「你是哪里人?」(どこの人?)を、寝たふりをして聞き流した話
昨日、散髪に行きました。その時に経験したことと心の動きを、忘れないうちに書いておきたいと思います。
中国で髪を切りに行くと、多くの場合まずやたらと丁寧な洗髪に通されます。僕が昨日行ったチェーンのヘアサロンも例外ではなく、店に入るとまず洗髪専用の部屋に通されました。
担当してくれたのは、体の大きな若い男の子でした。歳は10代のように見えました。肌は浅黒く、少し訛りの強い中国語を話します。おそらくは田舎から出てきて、ここでアルバイトをしているのでしょう。
専用の台に仰向けに寝かされ、施術? が始まります。しかし、上の過去記事にも書いたのですが、この洗髪の時に「痒不痒?」(痒くないですか?)とか「水温可以接受吗?」(シャワーの温度は大丈夫ですか?)などと聞かれるのが、外国人にとっては結構ハードルが高のです(意外と一般的でない語彙が出てくるし、テキストに載っているようなものでもないため)。そのため、何を聞いているのかわかりにくいことがあります。
今回、施術?をしてくれた彼も、髪を洗いながらいろいろと聞いてきました。僕はそれなりに中国語ができると自負していますが、彼の訛りが強いこともあり、何度か聞き直したり、少し反応に時間がかかってしまいました。
そして、いくつかのやりとりを経た後、彼は僕の頭を揉むように洗いながら、こう聞いてきました。
それまでは聞き取りにくかったにも関わらず、その単純で普遍的な質問だけは、スムーズに聞き取ることができました。いや、できてしまったというべきでしょうか。
おそらく彼は、僕の普通話でのやり取りが微妙にたどたどしいことに気づき、どこから来た人間なのか興味を持ったのでしょう。あるいは、単に社交辞令のトークとして話題を切り出そうとしたのかもしれません。
僕はどう答えるか迷いました。これまで出身を聞かれても、ごまかすことなく日本人であると答えてきました。その結果驚かれたり、多少嫌な思いをすることもありましたが、わざわざ自分の出自を隠すのはおかしいと思い、堂々と答えてきました。
しかし、いまは少々特殊な時期でもあります。言わずもがな、いまは日本の福島第一原発の処理水放出の問題について連日連夜メディアが煽っており、反日の機運が高まっています。
日本の大使館などからは、日本語で不必要に騒ぎ立てないように、などと注意喚起が出ています。
そうした諸々を鑑み、僕は質問が聞こえなかったふりをして、目を閉じてノーリアクションを決め込むことにしました。彼はそれ以上何も聞いてくることなく、無言で髪を洗い続けました。
やがて洗髪が終わり、カットの台に連れて行ってくれる時間になりました。彼は「好了」(できたよ)といい、僕を起こそうとしました。僕は眠ってなどいないにもかかわらず、わざとらしく目を擦るようなふりをしながら立ち上がり、彼に連れられるままにカット台に向かいました。
カットをされている時も、なんだか警戒心というか猜疑心のようなものが抜けなくて、最低限のやり取りはしないようにしました。また、髪を切るときに着せられるケープにはスマホ用の窓がついてたのですが(参考)、そこから日本語が見えたら何か言われるのではないかと思い、スマホを開くことはしませんでした。
カットを担当してくれたのも、まだ10代とおぼしき若い男の子でした。その持っているハサミは、なぜかいつもより少し鋭利に見えました。
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散髪を終えて帰る道すがら、僕は自己嫌悪と怒りが入り混じった感情に囚われました。
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