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国どうしの関係は、個人の関係にも影響を与えるよという話。福島の処理水排出問題をめぐって

知り合いに僕の夫婦と同じ、日本人男性と中国人女性の夫婦がいるんですが、その日本人男性、つまり旦那さんからさっき聞いたばかりのエピソードです。

日曜、つまり昨日の昼間、突如として奥さんが「しばらく日本のものは買わないようにしましょう」と言い始めたそうです。奥さんは別にアンチ日本というわけでもなく(そもそも日本人と結婚していますし)、旦那さんはなぜ急にそんなことを言うのかわからず困惑しました。

理由を聞くと、どうやら福島第一原発の処理水の海洋排出問題のトピックが中国のSNSや検索エンジンでトレンドになっていて、それを読んだことが大きかったようです。気味が悪いから日本のものは欲しくない、特に化粧品や食べ物などは避けた方がいいのではないか、という提案でした。

この問題は中国では大いに注目されており、最近ではまた処理水の放出がいよいよ始まりそうだということで、トレンドに登ってきたのではないかと思います。中国は近隣諸国として処理水の排出には反対の立場を示していて、日本政府は安全性を十分に検証しないまま排出を強行しようとしている、という厳しい論調のものが目立ちます。公的に日本を非難するメッセージもこれまで何度も出しています。

話をご夫婦のほうに戻すと、旦那さんは奥さんの提案に納得がいきません。旦那さんは日本の報道に触れており、排出には基本的には問題ないという立場です。また、それ以前に排出問題と自分たちが日本のものを買うかどうかには本質的に関係ないじゃないか、ということを旦那さんは奥さんに言いました。

すると奥さんはへそを曲げてしまい、そうはいっても日本の政府だって自分の都合の悪いことは言うわけがないし警戒しておくに越したことはない、と言い始めました。話が通じていません。そして最終的には「どうして私の気持ちをわかってくれないの」という感情論になってしまったそうです。もうこうなったら議論してもしょうがないので、旦那さんは根負けして「わかったわかった。日本のものは買わない」ということで話を落ち着かせたそうです。

旦那さんに大変そうですねと言うと、「まあ、いつものことだから。そのうち忘れるよ」と飄々としていました。この人は僕よりもずいぶん結婚歴が長いのですが、僕も達観するとこんなふうに考えるようになるのかな、と思いました。たぶん僕ならもっと意地になって、事態を悪化させていたような気がします。

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処理水(中国的に言えば「核汚染水」)の問題をどう見るかについては、さまざまな意見があると思います。個人的には、日本は中国からの指摘に対して公的機関としてデータを交えて回答しており、またIAEAの評価も受けているのだから、いわゆる科学的な根拠の示し方としては日本のほうに分があると考えています。中国からの批判は、「日本は安全の根拠を示していない」といいながらも、自らが科学的な論証をする姿勢が欠けています。

いっぽうで、前例のないことに近隣諸国が過敏になるのもある程度は仕方がないことだとも思います。また、外交カードとしてはとりあえず言っておいて損はないということもあるのでしょう。中国からすれば何も出なければそれはそれでよし、もし何かあれば「ほら言っただろう」と被害者の立場を手に入れ、日本から何かしらの補償を引き出すことができるかもしれない。いいか悪いかは別として、外交なんてそんなもんです。

そうしたそれぞれのポジションと、そこから出てくる言説はともかく、僕はこのご夫婦の話を聞いて「やっぱり国どうしの立場って、個人のあり方にも影響を与えるよなあ」ということを再確認したような思いになりました。

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