中国語で「羅生門」の謎を追え!
先日のマガジンで、全中国を揺るがした話題である「ネズミかアヒルか論争」について取り上げました。
これはとある学校の食堂で、食事の中に混入していた異物について、ネズミの頭かアヒルの首かということをめぐってネットが紛糾した事件です。
前回マガジンに書いた時点では、学校側や市の監督局はそれをネズミであることを認めず、間違いなくアヒルだと結論づけていました。しかしこのマガジンの公開後、さらに上級部門である教育庁や省級の市場監督局による調査チームが結成され、さらなる調査のうえ、なんと異物はやっぱりネズミだったと発表されました。逆転裁判並みの逆転劇です。
いやはや、日本に寿司ペロ事件あれば、中国にネズミかアヒルか論争ありといった感じで、本来なら街のしょうもないニュース程度のことがネットの力によってどこどこまでも大きくなっていく様子を見ていると、自分を含む大衆というものはなんと暇な生き物だろうかと思い知らされます。両国のそれにいっちょ噛みしている僕なんて暇人の極みですね。
それはともかく、今日のマガジンのテーマはこの事件そのものについてではありません。この事件について調べているときに出てきた、見慣れない中国語の表現についてです。お楽しみください。
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中国語圏において、この事件のことを「羅生門」(罗生门)と形容する記事をいくつか見つけました。たとえばこんなのです。
タイトルを僕なりに訳すと、「ネズミの頭かアヒルの首か? 江西省の高校の食堂から「羅生門」が出た」というような具合でしょうか。
上はドイチェ・ヴェレというドイツの国営メディアの中国語版記事ですが、中国国内のニュースソースでも同じ表現が見られました。多かったのは「这事件怎么就成了罗生门?」(この事件はなぜ「羅生門」となったのか?)というような、この事件全体を「羅生門」と形容するような使い方です。
この「羅生門」の意味が、僕にはさっぱりわかりませんでした。なぜここで羅生門? 芥川龍之介は中国でも有名だけど、いったいあの作品のどのような要素をしてこの事件を形容しているの? と、頭が疑問符でいっぱいになりました。
とりあえずそこにいた嫁に聞いてみても、よくわからないと言います。友達にもWeChatで聞いてみましたが、反応がありません(そんなことを気にしている暇人は僕だけなのでしょう)。仕方がないので、自分で調べることにしました。
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少し調べてみてわかったのは、中国語における「羅生門」はどうやら「ある事件について、関係者がそれぞれ自分に都合のいいことだけを言って真実がわからなくなること」を指すらしいということでした。
なるほど、中国語の「羅生門」にはそんな意味があったのか。まったく知りませんでした。
ほかの用例を調べてみると、ロシア・ウクライナ戦争で両陣営の見解がさまざまな面において異なることを指して「羅生門事件」と表現するものがありました。
調べられた中でもっとも古い用例では、ある香港の俳優がセクハラをした・していないという文脈で用いている2004年の例がありました。現実にはもっと古い例がありそうに思いますが、少なくともここ最近で急にできたような表現や流行語ではないことはわかりました。
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しかし、そうなると次に気になるのは、なぜ中国において「羅生門」がそのような意味を持つようになったのかということです。
これについても調べてみたら、いろいろなことがわかりました。以下、独自研究の域を出ないものという前提でお読みください。
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