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「外国勢力」という便利な言葉

先日、中国と世界を震撼させた珠海市での暴走自動車の事件。背景には離婚にともなう金銭的トラブルがあったと言われていますが、犯人は昏睡状態(ということになっている)らしく、動機についての真相はこれからも明かされることはなさそうです。よしんば明らかになったとしても、公にされることはないでしょう。

で、そんなふうに動機が不透明なのをいいことに……なのかは知りませんが、中国のネットでは陰謀論的な言説として、「この事件は『境外势力』(外国勢力)によって起こされたのではないか?」という話が一部で持ち上がっています。

珠海體育中心的案件發生後,社群媒體上還出現了一些「境外勢力作亂」的言論,暗示事件可能涉及外部勢力的干擾,(後略)

事件後、ソーシャルメディア上では「外国勢力による擾乱」という、この事件には外部からの干渉があった可能性を示唆する言説が見られた(後略)

上掲記事より、翻訳は筆者

何を言っているのかわからない人が多いと思いますが、一応の根拠としてはこの事件が発生したスポーツセンターで当時、航空ショーのようなものが開催されていたことがあるようです。

近年、中国の航空分野は大きく発展しており、このショーもそうした発展を誇示するものになっていました。そうした中国の飛躍を妬んだ「外国勢力」が、ショーを無茶苦茶にしてやろうと企み、トラブルを抱えていた人物をけしかけて事件を起こさせた……というのがその筋書きのようです。

一見してわかる通り、まともに取り合うような話ではなく、中国でも信じている人はほとんどいません。他方、それなりのまとまった数になる程度には、こうした言説が広まっているということは言えそうです。

たとえば、これについて調べるためにSNS(微博)で検索をしようとしたら、「境外势力」と一緒に「珠海」(事件があった地名)が予測検索ワードに出てきたり(つまりある程度の検索トレンドになっている)、AIによる自動まとめが同様の主旨の文章を生成したりと、こうした言説に一定の支持があることを思わせる事象がいくつか見られました。

ところでこの「外国勢力」というのは、中国において何か大きな事件が起きるたび、お決まりのように囁かれる存在です。個人の噂レベルに登場する場合もあれば、公的な言説のレイヤーで観察される場合も多々あります。

たとえば各種メディアには、「外国勢力」の脅威を煽ったり、警戒を呼びかけるようなものがいくつも見られます。

中国人民公安大学国家安全学院副教授赵辉指出,根据他的观察研究,近几年境外反华媒体和外国间谍更加注重对社会领域的渗透和破坏。他们利用我们的社会矛盾、热点问题、重大事件,挑起社会冲突,制造群体的分裂。

中国人民公安大学国家安全学院の趙輝准教授の研究によると、近年の反中メディアと国外のスパイは、社会への潜入と破壊により力を入れている。彼らは私たちの社会的対立、トレンドの問題、重大な出来事に乗じて社会的対立を誘発し、集団間の分裂を作り出している。

上掲記事より、翻訳は筆者

ここでは「重大事件に乗じて社会を破壊しようとしている」というロジックですが、そもそもその「重大事件」を反中勢力が起こしているのではないかというように拡大解釈されたのが、今回の事件の背後に「外国勢力」がいるのではないかというトンデモ言説につながっているのでしょう。

そのほか、公人の発言にも同様のロジックが見られる場合があります。

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