高度情報処理技術者 各区分の資格取得メリットについて(令和7年 春版)
だんだんと寒い日も増えてきましたね。秋の情報処理試験も終わり、次は春の試験です。
前回の試験を受けた方も、受けていない方も、高度の情報処理試験を初めて受けるという方も、
「何を受けよう?」と迷っていたり、
「そもそも受けるメリットってなんだろう?」と思っていませんか。
本記事では、主に実際にエンジニアの若手~中堅として活躍されている方向けに、
資格取得に興味はあるけど、費用対効果ってどれくらいあるんだろう?
苦労して取得しても、意味が無かったら嫌だな。業務に活用できるの?
基本情報(応用情報)は取得したけど、次はどの資格が狙い目なんだろう?
といった疑問にお答えしたいと思います。
筆者自身、エンジニアとして社会人経験を過ごし、高度情報処理試験の全てをコンプリートしました。
実際の業務経験も踏まえながら、資格が役立った場面を紹介したいと思いますので、参考にしてください。
■ATTENTION■
読んでくださる方のために、筆者のバックグラウンドを簡単に説明します。
✔ 社会人経験=エンジニア経験 20 年
業務カットの経験
✔ 社内の技術サポート
✔ フィールドSE(お客様御用聞き)
✔ システムインフラ保守・運用・構築
✔ エンタープライズ向けサービス開発・稼働維持・企画
技術カットの経験
✔ ネットワークやサーバーなどインフラ
✔ 簡単なプログラミング
✔ 自動化ツールの開発
転職経験
✔ あり(1回)
そんな筆者の視点から、各試験区分の取得メリットと、簡単な取得動機を説明します。
参考になるものがあれば幸いです。
0. 高度情報処理試験の全般的な取得メリット
まずは高度情報処理試験の全般的なメリットについて述べていきます。各区分別のメリットを先に読みたいという方は、本章は読み飛ばしてください。
0-1. 基本情報の知識補強ができる
本記事は、基本情報試験は取得済みの方を想定しています。
基本情報技術者試験は、テクニカル系・マネジメント系・ストラテジ系と、「広く浅く」知識を習得することができます。
そのため、使っていない知識はすぐに忘れがちです。
エンジニアとして長く活躍していきたいと考えている皆さんにとって、キャリアのステップや仕事の内容によって、知識の使う・使わないは明確に分かれます。
すると、使っていない知識は軽視され、忘れてしまいかねないですが、高度情報処理試験を受けることで、再度その区分の勉強をすることになり、知識の定着を図ることができます。
0-2. 高い奨励金を支給される場合がある
即物的なメリットとしては、奨励金です。
所属している会社や組織の方針もあると思いますが、IT業界の会社の資格奨励制度には、基本情報や高度情報の奨励金があり、多くの場合、高度情報はより多くの奨励金がもらえます。
中には10万円以上の高額の奨励金が出ることもあり、資格勉強のためにかかる参考書や通信教材のコストを差し引いても、「純利益」が出る場合があります。
かくいう筆者も、資格取得を目指した最初のモチベーションはここにありました。
ぜひ、ご自身の所属する会社・組織の資格奨励制度を確認してみてください。
0-3. 自分の意見を後押しする根拠になる
社内や組織で、互いに資格を保有しているか否かという話題になることはありますか?
