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これまでの家づくりのメリット・デメリットと アフターコロナの注文住宅の考え方(11)

中古物件&リノベではだめなのか?

ウッドショックや職人不足などの現状を鑑みると、中古物件を購入してリノベーションするのがアフターコロナにおける最も賢い選択肢なのではないか?と考える人も多いでしょう。
実際、東京都内を中心に中古マンションの需要は近年ますます高まっています。

2006年の23区内の中古マンションの平均価格が約2,700万円だったのに対し、2021年には過去最高の3,910万円にまで跳ね上がっています。)
どうして、ここまで中古マンションの価格が押し上がっているのでしょうか?
それは、新築マンションの価格高騰と、中古物件に関する人々の見方の変化が大きく関係しているでしょう。
新築マンションの価格が高騰していることは、第四章で述べました。新築マンションはなかなか手が出ない。それなら中古マンションを、というのは自然な考え方でしょう。
それに加え、中古物件に対するネガティブなイメージもだいぶ薄れてきています。リノベーションが一般的になったため、中古物件を買ってリノベーションする人もかなり増えてきましたね。中古マンションのリノベーションを専門に手がける業者もあるくらいです。
しかし、中古マンションの購入&リノベという手法も、決してローコストとは言えなくなってきました。その需要が高まったのは2010年頃でしたが、その頃は中古マンションも今よりだいぶ安くて、リノベーションを施せばかなりの割安感があったのです。
しかし昨今の不動産バブルの結果、都心の中古物件の値段も上がり、中古マンションをリノベーションすると、新築物件を買うのとあまり変わらない値段になってしまいます。
どうしてもこのエリアに住みたいとか、あのマンションに住みたいというのなら話は別ですが、単純にコスト面だけを考えると、そのメリットは薄れてきていると言わざるをえません。

では、中古の戸建物件を購入してリノベするのはどうでしょうか?
第四章で考えたように、確かに戸建住宅はマンションよりも一般的に資産価値が下がりやすいため、中古の戸建てであればまだまだ比較的安く購入することは可能です。
しかし、やみくもに安い中古物件を購入してリノベすれば良いというものではありません。
むしろ、活かすべき中古住宅と、未来のために建て替えるべき中古住宅の選択を間違えないようにすることが大事だと考えています。

活かすべき中古住宅とは?

国土交通省がまとめた「中古住宅流通、リフォーム市場の現状」によると、国として「数世代にわたり利用できる長期優良住宅の建設、適切な維持管理、流通に至るシステムを構築するとともに、消費者が安心して適切なリフォームを行える市場環境の整備を図る。(中略)内需の要である住宅投資の活性化を促す。具体的には、これまでの新築重視の住宅政策からストック重視の住宅政策への転換を促進するため、建物検査・保証、住宅履歴情報の普及促進等の市場環境整備・規制改革、老朽化マンションの再生等を盛り込んだ中古・リフォーム市場整備のためのトータルプランを策定する。(中略) これにより、中古住宅流通市場・リフォーム市場を20兆円まで倍増を図るとともに、ネット・ゼロ・エネルギー住宅を標準的な新築住宅とすることを目指す」とされています。
要するに、新築一辺倒だった従来の考え方から、中古の建物も活かしていくという方針に転換する。そのため「建物検査・保証、住宅履歴情報の普及促進」を図っていこうというわけです。
つまり中古物件なら何でも良いというわけではなく、しっかりと中古物件を検査し、査定・保証する。その上でエネルギー効率や安全性をしっかり担保できる中古住宅をリノベーションし、活用していくというわけですね。
私の考える「活かすべき中古住宅」も、基本的にはこれと同じ。基本性能のしっかりとした家はリフォームして活用する。しかし、安全性が低かったりエネルギー効率の低い家、簡単に言うと基本性能の低い家はリフォームするよりも、新築に建て替えたほうが良い、ということです。

