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中国の田舎で逼塞する小オッサンが、すべての大オッサンに言いたいこと

牛乳屋さんのnoteにまたもや引用していただきました。しかも「尊師」との敬称付きです。タオバオで紫色の服(クルタというらしい)を買ってこようと思います。謝意を評します。

引用していただいたのは、僕が過去に書いたnoteより、中国における日本人社会を描写した部分です。

日本では絶滅しつつあるはずのパワハラコンプラ無視オヤジが、博物館のような綺麗な保存状態で残されているのが海外の日本人社会だったりするのだ。

このnoteの主人公は架空の人物ですが、この描写自体は紛れもなく僕の経験から出たものです。顧客・上司かかわらず、オッサンがパワハラ的なコミュニケーションで軋轢を撒き散らす様をいくつも見てきましたし、直接的な被害に遭ってちょっと心がアレな状態に陥ったこともありました。

これを書いた当初にもこのラインには多くの共感が寄せられており、ある程度中国における日本人オッサン社会を正確に描写できたのではないかと自負しております。

パワハラ的・昭和オヤジ原人的なものに対する提言は、先の牛乳屋さんのnoteで触れられているのでここでは割愛します(書き始めると憎悪が止まらなくなって見れたもんじゃない文章が出力されるのではないかという心配もあります)。

ただ、パワハラ的なもの以上に、僕が中国で出会ったオッサンたちに対して持った強い違和感があります。それは、知識の伝達や継承についてです。

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僕は中国に来てから中途採用でいくつかの日系メーカーに勤めました。そこで感じたのは、中途採用者に対する過剰な期待と、技術・知識を伝えるためのノウハウの欠如です。

僕自身が要領や物覚えが悪く根性もなかったことや、そもそも経験不足で仕事が務まるかどうかよく検討せずに入社したことを棚に上げての話になってしまうのですが、どのメーカーでも入社後ロクに必要事項を教えてもらえず、訳のわからないまま仕事をさせられることがほとんどでした。

「中途採用なんだから、新卒じゃないんだから仕事ぐらい自分で覚えろ」「なんでも聞こうとせず、自分で理解しようとしろ」という言い方にも一理あります。でも、どこの会社でもそうだと思うのですが、一つの会社にはそこで醸成され積み重ねられてきた暗黙知やノウハウがあります。自分で調べて覚えられることばかりではありません。特に中小製造業、こと海外拠点は現地責任者の権限が大きいため、ローカルルールで成り立っていることが多いように思います。

また、これも製造業に関して特に言えることですが、どんなものづくりにも職人芸的な部分があり、それは多くの場合わかりやすい言葉になっていません。突然入った人間が一朝一夕で身につけるのには無理があります。しかし、そんなこともお構いなしに仕事は降ってきます。

何をやっても、基礎となる知識や経験則がないからうまくいかず、失敗ばかり。教えを乞うても、おざなりな対応しかされない。そもそも説明したことがないから、向こうもどう説明していいのかわからないように見える。そのうち何をやるのも怖くなり、気がつけば結局ポンコツに成り下がっている…という流れを何度か経験しました。

こういった状況に海外日本人社会特有のムラの狭さ(悩みを誰にも相談できない)や、先述したようなパワハラ的支配の横行などの悪条件が重なり、ますます仕事ができなくなっていくことで「現地採用は使えない」「中途の人間は聞くばっかりで自分でものを覚えようとしない」などのコンセンサスが出来上がっていくのかな、と想像します。そのコンセンサスは次の悪循環を生み出し、今もどこかで強化されているのかな、とも。

繰り返しになりますが、会社や教える側が一概におかしいということが言いたいわけではないです。その方法で真っ当に仕事をこなせるようになる人ももちろんたくさんいるのでしょうし、教育にコストをかけたくないから中途採用にしてるのに、甘ったれたことを抜かすなという意見もあるでしょう。

ただ、僕の周囲でも中国にいる日系企業の現地採用者・中途採用者が軒並みうまくいっていないように思えるのは、こういった技術や知識を伝達することに対する意識の欠如と、伝達のためのノウハウの欠如が無関係ではないような気がします。

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さて、僕自身はそうこうしているうちに30代半ば。若くはないが純然たるオッサンと言われるとそうでもないかもしれない、いわば小オッサンともいうべき年齢になってしまいました。

もうこんな年齢にもなると「なんで俺が一人前になれるように手伝ってくれなかったんだよ」と被害者意識を炸裂させてみたところでイタいだけですし、日本人社会で何かのスペシャリストを目指している時間もないので、なんとか他の部分にコミットしながら中国で生き抜く道を模索しています。

ただ、これから若い人を雇ったり育てていくであろう、僕よりも知識も経験も圧倒的に豊富で、世界で戦える優秀な力をもった日本のオッサン、すなわち大オッサンに向けて、これだけは言わせてほしいと思うことがあります。

あなたの持っている技術や知識、経験は素晴らしいものです。それを育んできたあなたの会社のやり方も、日本的方法論も、きっと素晴らしいものなのでしょう。でも、あなたがそうなれたのは、あなたがたまたま優秀だったからなのです。そのやり方を、誰もが無条件で再現できるわけではないのです。それに、その会社や業界で当たり前になっていることも、他所から見れば馴染みのない、特殊なルールにしか見えないということだってありえます。

だから、あなたの持っている知識や技術を、「甘えるな」「見て覚えろ」と突き放すのではなく、少しだけ噛み砕いてわかりやすく次の世代に伝えることを、頭の片隅にでも置いておいていただけませんでしょうか。

そうすれば、ボンクラで役立たずの若者でも少しは使えるようになるかもしれません。それにもしその若者が優秀な人間なら、あなたが10年で得た知識を1年で吸収して、残りの9年をさまざまな知見を得るために使い、もっとすごい人材となって世界でさらに戦う力をつけて、あなたを助けるようになるかもしれません。

逆に、あなたのその素晴らしい技術や経験を伝えることができなければ、これからますますチャンスが少なくなるであろう若者は市場で戦う力を持てず、日本は取り返しがつかないくらい衰退するかもしれません。それでもいいと思いますか。

これが、中国の日本人オッサン社会にどうしてもコミットできず、片田舎で逼塞するしかなかった小オッサンが、日本を支え中国で戦ってきたであろう偉大なる大オッサンたちに、どうしても伝えたかったことです。

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華村@中国
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