筆者の所属していた会社では、そこまで頻繁に話題に上ることはありませんでしたが、半期や通期の目標設定/上司面談で資格取得に関するヒアリングもありましたので、それを機に、同僚で情報交換が行われることがありました。
そうすると、自然と、社内の○○さんは資格を大量に保持しているらしい、とか、○○さんと○○さんは高度の□□試験を受けるらしい、とか、そういったうわさ話が耳に入ってくることがありました。
そのような空気感を前提に仕事をしていると、ふとした業務遂行上の協議やディスカッションにおいて、○○さんは□□資格を保持しているから、これに詳しいでしょう、と自分の意見を通してもらえたり、決定権を渡してもらえたりすることがあります。
時には、ただの無茶ぶりもあるわけですが、それだけ慎重に避ければ、高度資格を保有していると、それだけ有利・円滑に仕事を進めていけることができるように思います。
0-4. 転職やポスティングに有利
情報処理試験は、歴史が長いことも有利に働きます。
制度自体は昭和40年代からの資格。
これは、いまベテラン以上の年代のエンジニアが若手の頃からあった資格ということです。
彼らも全員が取得できた資格ではないので、簡単な資格ではないことは知られています。
つまり人事部や転職先・ポスティング先のしかるべき役職についているであろう方の目にも止まりやすい。
これは、自分の市場価値を高める上で、差別化しやすい大変なメリットになります。
1. 各区分の取得メリットと動機付け
それでは本章から各区分の簡単な紹介と、筆者の経験を基にした取得メリットと取得動機について解説していきます。
1-0. 高度情報処理技術者試験の概要
前提として、試験の概要と形式に触れておきます。ここは知っているよという方は、本節は読み飛ばしてください。
高度情報処理試験とは、IPAのレベル区分でレベル4に該当するものです。
全部で9種類の資格があり、試験時間は次の通り。
※ただしSC(情報セキュリティ安全確保支援士)だけは午後I・IIの区別が無く、12:30~15:00で150分の記述式の試験です。
午前Iは4択問題で30問。午前IIは4択問題で25問。午後Iは記述式。
午後IIは資格ごとに記述式か論述式かで分かれます。
なお、午前Iは免除制度があり、応用情報・高度の合格者ならびに午前I通過者は2年以内であれば免除申請することが可能です。
以下、筆者の取得順に各試験について解説していきます。
受験予定の科目、気になる科目を中心にご確認ください。
1-1. 情報処理安全確保支援士のメリットと取得動機
■メリット■
あなたがアプリ寄りインフラ寄りいずれであっても、意識しなければならないセキュリティに関する知識セットを備えることができます。
セキュリティは近年ますます需要が高まっている知識分野の一つで、取得メリットは極めて大きいと思います。
高度区分の中では難易度的にもとっかかりやすく、他の区分の試験でもセキュリティの範囲は問われることが多いため、初めて高度を取る方、今後複数の高度を取る予定の方におすすめです。
■筆者の取得動機■
当時、ファイアウォールなどのセキュリティを具備するシステムを主に扱っていたため。
ポリシーベースの制御法は、セキュリティポリシーの実装の基礎ですので、資格取得後は、隣の部のセキュリティ実装の助言をしたら一目置かれるようになりました。
セキュリティに携わる実機を実際に触る方はオペレータとして、自分の判断を交えずに淡々と処理することが重要ですが、本資格があれば設計段階でセキュリティを加味させることや、オペレータの負荷にならないような可読性の高いポリシー実装や資料化に貢献することができます。
1-2. ネットワークスペシャリストのメリットと取得動機
■メリット■
あなたがインフラSEならば、登竜門的・代表的な資格に値するので、この資格を取得することで、システムの通信という根本的な部分を理解していることを示せます。
また、あなたが自チーム外の活動も意識しなければならないとしたら、OSI参照モデルとはそのまま組織やチーム分けの前提になっていることも多いので、この資格の知識を基に低レイヤと高レイヤを俯瞰視してチーム間の橋渡し役を買うこともできるでしょう。
■筆者の取得動機■
ルータやスイッチなど、ネットワークアプライアンスの担当となったため。
実務ではIPアドレスの計算を人より早くできることが信頼に繋がるように思います。
詳細で複雑なネットワーク図の読み解きもできるようになり、一歩進めて相手の理解度に応じて正確さと分かりやすさのトレードオフを調整しながら図おこしできるようになりました。
