中国で働く日本人が出会う理不尽をひとつのストーリーにしてみた
はじめに
華村と申します。中国に住んでだいたい5年になります。
中国人に囲まれて働く中で色々ドタバタしたり、辛酸を舐めたり、胃が痛くなるような思いをしてきた経験をなんとか昇華できないかと思い、ストーリー仕立てにして書いてみたところいつの間にか8000字超えになってしまいました。
読んでいる方に追体験してもらえるようなものになればいいと思い、「あなた」を主人公とする一人称のお話にしました。中国に詳しくない人のために注釈を交えつつ、仕事などで中国に関わったことのある人には「あるある!」と膝を打ってもらえるものになっていたらいいなと思います。
長いですが、最後までお読みいただければ幸いです。
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希望を持って中国へ、順調な滑り出し
「あなた」は、中国にある日系企業の現地採用で働き始めた一人の若者です。
新卒で入った会社にどうしても馴染めず、環境を変えたい!と一念発起して語学留学を決意。「これからは中国語が伸びそう」という考えから、中国への留学を選択します。
1年の留学生活ののち、努力の甲斐もあってHSKの最高級である6級を取得。すぐに現地での就職活動を始め、日系中堅メーカーの中国工場で営業職の内定を獲得できました。そこそこ名の知れた自動車部品の組み立てメーカーで、手堅い商売をしているところです。
メーカーでの仕事は未経験でしたが、面接時に「若くて語学力も素晴らしい。ぜひうちで働いてほしい」という言葉を日本人総経理(現地の最高責任者)からもらうことができ、喜び勇んで入社しました。
やる気と希望に満ちあふれたあなたは早く仕事を覚えようと毎日懸命に働き、語学力を生かして中国人スタッフとコミュニケーションを取りながら、忙しくも充実した日々を過ごしていました。
部品が届かない?
入社して3ヶ月ほどが過ぎたある日、事件が起こります。
毎週の定例会議で、「組み立て用の部品を買いつけているサプライヤー工場の一つが、機械故障のため停止していて自社の生産に必要な部品が届かない。再稼働する見込みも立っていない」という報告が上がってきます。
それを聞いた総経理は大パニックです。
「なんて事だ!! それでウチの製造予定にはきちんと間に合うように生産再開できるんだろうな。万が一にもウチの製造ができなくて納期遅れなんて事になったら、客先のスケジュールにも影響が出る。そうなったら巨額の違約金、最悪だと訴訟もあり得るぞ。どうしてもっと早くに報告に来ないんだ!! まったくこれだから中国人の仕事は!!」
そして突然、こんなことをあなたに言います。
「〇〇君、君は中国語が得意だろう。中国人スタッフとのコミュニケーションは問題ないな。君は営業部だが、しばらく購買部とも連携して、この件に関してのフォローをお願いしたい。購買部には日本人がいないからな。本来なら私自ら指揮を取りたいが、通常業務で忙しいんだ。よろしく頼む」
あなたは戸惑いますが、期待をかけてくれた総経理の命令です。断るわけにもいかず、引き受ける事にしました。これが悲劇の始まりでした。
とりあえず担当者を頼るが…
入社してたった3ヶ月、まだ本来の営業部の仕事もままならないあなたに、他部署である購買部のことなどさっぱりわかりません。
とりあえず購買部長の中国人、Aさんを頼ることにします。Aさんは恰幅の良い豪快なオジサンで、あなたが工場停止の件について確認すると、「ウチの納期に影響はない。俺が調整してるから心配ないよ。総経理には絶対大丈夫って言っとけ! 没問題!!」と、頼もしい様子で答えてくれます。
なーんだ、心配いらないじゃん、と安心したあなたは、とりあえず総経理に報告したいから先方の生産再開に向けたスケジュールをざっくりでいいから教えてね、とAさんに頼み、営業の仕事に戻ります。
しかし次の日も、その次の日も、スケジュールはいっこうに提出されてきません。
Aさんに度々それとなく確認してみるものの、「今聞いてるよ。大丈夫だから」としか返ってきません。本当に大丈夫かな…? と不安なあなたですが、あまり急かすのも申し訳ないと思い、なかなか突っ込んで話を聞くことができません。