では活かすべき住宅と、未来のために建て替えるべき中古住宅の見極めを誰が行うか?
リフォーム会社がこれを行うのは、簡単ではない。というのも、家の基本性能を上げるような大型リフォームやリノベーションを手掛けている会社であれば建て替えのほうが良いという判断ができるかもしれませんが、一般的なリフォームしか行っていな会社であれば、それが難しい。そもそも、自分たちが手掛けていない分野なのですから。
それに加え、リフォーム会社としては建て替えではなく、なるべくリフォームにしたいという事情もある。なぜなら、リフォーム会社はあくまでもリフォームの専門家であって、新築のプロではないからです。
実際に新築物件を手掛けられないリフォーム会社、職人さんというのも実際に多くおられます。慣れない新築に手を出して失敗するのは怖い。しかも大手のハウスメーカーにはコスパ面でとても太刀打ちできない。そのためたとえ基本性能が低い家であったとしても、建て替えではなくあくまでもリフォームにする。どうしても新築になるしかない場合は、諦める。せっかく親身になって一生懸命リフォームのプランや見積を作っても、これでは仕事になりませんよね。お客様がそのリフォーム会社の設計や営業の方を気に入っていても、お願いすることもできない状態になってしまうケースも少なくないのです。

しかしこれは、何もリフォーム会社が悪いというわけでもありません。
日本には住宅会社が数多く存在し、築年数は同じ築30年の中古物件であっても、手掛けた住宅会社によって性能や状態は大きく異なります。築30年でも性能の良い戸建物件もありますし、居住者がしっかり手入れをしていれば、リノベーションも効果的でしょう。そういう住宅は建材も質の高いものを使っていますから、壊してしまうのはもったいない。
問題なのが、その中古物件がリノベに見合う物件なのか、立て直す物件なのかを見極めるのは素人には難しい、ということです。依頼者が素人なら(ほとんどはそうなのですが)なるべくリノベーションして生まれ変わらせたい、と思うでしょう。そしてリフォーム会社も、もちろんそうしたい。でも、その家は本当に将来的に見て残すべき建物なのでしょうか?
中古物件の購入からリノベーションまでのワンストップ・サービスを提供している会社もありますが、彼らが本当にその物件の見極めをしっかり行っているかどうかは別問題。彼らは新築住宅を販売してるわけではないので、客観的な立場でアドバイスをもらえるとはあまり期待できません。むしろ、積極的にリノベーションを勧めてくるでしょう。だって、それが彼らのビジネスなのですから。
ですから中古物件の購入&リノベを検討するときには、それが本当にリノベしてまで住むべき家かどうかを見極められるプロに頼ることが重要なのです。

つまり私が言いたいことは、良いものは残す。悪いものは壊して良い戸建住宅を建てる。そのために、しっかりとジャッジできるプロを選ぶことが大事だということです。一番悪いのが、性能の低い家を化粧直しだけして住んでしまうこと。
では具体的に、リノベすべきではない中古住宅とはどのような物件なのでしょうか?
その点で大切な2つのポイントを、一緒に見ていきましょう。

活かすべき物件とリノベすべきではない中古物件の見極め方①、家の基本性能を客観的に捉える

まず真っ先に考えるべきポイントが、その物件の基本的な性能についてです。そして家の基本性能というのは、客観的な数値によって把握することが可能です。
家の基本性能を測る指針の一つの例として、断熱グレードについて考えてみましょう。

これは、新築住宅のおける断熱グレードを表した図です。
この図を見ると明らかなように、家の基本性能に関わる基準は時代に合わせて改正されていきます。つまり、新しい基準で建てられた家ほど基本性能が高くなるのです。
現在の国の最新の省エネ基準は平成28年に定められましたが、実はそれより高い基準も存在します。それが「ZEH(ゼッチ)」や「HEAT20」です。
ZEHは「net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略語で、「エネルギー収支をゼロにする家づくり」を目指すための数値。家の断熱性能を高めると同時に、太陽光発電などを組み合わせて、家のエネルギー消費量を実質ゼロにしましょう、という取り組みです。
そのZEHよりもさらに高いレベルの断熱性能基準となるのが、HEAT20。HEAT20は国の機関ではなく、建築関係の企業や大学教授などの専門家たちで構成された「一般社団法人 20年先を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会」(英語名:Society of Hyper-Enhanced insulation and Advanced Technology houses for the next 20 yearsの頭文字を取って「HEAT20」)が定めた基準となります。

