ややこしい中国の「市」
突然ですが、中国の行政区分はややこしいです。
日本の都道府県や市区町村のように整理されておらず呼び名がたくさんあったり、呼び名が同じでも規模感が全く違う場合があったりと、非常に複雑です。
そんな中でもこの記事では、とりわけややこしい中国の「市」について整理してみたいと思います。
基礎知識:4つの行政区分
まず基本情報として、中国には4つの基本的な行政区分が存在します。
それらは規模が大きい順に「省級」「地級」「県級」「郷級」と呼びます。「省級」が広東省や湖北省などの最も大きな行政区分で、その中がさらに地級、県級、郷級と順に分けられている、と考えてください。
ややこしいのは、このそれぞれの等級に「市」という名称が現れるケースがあることです。どういうことか具体的に見ていきましょう。
直轄市
まず「市」を名乗るもののなかで最も規模が大きいのが「直轄市」です。直轄市は「市」という名称でありながら、上記の区分では「省級」に属します。扱いも他の省と同格です。
首都である北京市をはじめとして、上海市、天津市、重慶市の4つが該当します。中国に詳しくなくても、この4つは名前を知っているという人が多いのではないでしょうか。
当然ながら経済規模も大きく、地方の省よりも人口が多いケースもあります。たとえば直轄市の中でも最も人口が多い重慶市は、吉林省や甘粛省よりも人口が多くなっています。
地級市
「省級」の下に属する「地級」の行政単位の中には、「地級市」があります。もっとも一般的な「市」といえばこれを指します。僕の住んでいる広東省の東莞市もこの地級市です。
この地級市の中でも規模が大きく、自治権が強いところは「副省級市」として区別される場合もあります。副省級市には広東省の省都である広州市や、同じく広東省にありテクノロジーの発信地として注目されている深圳市、浙江省の省都でありIT最大手の一つ・アリババグループのお膝元である杭州市などが該当します。
地級市は「市」といえども、人口などの規模感は日本の都道府県並み、もしくはそれ以上である場合もあります。たとえば広州市の人口は約1,530万人で東京都と大阪府を合わせたよりも多く、面積も約7,434㎢と熊本県よりも広くなっています(数字はどちらも広州市統計局の発表に基づきます)。
県級市
地級行政区の下には、「県級」の行政区が続きます。地級市の中をさらに細かく分ける区分として、「〇〇県」という行政単位があります。日本では「県」の中に「市」があるのに対し、中国では「市」の中に「県」があるということになります。もうすでにちょっと混乱しそうです。
で、ここからがもっとややこしいので注意して読んでいただきたいのですが、県級行政単位の中でも一定の規模を持つものは、名称として「市」を名乗ることがあります。これらは「県級市」と呼ばれます。つまり、「市」の中にさらに「市」が存在するケースがありえるということです。
たとえば、広東省には中国建築と西洋建築の融合した建造物が有名で世界遺産登録もされている「開平市」という場所があるのですが、この「開平市」は県級市であり、「江門市」という地級市の中にあります。市 in 市です。ややこしいです。
もっとも、住所などを書く際には「江門市開平市〇〇…」と書くのはさすがに混乱するためか、通例として「江門市開平〇〇…」のように規模が小さいほうの「市」を省略して書くことが多いようです。
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最後にまとめておきます。
・中国の「市」には直轄市、地級市、県級市があり、それぞれ規模が違う
・地級市の中には規模や自治権の大きい副省級市と、それ以外のものがある
・県級市が地級市の中に存在する「市の入れ子」のケースもある
こんな感じです。
この他にも各民族自治区の行政単位は全く違う名前になっていたり、郷級行政単位の下に「村」「街道」「社区」など無数の細かな区分けが存在しているなど、なんかもう色々カオスです。おそらく一生かかっても把握しきれません。
知らないからと言って困ることがあるかと言われれば別にそういうことでもないのですが、こういうのもたまには、ということでご容赦ください。
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