聖書の隠された意味
秘義としての福音
福音の本質は，愛ではありません。なぜなら，ストア主義やユダヤ教も愛を重視したからです。福音の本質は，創造です。神の似姿としての人間が，神の創造を継続すること。今までは神が人間に啓示してきましたが，これからは人間が神に啓示すること。そして，愛は創造という観点から再評価されねばなりません。なぜなら，人間は人間仲間に赦されることにより，生まれ変わることができるからです。
命名の意味
「主の口が定めた新しい名をもって，あなた方は呼ばれるであろう」(イザヤ書62－2)
福音の本質が創造である理由は，主に二点あります。第一に，聖書における命名の意味です。聖書における命名は，創造を意味しました。
「その子をヨハネと名づけなさい」(ルカ伝1－13)
ヘブライ語のヨハネは，「神は愛である」を意味します。つまり，洗礼者ヨハネは，神の愛を明らかにするイエスの先駆者になるよう創造されたのです。
「その子をイエスと名づけなさい」(マタイ伝1－21／ルカ伝1－31)
ヘブライ語のイエスは，「神はわが救いである」を意味します。つまり，イエスは神の救いをもたらす者であり，約束された救世主として遣わされたのです。
このようにして，ヘブライ人の歴史は，神の創造の記録でした。アブラムはアブラハムと名づけられたことにより，人類の始祖となりました。ヤコブはイスラエルと名づけられたことにより，イスラエル民族の父祖となりました。シモンはペテロと名づけられたことにより，教会の礎となりました。サウロはパウロと名づけられたことにより，異邦人の使徒となりました。ヨハネはボアネルゲと名づけられたことにより，熱烈な愛の使徒となりました。
ギリシャ語の「人間」は，「上を仰ぐ者」を意味します。サンスクリット語の「人間」は，「考える者」を意味します。また，日本語の「人間」は，「互いに支え合う存在」を意味します。このように，人間という言葉の中に，各民族の性格が表現されているのです。しかし，私はこう考えています。本来的な人間とは，「名前を持ち命名する動物(ζωον ονοματικον)」ではないかと。つまり，人間とは，特別なものとして神に創造され，神の創造を継続するため世界に遣わされる存在なのです。
イエスの沈黙
ある人は言うかもしれません。「もし福音の本質が創造であるのなら，イエスはそれを命じたはずだ」と。しかし，考えてみて下さい。誰かに命じられた行為は，本当の意味で創造と呼べるでしょうか？創造とは，自由な行為です。創造的な芸術家は，他人に命じられず，他人の模倣もしません。ですから，神に命じられた時点で，それはもはや創造ではないのです。
また，ある人は言うかもしれません。「もし創造が福音の本質であるのなら，聖書にそう書いてあるはずだ」と。本当にそうでしょうか？文字は死物です，真理は霊です。創造は，霊によるインスピレーションであって，インクで書き記された文字ではありません。
確かに，イエスは創造を命じていませんし，聖書の中に「創造せよ」という言葉もありません。しかし，イエスは，耳ある者だけに分かるよう，創造を暗示しています。
「聖霊があなた方に真理を示すであろう」
「あなた方はわたしよりも偉大なことを為す」
この秘密めいた数々の言葉こそ，福音の本質を暗示したイエスの本心ではないでしょうか。
人間とは何か？
「ひとりの嬰児(みどりご)が私たちのために生まれる」(イザヤ書9－6)
政治学者のハンナ・アーレントは，コンサートホールでヘンデルの「メサイア」を聴いた時，突如として啓示を受けました。イザヤ書の「ひとりの嬰児」の意味が，新しく啓示されたのです。アーレントは言います。「ひとりの嬰児」とは，「a Child」ではなく，「a child」であると。つまり，たった一人の救世主イエスではなく，我々一人一人の人間であると。
私たちは皆，新しいこと(something new)を為すため，この世に遣わされました。各人は，それぞれ独自の使命と役割を担って，この世に生を受けたのです。人によって，その使命や才能は様々でありましょう。しかし，我々の使命には共通する一事があります。
「一灯照隅(いっとうしょうぐう)」
それは，真理が完全に見失われた暗闇の世界で，希望の光を灯すことです。この神なき真理なき世界の真っ只中で，雄々しく神の正義を代弁することです。
以下は参考書籍です。