このように、断熱性能についてはその家がいつ頃に建てられたか、どの基準をクリアしているかで明らかになります。つまり家の築年数が古いほど、相対的に家の基本性能は低くなるということ。昔の低い基準で建てられたのですから、当然ですよね。
ではそうした築古の戸建住宅を購入して、リノベーションしようとするとどうなるでしょうか?
例えば、平成4年の省エネ基準で建てられた木造の戸建住宅(延床面積120.8㎡を想定)を平成28年省エネ基準に適合させようとすると、リフォーム費用は躯体や窓の断熱改修などで231万円ほどかかります。
一方、新築時に同じ平成28年省エネ基準に適合させるために必要なコストは約87万円。つまり中古&リノベの方が、約150万円ほどコスト高になってしまうのです。
そして家の性能は断熱だけではありません。気密性や耐震性、省エネ性、防火性なども上げようとすると、新築と中古&リノベのコスト差はさらに広がってしまうでしょう。

家の基本性能を客観的な数値や指標で測るなら、それが活かすべき家か、将来のために建て直すべき家かどうか判断しやすくなります。
家の基本性能が高いということは、それだけ単純に安全で住みやすい家ということになります。古い家を無理してリノベするよりも、安心・安全な家を新築するほうが良いのではないでしょうか?
新築の方が初期コストは少し高めになるかもしれませんが、それも考え方次第。基本性能の高い家を建てて快適と安心を買うというのは、十分に賢い考えだと私は思います。なにしろ、躯体と内装を分けるという新しい方法で、ローコストでありながら基本性能の高い家づくりは可能なわけですから。

活かすべき物件とリノベすべきではない中古物件の見極め方②、省エネな家づくりを目指す

アフターコロナで光熱費の値上がりが続き、省エネ住宅への需要がますます高まっています。
そのため、活かすべき物件とリノベすべきではない中古物件を見極める際には、光熱費という「ランニングコスト」も考慮することが大切です。
では、省エネ住宅と一般住宅で、光熱費はどのくらい変わってくるのでしょうか?

<東京における年間の光熱料比較例>
●   これまでの住宅:283,325円
●   一般的な省エネ住宅:222,317円
●   高度な省エネ住宅:159,362円

これまでの普通の住宅と比べると、一般的な省エネ住宅では年間で約61,000円、そして高度な省エネ住宅では12万円以上も光熱費が下がる計算になります。これから光熱費が上がっていけば、その差はさらに広がっていくでしょう。
これから先を見据えても、やはり省エネ住宅が断然お得。
しかし中古戸建て物件の購入&リノベでは、そのためにコストがかかってしまうのです。
これは活かすべき物件とリノベすべきではない中古物件の見極め方①とも密接に関わってくるのですが、省エネ住宅を建てるには(あるいはリノベするには)当然、家の基本性能を上げなければなりません。
そうすると、コストを抑えるために中古物件を購入してリノベーションするはずなのに、省エネ住宅を目指した結果、よりコストがかかってしまうというという皮肉なことが起こってしまうのです。
しかし実際には、予算の都合から省エネには目をつぶったリノベも少なくありません。予算が限られている場合は(予算に余裕があるなら、そもそも新築にしますよね?)、どうしても目に見えるデザインや設備の方に予算をかけてしまう。目に見えない性能部分は後回しにしがちなのです。でもそうすると、やはり『コスパの悪い』家になってしまうのです。

ではしっかりと予算をかけたリノベで、省エネな家にしたとしたらどうでしょうか?家の基本性能自体が高いので、きっと安全で住みやすい家にもなっているでしょう。しかしその場合でも、元々の築年数が古いため、資産価値という点では低い評価にならざるを得ない。これは今の不動産査定の仕組みが面積と築年数によるため、どうしようもないのです。
つまり、せっかく予算をかけても、家の資産価値は高まらない。それならば、第四章で考えたように、最初から新築で資産価値の高い家づくりを考えたほうが良いのではないでしょうか。

こうしたことを総合的に考えると、活かせない中古物件を購入してリノベするよりも、基本性能が高くて省エネの新築の家を建てたほうが結果的にはお得、ということになるわけです。

リノベか新築か。次の章で考えてきましょう。

次回につづく

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