【前篇】包茎と、醜形恐怖と、抗がん剤と。それでも私達は今日からまた恋をする。
15年間ほど、Amebaブログ一辺倒で記事を書いてきましたが、これからはへんな話とか有用な話とかを抽出して、noteに綴っていこうと思います。今日は(たぶん)、へんな話です。
私は25年間ほど健康系の編集ライター業に勤しみ、それから50を前に、とつぜん施術業に転身したので、たいしたバックボーンもなく、実体験がいのちです。
なので毎日クライアントのお話を食い気味に聞いています。
◆
そんなおひとり。
私の施術に2年ほど通ってくれているガガさん(50代)は、いつも変な話しかしない。
あちこち気ままに移住されてきた方なのだけど、20代に南のルルル島(仮名)で暮らしていたときのエピソードが、香ばしい。
たとえばこんな怪談。
「ある日、島の連中と大宴会をしている途中に、尿意をもよおした。
のだが、
トイレが埋まっていたので、サトウキビ畑で用足しをすることにした」
「そして腰をおろしたら、突然、
空に浮かんでいた満月が、ズズーーと海辺に降りてきて、ふにゃふにゃとした化け物になって、笑いながら猛スピードで追いかけてきた。なので、パンツをずり下げたまま四つん這いで逃げた」。
という…。
月に一番近い島って、そういう意味だったのか。
「私は酔っ払っていなかったし、あれは幻覚ではなかった。あの島では、そういう不思議なことが起きるんだ」
と、力説されていたが、野ションされてる時点で、泥酔しているとおもうんですよね。
そんなガガさんのお仕事は、イベント関連のオーガナイザー。いつも話しながらゲヘヘと自分で笑ってしまう気の良い姉御肌で、老若男女のスタッフやアーティストに囲まれている。
昨秋(2023)、私がイギリスへ出張させてもらった折、ついでに現地の方を施術しますと募集したら、
ガガさんが「友人の娘・ルルを見てやってほしい」と紹介してくださった。
ルルル島生まれで、赤ちゃんの頃からガガさんが成長を見守っていたお嬢さん。今はロンドンでイラストレーターの修行中とのこと。
それはぜひ、ということで、ロンドンのゲストハウスでお目もじしたルル嬢は、島の風を思わせる艶髪のなびく女子。色白肌に目ぱっちり、佇まいの楚々とした、ベティちゃんみたいなハニーフェイスだった。
今の若い人、ベティちゃんってわかるかな。
ロンドンのぐずついた気候や、請負仕事の過酷さからか、しかし、ルル嬢は腱鞘炎に悩まされており、元気がなく、声もなんだか覇気がない。
「こんな可愛い20代がひとりで、ロンドンで揉まれて大丈夫なんだろうか」と心配になってしまった。
が、「パブでナンパされたオランダ人と同棲している」ということで、ちゃっかりした面もあるようだ。
私もパブに繰り出したが、誰もナンパしてこなかった。30年遅かった。
オランダ人はしかし、定職を持たず(オーガニックと称しCBD、CBNオイルを売りさばいているらしい)、世界中をキセルしながら旅して何度も捕まり、金も全くなく、ルル嬢のアパートに転がり込んできたらしい。
やっぱり心配である。世界中キセルって…。
ルル嬢はそのオランダ君をかなり甘やかしているらしく、施術が終わった後、「遅くなってしもぉて、かんにんなあ…ごはん、まだ食べてないん? sorry…」なんて小さな声で電話している。
キセルのヒモにそんな気を遣わんでも、と、おばさんはまた余計な心配をする。
そして時は移り2024夏。
ガガさんが関わった、とある仮面舞踏イベントにて、受付を手伝うルル嬢と再会することができた。
オランダ男とは別れ、ビザも切れ、日本に一時帰国しているルル嬢は、アート系のポップアップショップで働きながら、意欲的に勉強を重ねているとのことで、生き生きした血色ある表情だった。ああ、よかった。
しかも、新しいイタリア人の彼氏ができたとのこと。楚々とした佇まいのわりに、なかなかの猛禽ぶりだ。
一体どこでそんなに男の子を調達できるんだろうと思ったら、『日本語おしえる代わりにあなたの言語おしえて』的なlanguage Exchangeサイトが、ハッテン場、もといマッチングのワールドバージョンとして機能しているらしい。
おばさんも登録してみようと思って覗いてみたら若者ばかりだ。誰かこれのシニア版をつくって戴けないでしょうか。中高年はお金を持っているので、けっこう課金できるかもしれません。
さて、そんな世界の若者がひしめく出会いサイトでルルと引き合ったのが、東京の某名門大に留学しにきた、ボローニャ大学の学生・Bくん。
ボローニャ大学といえば、イタリアでも最古と言える歴史をもつ名門大学である(1088年設立ーーー約900年の歴史)。