■COLUMN■
■効率的な勉強法
情報処理安全確保支援士とネットワークスペシャリストは相性がよく、重複して問われる要素があります。
情報セキュリティの脅威を考える上で、侵入"経路"とはネットワークに他ならないためです。
両者を両方取得するつもりなら、時間を空けずに勉強すると効率がよいかと思います。
1-3. データベーススペシャリストのメリットと志望動機
■メリット■
あなたがバックエンドのアプリSEであったり、システム全体の設計を考慮してデータの配置をデザインする立場であれば、データベースのテーブル設計手法やデータ呼び出しアプリケーションとの関係を説明・提案できるようになります。
あなたがフロントエンドのアプリSEであったり、インフラSEであったとして、実務に精通していなくても、簡単なSQL文やDB設計書を読めるようになります。
■筆者の取得動機■
業務上必要だった訳ではありませんが、自身の知見を広げるために取得。後年になり、システム保守の現場でSQL文やDB設計書に触れることがあり、知識の効果を実感しました。
また、要件定義の段階でも、データ同士の1対1とか1対Nとかといった特徴を掴んで、第三正規化やER図の知識を活かして図おこしし、関係者と認識の一致を図ることなどに、役立ちました。
1-4. プロジェクトマネージャーのメリットと志望動機
■メリット■
あなたが上司に報告しなければならない立場であったり、チームをまとめる立場にステップアップを考えていたりするならば、本資格の取得勉強を通じて、上司への報告に使いやすいフレームワークや、進捗管理や組織運営に必要なノウハウを学ぶことができます。
ネームバリューはもっとも高い資格。
転職やポスティングにも条件として明示されていることが、基本情報を除くと最も多いように思います。
ちなみに、プロジェクト管理やチーム運営に特に大切なことは、どんな分野に置いても、予め基準を決めておくこと。
こうすることで問題発生の予兆が掴め初動が早くなり、対応が均質化され、判断コストが下がります。
基準が間違っていれば、修正すればよいです。
■筆者の取得動機■
資格の名の通り、プロジェクト管理を任されることが増えつつあったため。
にわとりたまごですが、実体験があった方が合格しやすいと思う反面、先に合格レベルの知識を備えていると実際のプロジェクト管理も円滑にいくこともあるように思います。
結論としては、「実体験は必須ではない」ですね。
また、プロジェクトは必ず終わりがあり、目標があります。抜擢された若手が突然チームの目標を定めたりするのは気恥ずかしく不安もありますが、PMBOKに代表されるフレームワークに過ぎないと思えれば、淡々とこなしていくことが可能になると思います。
■COLUMN■
■筆者の体験談
私は当時はインフラレイヤのプロダクト知識が中心だったので、プロジェクトマネージャーの想定する業務システム開発の知識を勉強するのが最も苦労しました。
多くの論文事例集を読み込み、合格論文の"型"を掴んでいく勉強法をとりました。
■COLUMN■
■情報処理安全確保支援士との関係
プロジェクト管理にはリスク管理が重要で、上司によってはリスクの報告をするだけで事足りるようなケースもあります。
リスク管理は安全確保支援士の知識が活用できるのでリスク分析や対応策の策定を論述する際などに、勉強し直してみると効率的に思います。
1-5. ITサービスマネージャーのメリットと志望動機
■メリット■
あなたがシステムやサービスの運用・保守を担当しているなら、問題(インシデント)発生の暫定対処、根本対処の違いなど、見過ごされがちな業務の中で必要な本質的な要素を理解できます。
あなたが運用・保守とは畑違いであったとしても、運用・保守に引き継ぐべきフレームワークや重要な点を学べます。
また、ヘルプデスク運営が学べます。
■筆者の取得動機■
システムやサービスの運用・保守に携わっていたため。
運用側として、開発側からの受け入れ基準を整備することで、断る理由を説明して、チームを守れたこともありました。
運用をしていると、一見無駄に思う業務がたくさんありますが、資格を取得していると、無駄に見えるけど必要な業務か本当に無駄な業務か識別できるようになります。
1-6. エンベデッドスペシャリストのメリットと志望動機
■メリット■
あなたが組込みシステムの開発者であったり、制御系システムやエッジデバイスのプロダクトSEであるならば、本資格の知識を活かして、ハードやソフトの特性を改めて理解し、より最適なシステム実装の提案ができるようになります。
