。
2018年9月に6兆円で香港市場に上場し、取り扱い総額(GMS)は楽天の2倍以上。
2:検索型ではなく、SNS型のUI 設計
さらに特徴的なのが、 UI。日本だと、フードレビューサービスは食べログ、ぐるなびなどが挙げられますが、『美団点評』のトップページを訪問すれば、これらの日本のフードレビューサービスとの違いをはっきり認識することができます。
国内サービスが検索型UI、つまりトップページに検索ウインドウがあるのに対して、『美団点評』は、トップページはSNS型の設計、つまり様々なレビューが過 去の行動履歴に基づいて、トップページでユーザーに「提案」されるようなUI/UX設計担っています。
これにより、ユーザーは自身の過去の行動に基づいて、「なんとなく今のニーズに合っているもの」を提案してもらえるわけです。
この検索型と SNS 型というUI設計の違いの訳は、まさに日本と中国のデバイス普及のタイミングに見ることができます。
日本では、まずPCが家庭に普及し、その後にスマートフォンが普及したのに対して、中国ではPCではなく、格安スマートフォンの販売開始をきっかけに、PC
ではなく、スマートフォンが先に市民権を得るまで普及しています。
だからこそ、SNS型、つまりスマートフォンに最適化されたUIが各種サービスにおいて発達したと言えます。
3:提供するバリューチェーンが圧倒的に長い
“メディアで見つけたいいお店を予約したいけど、わざわざ電話する必要がある”という経験がある人も多いのではないでしょうか?
これは、メディアの”情報提供機能”と、サービスの”販売機能”がバリューチェンとして分断されてしまっているために起こる事象の一つ。
一方で、中国のサービスでは、情報を見て、購入(予約)するまで、一つのサービスで完結することが特徴です。
董「日本では、口コミサイトは単にメディアとして利用され、飲食店の口コミを確認するのと、実際の購買が分断されているのが一般的です。しかし中国では異なります。中国のインターネットサービスは純粋なメディアはなく、集客・送客、注文、配達、決済、評価までをワンストップでできるコマースサイトになっているのです」
国内サービスにはない、情報提供〜購入(予約)〜お店の評価 というバリューチェーンの長さで、利便性はもちろん、膨大なデータを保有し、次の事業、サービス展開につなげようとするのも、中国ユニコーン企業の大きな特徴の一つです。
前提は、”サービス創出機会の多さ”
ここまでは、サービスの特徴についての具体的な解説でしたが、前提はそのようなサービスを作る機会創出への積極性。
現在、中国では年間で約10兆円規模のベンチャー投資が行われており、これはアメリカのベンチャー投資額とほぼ同額です。
2019年1月時点で世界には266社のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場、設立10年以内のベンチャー企業)がありますが、なんと半数の140社が中国企業。アメリカを抑えて1位につけています。
小関「積極的にベンチャー企業へ投資することで社会全体の富が増え、その結果として個人の富も増えるという好循環。BtoC企業は一気にコピーが広まるため、競争は激しいですが、そのうちの数社がベンチャー・キャピタルから投資を受けてとてつもない成長を遂げていますよね」
董「ひと昔前までは安い既製品をつくるというイメージがあった中国ですが、最近ではCopy from Chinaという言葉が使われるようになり、まさに世界のイノベーターになっています。革新の中心はもはやシリコンバレーではないのです」
中国特殊論は危険
中国人にとって、スマホは食だけでなく様々な分野において欠かせないものとなっています。買い物も移動もエンタメも、ほとんど全てがスマホアプリで完結する生活です。財布を出したり、クレジットカード番号を入力したり、決済というアクションの煩わしさは、テクノロジーによって排除されました。この生活スタイルは中国から世界に広がり続けていくことでしょう。
今回ご紹介したフードテックに関する中国の現状は、日本の未来になり得る事例ばかり。ファッションの分野で新しい消費のあり方を提供し、アジアを中心に事業を展開しているスタイラーとしても日本のこの先のスマホシフトからは目が離せません。
小関「今回のようなテーマにおいて、中国特殊論や日本特殊論をよく見かけます。「○○の国は特殊だから□□に当てはまらない」という論調です。
気持ちはわからなくもないのですが、今回話した内容は中国以外の新興国にも広く観測される内容です。
何故ならば、単にマクロ経済の状況や情報環境から起こった必然的結果だから。
だからこそ、我々もその状況を冷静に見た上で、ターゲットの国、市場に合わせてサービスを展開する必要があると考えています。」
中国にはまだまだお伝えしきれないほど多くのユニコーン企業があります。
今後も様々な分野に関して、中国のユニコーン企業の取り組みとその裏側をお伝えするイベントを継続していきます。どうぞお楽しみに。
また、スタイラー株式会社と日本美食株式会社の共同運営で、完全招待制の「China conference」グループを運営しております。ご興味がある方は、ぜひ下記のe-mailアドレスまでご連絡くださいませ。
(招待は審査制となりますので、あらかじめご了承ください。)
▼お問い合わせ先
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