日本のアニメキャラクターのような、甘いルルのルックスに一目萌えしたらしいボローニャくんは、早速ガガさん宅で催された飲み会にやってきた。
(ルルはガガさん宅に居候している)。
最初こそ「まだまだ、そんな仲やないでえ。最近オランダ人と別れたばっかりやし…」
と、すましていたルルだが、飲み中にボローニャに熱心に口説かれ、あっさり転んだらしい。ガガさんがふと部屋を覗くと、二人で仲良く手を繋いで寝ていたという。若者、早っ。
だが問題発生。
名門大に在学中で、よいお家のボンらしいボローニャくんーーーー皆に「ボロにゃん」「ボロボロにゃん」と呼ばれるうちに、「こんにちは、ボロです」とLINEしてくるようになったーーーーは、イタリアの猛禽ではなく、バンビーノだったらしい。20代半ばにて、まだ童貞であった。
日本製とは構造が少々違うのか、万国共通のフィッティング問題であるのか、ボロのバンビーノはあまりにも頑丈な外皮に包まれ、なかなか剥くに剥けない。
行為に及ぶと想像を絶するほどの激痛らしい。
何度か二人でトライしたものの、バンビーノが絶叫するのであきらめたらしい。
そんなわけで「本日も、ボロは童貞更新中やで〜」とルルはすましている。
ボロのほうはなんとかしたいらしい。したいよな。
Yes!高須クリニックなど、いくつかの整形外科で剥き手術を検討したらしいが、
いやいや、泌尿器科で保険内で手術できるらしいということで、標準治療にトライすることにした。
留学ビザなどを所持していれば、外国人でも日本の保険治療が受けられる場合がある。最近はこれを狙って日本に入国しにくる外国人も多いという。
日本にさえ来れば、あり得ない安い費用で、あり得ない水準の医療が受けられるヒャッハー!!
なのだそう。
中国人が日本で出産助成金(42万円)を申請すれば、中国本土に帰っても助成金をもらえるので、妊娠していないのに助成金を申請するケースもあったりする。
何か色々めちゃくちゃになってきた。
翻って、日本の庶民が、適切な治療を受けられない時代が来そう。
それどころか、これからは医師や弁護士、政治家といった職に外国人が就くケースが増えそうだ。私のいま通っている語学学校に、国際弁護士の資格をもつメキシコ人がいて、声を潜めておっしゃった。
「私の街の治安が悪すぎて(一日に15人の市民が行方不明になるという)故郷を出たんだけれど、欧米の物価は高すぎるので日本に来た。日本はとにかく安くていいです」。
かくして世界中の辺境から、インテリが「日本なら専門家としてやって行ける」と押しかけてきている。
ついこの前まで大勢いたベトナムやタイ人は「日本は賃金が安すぎる」と出て行っている。もうカオスですね。
日本の若者は、少しでも海外に出られるチャンスがあるなら、いちど出た方がいいと思う。
◆
さて。
そういうわけで、ボロという優良物件を見つけたルル嬢は、速攻で逆プロポーズをした。配偶者ビザがあればEUの永住権が取ることができる。行動が猛禽すぎてすごい。
よい所のボンであるボロのおうちは、イタリアの高級リゾート「ポルトフィーノ」にあるという。
彼のマンマは毎日、ビーチに寝転んで、気ままに動画を撮ったり、ワインを飲んだりして暮らしているらしい。
「一体、どんなお母様なの?」と、ガガさんもルルも興味しんしんでマンマの写真を見せてもらったら、
予想と、ちょっと、違った。
どちらかというと、「ビキニを着た岩井志麻子氏ふう」であった。
派手なメイクがハレーションを起こし、しぼみかけた果実が二つ、ビキニトップからはみ出していた。
「ほれ、あっちの人って、乳首が見えても気にしないから、はみ出すっていうか、もう全開で。なんか崩壊してて」、ガガさんゲラゲラと笑う。
もう、このあたりで、私の施術も崩壊してて。
ガガさんの背中をバンバン叩きながら笑うしかない。
「いてえしー、いてえしー」と言いながら、ガガさんもベッド上で背を丸めて笑う。顔に布をかけているにもかかわらず、ツバがびんびん飛んでくる。
この人のカルテを、最初はまじめに書いていたんだけど去年くらいから放置している。
かくして。
ボロと国際結婚し、ポルトフィーノ海岸で優雅なハミ乳ライフを画策するルルだったが、
そうは問屋が下さない。
突然、別れたはずのオランダ人が、日本に押し掛けてきた。
正確にいうと、ルルの新しい勤務先のアートショップにやってきた。
「あのう。今、へんな花柄の服を着た外国人が、ルルさんにすぐ会わせろと言って座り込んでいますが…」
職場から電話をもらったルルは慌てた。
就職が決まったうれしさで、つい、別れたオランダ人にメールしたのが間違いだった。
だって、まさか押し掛けてくるとは思わないじゃん。お金もないのに、日本まで。一体どういう手段で?
