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なぜ中国はゼロコロナをやめられなかったのか
厳しかったゼロコロナ政策が突然終了して約3ヶ月が経ちました。感染者がものすごいスピードで広がった時期を乗り越え、いまでは街はすっかりコロナなどなかったかのような姿をしています。今までどこに、こんなにたくさんの人がいたんだというほど、街は人で賑わっています。
コロナのことを意識するのは、公共交通機関に乗るときにマスクが義務付けられていることくらいでしょうか。それ以外の場所では、体感では半分くらいの人がもうマスクなんぞつけていません。もうほとんどの人がいったんは感染したので、それほどビビらなくても大丈夫だろう、という考えのようです。あるいはそうした時期すらも過ぎ、みんなコロナのことなど忘れているようにも見えます。
もちろんそれはそれで喜ばしいことなのですが、ここで「どうせこうなるのなら、なぜもっと早くゼロコロナを終わらせなかったのか?」という疑問が湧いてきます。どうせ何の準備も無しに人々の自己防衛に任せて解放するのなら、経済や社会へのダメージが深刻になるもっと前にそれをやっておけばよかったのではないか、という問いです。
今日はもうコロナのことなど忘れつつある人民のみなさんに成り変わり、過去にこだわる陰険な日本人を代表して、「なぜ中国はもっと早くゼロコロナをやめられなかったのか」を考えてみたいと思います。
①解放した後のリスク計算が誰にもできなかった
中国がゼロコロナにこだわった理由の一つには、感染が拡大した時の被害が他国より甚大なものになるという予想がされていたことがあります。
医療リソースが脆弱、かつ国産の不活化ワクチンが国外で流通するmRNAワクチンほどの効果を持たないとされていた中国では、コロナが拡大すればまもなく医療が崩壊、ストップしてしまう恐れがありました。
以下は2022年の7月に書かれた文章ですが、もしゼロコロナをやめれば270万人の重症患者および160万人の死者が出るという試算があったようです。
僕自身も中国にとっては結局はゼロコロナが最適解なのであり、具体的な数字はともかく、医療的なリスク回避のためにゼロコロナをやめるわけにはいかないのだろうなと信じていました。そのため、去年末にゼロコロナが突然終了した時は、「これは地方が大変なことになるんじゃないか」ということを思いました。
しかし実際には、もちろん局所的な混乱はあったし、医療セクターも人手が足りず大変だった時期はあったようですが、ただちに社会が機能不全に陥るようなことは結局起こりませんでした。重症者・死者も増加したとは考えられるものの、人々はおおむね自宅療養と自助努力によって感染を乗り越え、そしていまはすでに正常な社会が戻ってきています。
ここでいえるのは、感染症やその拡大をどれほどのリスクをもたらすのかを事前に計算するというのは、非常に難しいということなのでしょう。
さまざまな情報を集めて行われるであろう政治的な判断のレベルにおいても、実際に解放すればどういうことが起こるのか、あるいは人々がその状況を受けてどう動くのかを予測するのは、ほとんど不可能に近い。
だからこそ、現実には自宅療養でどうにかなる程度のウイルスに対して、過剰なまでの防衛策を取り続けてしまった側面があるのではないかと思います。
②民意を得ていたものをやめられなかった
また、これは僕はずっと言い続けようと思っているのですが、中国の人々がゼロコロナに反発し、これはおかしいんじゃないかというように民意が翻ったのは、相当後になってからです。
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