IoTやセンサーネットワークが叫ばれ、低コスト・高品質のエッジコンピューティングが求められている昨今、業界によっては需要の高いスキルと思われます。
■筆者の取得動機■
エッジデバイスを駆使したエンタープライズ向けサービスを担当したため。
既製品プロダクトをカスタマイズする際にも会社間、組織間の責任分界点を、契約書ベース以外に、技術的な領域で整理して理解・説明できるようになったと思います。
出題は、駅の改札口やドローン、自動運転システムや駐車場システム、自動音声案内ロボットなど、身近な題材が多く、興味をもって取り組みやすかったです。
1-7. システム監査技術者のメリットと志望動機
■メリット■
あなたが監査側の業務に携わる人ならば、監査そのものの意義や原則(独立性や追跡性)、監査人としてのふるまいを改めて学べます。
あなたが監査される側の人ならば、求められる監査記録や対応について学べ、システムログや議事録や管理基準の整備の必要性が学べます。
■筆者の取得動機■
いまいち監査の必要性が自分にも理解できていなかったため。
持続可能な組織を実現するためには、監査の手続きが古来から有効だったということが認識できました。
取得することで、普段の運用や開発の業務時も監査に求められる記録を意識して振る舞えるようになり、定期・不定期の監査への対応にも余裕をもって臨めるようになりました。
■COLUMN■
■プロジェクトマネージャーとの関係
プロジェクトマネージャーが、基準を整備することでリスクをコントロールしているとしたら、システム監査技術者はその基準と対応記録を査閲して適切にコントロールされているかを確認する立ち位置になります。
論文執筆時には、こうした立場を明確にする必要があります。
1-8. ITストラテジストのメリットと志望動機
■メリット■
あなたが管理職であるなど、技術者集団から一歩離れて経営陣に近いところで執務しているならば、本資格の知識を活かして情報戦略策定に関われます。
情報システムの経営に対する有効性の説明、KPIを設定して成果のモニタリングをデザインできるようになります。
あなたが一技術者であったとしても、企画や戦略の意図を理解しやすくなることになり、これにより、部門横断的な取組みや、既存システムの改善提案もしやすくなるでしょう。
■筆者の取得動機■
エンタープライズ向けシステムの企画業務に従事するようになったため。
既存システムの保守費用を捻出するのに、システムの意義や目標を踏まえて上司経由で経営側を説得する必要がありましたが、どんな説明が求められているか"あたり"をつけられるようになりました。
時々、まったく型にはまらない方もいて、その方専用の説明資料を作る必要があることもありましたが・・・
■COLUMN■
■PM・SM・AUとの関係
ウォーターフォール型の開発モデルでは、ITストラテジストが企画・要件定義フェーズに関わり、プロジェクトマネージャーが要件定義~実装フェーズに関わり、ITサービスマネージャーが運用テスト以降の受け入れと実際の運営を担うことになります。
システム監査技術者は上述のどのタイミングでもコントロールが利いているかを検証する訳ですが、出題として多い・実業務現場として監査の有効性が高いのはやはりプロジェクト管理のフェーズのようです。
1-9. システムアーキテクトのメリットと志望動機
■メリット■
あなたがどんな形であれシステム開発に関わる方なら、システムに採用する実装技術の利点と欠点への理解が深まります。
また技術のフィージビリティの評価ができるようになります。
■筆者の取得動機■
高度区分の試験全制覇!
開発系の業務は最近は離れてしまいましたが、世にあるプロダクトや技術を組み合わせて自分の手で検証、実装するのはエンジニアの醍醐味と思います。
おわりに
いかがだったでしょうか?
資格取得の費用対効果や、基本情報(応用情報)の次に何を取ろうか迷っている方に向けて有益な情報となっていたら幸いです。
各試験のメリットを記載したので参考にしていただき、ご自身のキャリアプランに合わせて、最適な資格を選択していくことが、費用対効果も最大化されることになると信じています。
本noteでは、高度情報処理試験の、合格に向けたサポート記事を充実していきます。
是非、一緒に頑張りましょう!
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