そらもう、非合法的手段である。
丁寧に、何度もスリやキセルを重ねながら、飛んできたらしい。飛行機でキセルって、どうすんねん。
かくして勤務先のショップに現れたオランダ人。幸いにもルルは不在であった。
個性的なスタッフの多いその店でさえ、花柄シャツにギリギリすぎるショートパンツ、ひたいに富士山を入れたオランダ人の風体は(どこで彫った)、怪しすぎて大騒ぎになり、押し問答の末に、
「I‘ll be Back」と言い残して消えたらしい。
ターミネーターか。
後日、
「あんたねー!日本に押しかけてきたって、私は元さやに収まる気はないよ。もう新しい男ができて結婚するんだから。それより、ロンドンで貸してたウン万円を返せ」
とルルに言われたオランダ人は、逆ギレして、
「金なんか返さねーよ。何だよ、くそあま!
ばーーか ばーーか ばーーーか!!!」とオランダ語で叫んだらしい。
やっぱ、狭い島国でワーワーやってるより、世界中の人間とセッションした方がおもろいな。
ここで少し脱線するけれど(回収します)、
もとより私は、お上品な施術者にはなれない。バックボーンが私の品位を定めている。
いちおう家族の名誉のために加筆すると、一家全員が地元の同じ進学校を出ており父は銀行員である。地味で真面目な家庭である。
少女時代から私の素行だけおかしかった。盗んだバイクで走り出す度胸はなく、ヒッチハイクで東京の“ディスコ”に発散しに行く程度だったが。
個人的な統計では、ヒッチハイクの際は、八代亜紀でフル武装したデコトラに乗ってるようなイカついおじさんが、一番情にもろくて優しかった。
「おめえ一人で東京に治療に行くんか、これ持ってけ」と、しわしわのお札を手に握らせてくれたりした。
病気の治療というのはあながち出鱈目でもなく、そのおっちゃんが「おめえ……ほっぺた、どうした」と絶句するほど、高校生の私のニキビは噴火し、痘痕状態となっていた。
つまり東京ヒッチハイクの目的は、芝浦GOLDで踊るだけではなく、必死に調べた美容皮膚クリニックにかかることや、バイトで貯めたお金で最先端の高機能クリームを購入すること。(父母の方針により小遣いはゼロ円だった)。心身共にひりひりしていた。
そういうコンプレックスが強かったので、今、若いクライアントたちの悩みも我が事のように感じられる。
例えば30代Mさんは、傍目から見れば美しい容貌を持っているのに、自らを「醜形恐怖」、「日光過敏症」とし、いつも逮捕された人のように全身ぐるぐる巻きに布を重ねている。
カウンセリングを重ねた結果、十代初期に、誰よりも強く内包していたエロスや性欲やプライドや支配欲を親や社会に反故にされ、こじらせている深層心理が浮かび上がってきた。痛いほど共感できる。過去の皮がヒリヒリする。
肌や顔形が醜いということにすれば、現実を直視しないで済むし周囲をコントロールできる。そんな「疾病利益」がある。
実は美しいMさんは、大きな瞳をふせて、「もう30代後半だから、今から恋愛することは困難」と感じると言う。
だからこの話を書いておこうと思った。
「何歳からでも遅すぎることはない」ーーーそんな絵に描いたモチみたいな言葉の、本当の凄みというのを。
かくして話はここからが本題です。
ルルには78歳になる「ぴいたん」というおばあちゃんがいる。介護スタッフの仕事をしながら(老老…)、趣味で童話を綴っておられる。
ぴいたんのもとに、事件は起こった。
続きは【後編】に掲載します。