そんなあなたのもとに、総経理がやってきて質問します。
「やあ〇〇君、例の件はどんな感じかね?」
「あっはい…いまA部長に確認してもらっています」
「何ぃ?」総経理の顔色がみるみる変わっていきます。
「何日経ったと思ってるんだ!! まだスケジュール感すらわからないのか? 何のために君にお願いしたか考えろ!! 現地採用だからって仕事まで現地式に染まってもらっては困る! さっさと進捗を確認して、スケジュールを提出しろ!」とあなたを怒鳴りつけます。
あなたは大慌てで再度Aさんのもとへ向かい、例の工場に問い合わせてもらうように話しますが、Aさんの反応は代り映えしません。聞いたってなにも変わりゃしないからゆっくり待てよ、といわんばかりの態度です。それでも食い下がるあなたに、Aさんはうんざりした様子で、
「うるさいなあ。俺にだって他の仕事があるんだ、お前の件にだけかまってられないよ。そんなに言うなら、むこうの工場と連絡をとってる担当のBってやつに直接聞いてくれ。じゃあな」
と言い残し、「俺が調整するから大丈夫って言ってたじゃん!」と突っ込むヒマもなく、どこかに去っていってしまいました。
Aさんの無責任な態度に腹を立てつつも、他に方法もないので、あなたはそのBさんを尋ねる事にします。Bさんはいかにもやる気のない若者といった感じで、いつでもスマホをいじくっていて仕事しているのか遊んでいるのかわからないような人です。
Bさんは「いやー僕も何度も聞いてるんすけど、ぶっちゃけわかんないんっすよねー。向こうも故障した機械のメーカーとか呼んで、なんかやってるっぽいんすけど、結局スケジュールわかんないって言ってるっぽいんすよねー」と曖昧に答えをはぐらかします。どうやら問題の工場とはあまり細かくやりとりをしていない様子。
元凶はコイツか…と思いつつ、「どうしても総経理に報告しなきゃいけないんです。明日までに、絶対にむこうにスケジュールを出させてください」と強い口調で念押しします。Bさんも渋々ですが、向こうの工場に再度連絡を取り始めました。
気が付けば、危機的状況
そして次の日、提出されてきたスケジュールを見てあなたは愕然とします。
復帰の予定日が、こちらの予定から逆算したデッドラインよりも、一週間も遅かったのです。これではゲームオーバー、自社での生産が予定通りにできません。違約金コースまっしぐらです。
どういうことかとBさんに問いただすと、
「いやーそれじゃダメなのはわかってるんですけど。でも向こうの工場も故障したパーツの入荷がどうしても間に合わないとか言ってて。どうしようもないっす。没辦法」とハナから諦めたような様子。
ウソを報告するにはいかないので、そのままのスケジュールを総経理に伝えますが、当然のように激怒されます。「今のスケジュールがダメなら方法を考えさせろ! 『無理でした』で済む問題じゃないぞ!」まことに正論ですが、どうすればいいのかあなたには皆目わかりません。
Bさんのところに何度も掛け合って、方法はないのかと詰め寄りますが、Bさんは「むこうに連絡はしてる、でもどうしようもない」の一点張り。まともに取り合ってくれません。不毛に時間だけが過ぎ、数日をロスしました。
Bさんに愛想を尽かしたあなたは、同じ購買部のCさんやDさんにも代替部品を作れる工場の心当たりなどを尋ねてみますが、思うような結果は得られません。ここでもまた数日間のロス。
あなたは焦ります。製造部門のほうからも「そろそろ部品の入荷時期教えてもらわないとさあ、生産予定が立てられないんだけど」と文句が飛んできます。本来は購買部の仕事なのに、なんでいつの間にか自分の責任みたいになってるんだ? という苛立ちが、焦りに拍車をかけます。
再開のデッドラインは、刻一刻と迫ってきています。どうしよう、このままではまた総経理に大目玉をくらう。でも進展は何もない…
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焦りが頂点に達したあなたは、こんな考えにたどり着きます。
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