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夜はまだアフリカにいる。
夜はまだアフリカにいる。脇から滑り込んだその一言が、君の横顔を盗み見る理由となった。ディスプレイを見つめる君のその一言は詩の一節のように響く。夜は本当に移動するのだろうか?それとも私たちが夜を追い越しているのだろうか?
バリ島への直行便。成田を出発した朝の感覚が飛行機の中で奇妙に固定される。着いたときにはすっかり夕方なのに、その移ろいをどこかで見逃してしまったような感覚がある。外の世界は流れ続けているはずなのに、この機内では時間も季節も漂うだけで、どこにも向かおうとしていない。
座席のディスプレイに映る地図や目的地の天気予報だけが、ゆらゆら浮遊する私たちを地上につなぎとめている。夜はここにいないけれど、ディスプレイの中の地図では確かに存在し、ゆっくりと私達に近づいている。夜もまた旅をしているのだと思うと、なぜだか生き物がそこにいるかのように言った君の言葉が腑に落ちる。
ディスプレイの中では夜がじわじわと広がり、私たちの背後に忍び寄る。でも、君の言葉の中では、夜はまだアフリカにいる。それで十分だった。