10年前、僕たちは流星だった
夏の匂いがしていた。風はまだ少し暑く、車内に留まった昼間の熱をかき混ぜながら抜けていく。
「あ、ペルセウス流星群だ。」誰かの声を皮切りに星が夜を横切る。空に引かれた銀の糸が、雨粒のように消えていく。僕らは言葉少なに空を見上げ、ただその光の軌跡を追いかけた。
流星はひとつひとつが独立した輝きのようでいて、夜空全体と切り離せない。ひとつの星が消えるたびに、次の星を目が追いかけていく。点だったものが線になり、やがて夜空全体がひとつの風景に溶け込む。そんな関係性は、僕らそのものを映し出しているようだった。
誰もが異なる軌道を描きながら、それでもこの夜、この場所で交差している。バラバラであるはずなのに、それがひとつのまとまりに見える瞬間がある。僕らという存在も、たぶんそんな風にできている。どこかで違い、どこかで繋がり、その間に流れるものを信じたくなる。
10年が過ぎた今でも、僕はときどき思い出す。あの夜の星空を、湿った風を、そして静かに流れていた時間を。僕たちは知らずに知っていたのだろう。あの一瞬が、何か特別なものとして心のどこかに刻まれることを。言葉にも音楽にもならないその感覚が、あの夜を静かに包んでいたことを。