中国にまつわる、ありがちな誤解3選
先日の記事で、なぜかTwitterランドで定期的に浮上する「中国でVPN接続を利用しているのは、政府から認可された特権階級」という珍説について書きました。これは事実ではありません。よろしければ記事をご覧ください。
これを書いた後、中国に関しては他にも事実が微妙に曲解されていたり、明らかに事実ではない風説が、SNSやメディアなどでもっともらしく語られている場合が多いことを思い出しました。
今日はそういう風説をまとめて斬ってしまいます。
中国ではくまのプーさんが禁止
まず、中国ではくまのプーさんが習近平国家主席を揶揄するアイコンになっており、国家に検閲・規制されているという話があります。これは部分的には事実ですが、そこまで厳しい体制で規制がなされているわけではありません。
これについては、以前にもマガジンで扱ったことがあります。
事実としては、過去に何度かSNS上でくまのプーさんを表す「维尼熊」が検索できなくなったことがありますし、その他ミーム画像が消されるなどといったことは起きています。
しかし、プーさんのキャラクター自体は普通に存在を許されていて、グッズも売っていますし、作品も普通に動画サイトなどで見られます。習近平国家主席の揶揄の文脈を踏まえない限りは、規制の対象とはならないといっていいでしょう。
たまに中国でプーさんは発禁モノの扱いになっているように考えていたり、そのような説をネットで得意げに開陳している人がいますが、それはほとんどの場合誤りです。
また、中国人への嫌がらせのミームとしてプーさんが有効であるというのも通説としてよく見かけます。最近でも、福島第一原発の処理水に絡んだイタズラ電話の件で、ある旅館に電話がかかって来た時にプーさんのテーマ曲を流すことで相手を撃退できた、という話が出回ったようです。
このエピソードは創作されたものですが、少なくない人が信じていたようです。
実際にはプーさんそのものが中国人への嫌がらせや、検閲を逆用した攻撃になるということはほぼありえない(そもそも、習近平をプーさんになぞらえるカルチャーを知らない人の方が多い)と考えられるので、このようなニュースやSNSへの投稿を見かけたらまず疑ってかかりましょう。
キャッシュレスが普及したのは偽札対策のため
これは、中国に関する豆知識としてよく語られがちです。世界でも類を見ない速さでキャッシュレス化が進んだのは、市場に蔓延する偽札の問題を解決するために行われたというものです。
たしかにキャッシュレス普及前の中国では、偽札とその対処によるコストが大きくかかっていました。個人商店のレジにも偽札の判定機を兼ねた紙幣計数機が置かれていましたし、ATMへの入金で紙幣が偽札だと判別され、はねられてしまうなどの面倒事が日常的に起きていました。キャッシュレスの普及後はこれらに悩まされることが大幅に減ったため、上の説は一聴してもっともらしく聞こえます。
しかし、そのことの証拠を示す話はどこからも出ていません。
中国におけるキャッシュレス決済の普及は、同時期にインフラとしてのスマートフォンが爆発的に普及したことや、IT大手2社(アリババとテンセント)が互いに争うようにして普及の攻勢をかけたことなどの背景が重なって起きた、結果論的なものです。
政策レベルで国がキャッシュレスの普及に力を入れたという話は、少なくとも公式には存在していないように思います(もしあれば教えてください)。
むしろ、「偽札を排除しようとしてキャッシュレスを普及させた」のではなく、「キャッシュレスが普及した結果、偽札にまつわる問題に悩まされることが少なくなった」というように、因果関係が逆だと見るべきでしょう。
「信用スコア」で国民が監視・格付けされている
これもよく見る風説のひとつです。監視社会たる中国では、国民が「信用スコア」なるものによって一人ひとり点数をつけられ、管理統制されているという話です。何か悪いことをすればその「信用スコア」に記録が残り、場合によっては社会生活に支障が出るという「怖い話」として語られることもあります。
しかし、こうした「怖い話」に出てくる「信用スコア」は、いったい誰の管理によってどのように運用されているものなのか、具体性のないままあやふやに語られることがほとんどです。
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