フランス 住宅事情と騒音
パリには一軒家はほとんどない
私たちはもちろん”仮住まい”のつもりでアパートを賃貸契約したわけですが、パリに住んでみてよくみると、どこの街も大きな建物が通りに沿ってズラーっと並んでおり、壮観な眺め。地域によって密度や雰囲気に多少差はあるものの、凸凹グチャグチャした印象はありません。
高い丘や塔の上から眺めるとよりよくわかるのですが、パリには一軒家はほとんどありません。みんなアパートで暮らしています。しかも多くは持ち家ではなく賃貸。外から見る景観を損なわないように厳しい決まりはありますが、それ以外は賃貸でも好きなようにアレンジして暮らしています。
通りを歩くと「窓枠やさん」とか「水道の蛇口やさん」とか、結構な割合で家を”部分的に”売っているお店があります。最初は一軒家がないのに、どんな人がこんなお店に行くんだろうと思っていましたが、みなさん、アパートの改造を楽しんでいるのかもしれませんね。日本だったら、一軒家でさえ全部お任せワンセット的な購入の仕方をしますよね。
また、それは古い建物をずーっとリサイクルして使用しているせいもあります。木造の多い日本家屋とは違って、パリでは何百年も前に建てられた建造物を改築しながら使い回しているので、水回りや電気など、不具合も出てくるのでしょう。歩いていると、必ずどこかしらで工事をしています。
アパートのきまりごと
アパートに住むにあたって、日本の場合とは違うきまりごとがいくつかあります。洗濯物は窓の外やベランダには干してはいけません。室内干しが一般的です。洗濯物が外に干されている風景は美しくないというフランス人の美意識からくるきまりです。しかし日本に住んでいても、私は通りに面しているベランダには干したくはないかなあ。見られたくはありませんものね。
ペットは、契約書に飼ってはいけないことが明記されていない限り、飼っても良いようです。ネコちゃんは基本的に室内にだけいると思いますので、どれだけの人が飼っているかは不明ですが、ワンちゃんのお散歩には毎日たくさん遭遇します。
話はそれますが、フランスでは日本と同様にたくさんの飼い犬や猫が捨てられる事実から、「動物愛護に関する法案」が可決され、ペットショップでの犬と猫の販売が禁止されています。ブリーダーから購入したり、保護施設から引き取ったりすることはできるのですが、少なくともショーウインドウを見て衝動買いすることは防止できます。ペットショップ撲滅派の私としては、早く日本でもそうなってほしいと思っています。
ただ、スマホのアプリでワンクリックで購入できるなどという新たな問題もあり、さらにみんなで考えていく必要があります。そもそも、バカンスの時期に数週間単位で留守にするフランスの方々は動物を飼うことなんてできないのでは?
フランス人は本当によくタバコを吸います。でも、建物の中で吸うのは法律違反。アパートでも同じです。タバコに関するお話は、また別の記事でご紹介します。
音に関しては、夜10時以降、朝8時までは音を立ててはいけないという法律があります。日曜日と祝日の騒音も禁止です。騒音といっても人の声、歩く靴の音、楽器の音など色々とあり、〇〇dB以内などと決められていてもいちいち測るわけではありません。何をどのくらい気をつけたら良いかは私たちが感覚的に判断し、あとはご近所と個人的に話し合うなどの必要があります。また、周りにどのような人たちが住んでいるのかにもよります。
アパートでのピアノの練習
私たちが気にするのは、自分たちが出す音、特にピアノの音に関してです。日本で暮らしていた時は、ピアノの音に対する苦情にさんざん悩まされてきました。学生の時や独身時に住んでいたアパートは、楽器演奏可能な物件でないとそもそもピアノを運び込むことすらできなかったので、それはそれで良かったのです。
問題は結婚後に住んだ分譲マンション。ピアノを搬入してはいけないとも楽器の音を出してはいけないとも契約書には書いてありません。実に曖昧ではありますが常識の範囲で音を出し、何か問題があれば自分たちで取り決めていく形になります。
それでも少しでもご迷惑にならないようにと1階角部屋を選び、入居時にある程度の防音工事をしました。でも決め手になるのは、どのような方がご近所に住んでいるかなのです。小さな子供がいて常に騒がしいとか、あまり細かいことを気にするタイプではないとか、家にあまりいないとか、こちらが音を出しやすい環境だと大変助かります。しかしその時は常にご在宅で静かーに暮らしていらっしゃる方が真上に住んでいました。
もう気になり出すとどうにも止まらないことはこちらにも理解できますが、マンションの管理人さんを通して、苦情→防音対策→苦情→対策…の繰り返しでお互いに神経がすり減ってしまいました。私としては直接お話をして、お互いに妥協できるところで取り決めをしたかったのですが、ドアベルを押してもどうしても出てきてはくれなかったのです。最終的には私たちが戸建てに住み替えをし、心おきなくピアノを弾けるようになったことで一件落着。
そんなことがあって、フランスでのアパートへのピアノ搬入は緊張するものでした。どうやら同じ建物の中に保育園のようなものがあり、子供たちの声が聞こえてきます。よしよし、環境的にはこちらも音を出しやすいかもしれません。
そんなある日の午前中、突然ドアベルが鳴りました。「キタか…!?」と覚悟を決めて出てみると、上の階にお住まいという男性が立っていました。話し方は優しくて紳士的。私に威圧的な態度はとりたくないという配慮を感じました。
まずは、「ピアノを弾かれるんですね、とてもお上手ですね。」というお話から始まりました。ピアノのことはよく分からないのだけれど、電子ピアノなのですか、それともリアルなピアノなのですか、という質問。話によるとテレワークをされていて、リモート会議の際に相手側に私のピアノの音が聞こえないかどうかを心配されているようでした。
電子ピアノだとしたら音量を落とすこともできるかと思ったようで、リアルピアノだと知ると”それでは大丈夫です”と諦めて帰るそぶりを見せました。絶対に迷惑をかけたくないと思った私は、一度会議の間にピアノの音を出して、どれだけ聞こえるのかをやってみたい、と申し出ました。もし聞こえるようなら、今後会議の予定を教えてもらえればその間弾かないこともお安いご用なのです。
ショートメッセージでやり取りできるようにして、トライアル。「大丈夫、
聞こえませんでしたよ!」との結果報告でした。しかも「やっぱり上手ですね。」との追伸付き。良い方で本当に良かったと、ホッとしました。フランスでは、苦情になることがあっても、絶対に弾くな、とはならないと聞きます。やりたいことは
尊重してくれて、お互いの落とし所を話し合って決めるのです。何よりも嬉しかったのは、『すぐに』『直接』話に来てくれたこと。日本だったらこうはいかなかったかもしれませんね。
驚き!土曜日のパーティー
こうして、普段は互いに気を遣いながら静かに生活しているわけですが、ある土曜日の夜8時頃から、どこかの部屋に大勢の人が集まり始めたのです。そして、話し声、笑い声、靴の音、爆音大音量ミュージックのパーティーが勃発!夜中の2時、3時まで続きました。
え?!これ、いいの?誰かが文句をつけにいく様子もありません。耳を疑いましたが、土曜夜のパーティーはどうも暗黙の無礼講のようです。貼り紙をして事前に断る場合もあります。なるほどね。いいのね。まあ、もちろんご近所さんによっては
トラブルになることもあるとは思いますが、うちはそのくらいやってもらったほうが、こちらも音を出しやすいというもの。
それにしても、これが毎週だったらちょっときついなーと思っていましたが、毎週ではありませんでした。ホッ。