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災害、絆、心の輪

はじめに

この記事には災害の状況を記載しております、
気分を害する場合がございますのでご注意ください。

2022年8月7日 21時頃

18時頃より猛烈に振り出した雨について友人と話をしていた。
私の働いている医療関係の施設は水害を受けやすいところに位置していたのだった。
『施設は大丈夫だろうか、危険レベルが3だよ』『そうだね、心配だね』そうこうしているうちに近くの川が氾濫したと言う情報が入る。

私は上司と連絡を取り、どう動くかを話していた。それを友人に伝えていると、上司が現場を見てくると言う事になり、情報を待った。

23時頃

上司より、更に上の上司が駆けつけ、1階の患者を非難させていると情報が入った。行きましょうかと尋ねると『頼む』との回答だった。急いで着替え、友人に状況をたった一行だが知らせてから施設に向かった。

大雨と言うよりはハリケーンの様な状態。そこはもう道路ではなく川だった。水溜まりを避けながら、できるだけ急いで車を走らせた。こんな状態だと言うのに凄いスピードで歩行者に水をぶっかけて走るバカも見受けられた。車が走れない状態ではなかったが、時折叩きつけるように降る雨で視界が何度かゼロになったので、かなり恐怖はあった。

立往生している車もあったが、施設に急がなくてはならないので、心でごめんねと言いながら過ぎ去った。

23時30分頃

辿り着いた時に見た施設は湖に浮かぶ城のようだった。靴ごとガポ!と水溜まりに降り立ち、人命救助のエキスパートの如くバッシャバッシャと水の中を進んだ。雨も風も凄く、ほんの数秒でTシャツは吸水の限界を超えた。この時点で非難は終了していたので、私はびしょ濡れのまま直ぐに翌朝の食事準備をすることにした。冷房が濡れたTシャツをじわじわと冷やし、身体が冷たくなる。しかし蒸し暑さは死活問題レベルだったので冷房は止めることはできない。その寒さも走り回っていたら身体の熱が上回ったのだが。

食事準備と言っても蓄えていた非常食を人数分用意すると言う話で、料理や調理をするわけではない。一番大事な水の確保も行う、これも備蓄水として保管されているので、施設外の人間に指示を出し準備してもらう。緊急用にガスコンロやガスボンベも準備した。

どこにしまったっけ?備蓄水はあそこです、コンロあそこにありますよ、ボンベはあそこです。

どこに何があるか、日々の業務の中で何気なく見ているモノ、これを記憶しているか否かで緊急時の対応速度に大きく差が出ると改めて感じた。まさかの時に誰も覚えていない、こんなことがあったら致命的だと思うと少しゾッとした。

それが終わると浸水した時の為に電気機器の避難。高額だと言うのもあるが、会社として機能しなくなってしまったらダブルパンチであるからだ。

友人からの連絡に気が付いたのはあらかた終わったころだった、こちらに向かっているところを引き返してもらう事になってしまい、大変申し訳なく思った半面、まだまだ道路が危険な状況だと言うのにチカラになろう、救おうとして行動してくれたことに感激し、有難いなぁと心底思った。もちろん他にも数名が上司に連絡をしていたらしい。

私はこの時こうも考えた。

この後に私たちにもしもの事があった時、元気満タンの人間が駆けつけてくれた方がいい、準備が終わった今、たくさんの人が駆けつけても眠ることなくただただ全員が疲れてしまう。次につなげるためにも、チカラになりたいと言う気持ちを抑えて待機していてもらうのも大事だなぁと。命のリレーと言ったところだろうか。

ただ、最前線の現場に居た私には本当に本当に有難い言葉だと感じた。

2022年8月8日 午前0時頃

着替えを取りに上司と共に互いの自宅を回る。街はあちこち土砂にまみれ、交通が麻痺していた。
施設に戻り、現状の視察をした。

氾濫したら施設が沈む危険性の高いとても大きな川。
この川の水位が重要なポイントとなる。
降りしきる雨の中、水位は氾濫迄あと30cm程だった。
事態は深刻で予断を許さない、緊迫した時間が続く。

周囲は道路が無い状態で、もはや川。
行けると踏んで突っ込み、動かなくなって乗り捨てられた車も見られた。地下駐車場に水が入り込んで地下プールの様になっているマンションもあった。街は壊滅状態とまではいかないが、ほぼ機能していない状況だと言う事は見て取れる。その光景には昨日までの日常は無かった、世界が終わる時ってきっとある日突然このようにやってくるのだろう。けたたましく鳴り響くサイレン、民家に安全確認をして歩く消防隊。だが、任務の種類や命令はわかり兼ねるけれど、道で立ち往生している車を素通り、困って不安でウロウロして歩く住人に声すらかけない隊員の姿には少し残念な気持ちになった。もちろん全員がそうと言う話ではない。

午前2時

水位が少し下がったのを確認、雨も小降りになってきたので、翌朝に備えて少し眠ることにした。

歯を磨き、落ち着かないので上司が一緒だったが構わずガチでシャドウを行い、身体の緊張を解した。ソファーに横になるが、会社で眠るなど初めての事なのでどうにも寝付けない。もしも川が決壊したらと考えるとその緊張も手伝って尚更眠れない、神経が昂り、小さな物音でも目が覚める。

午前4時頃

起床して、歯を磨き、昨夜買って置いたソーセージパンを口にする。身体の内部が疲れていたのだろう、恐ろしく美味しかった。キャラメルラテが身体中に沁み込むのを感じた。一夜明けた、そう実感した。

午前4時30分

川の水位を確認すると、軽く1mは下がっていたので安全と判断して、上の階に避難させた患者さんを1階に戻すことにした。1人1人連れて、荷物と布団を運び、部屋に戻す。機材を戻し、ありとあらゆるものを片付けて、飽きてきたので明るくなってきた外に出る。

そこは泥の沼だった。

殆ど寝ていないしんどい身体に鞭を入れ、泥を雪かきのスコップでかき出すことにしたのだが、恐ろしく重い!思っていたより重い!思い思いに思い思われ重すぎる。ユルいカレーの底にキーマカレーがある感じ。なのでスーーーーーーっと運べないし、ユル過ぎてすくい上げる事も難しく、深くスコップを入れると重くて持てない、まるで泥の試練に落された地獄のようです。1時間程その作業をするが、素通りして出勤する人、ご苦労様ですと声を掛けてくれる人、手伝いますよと言ってくれる人、更には休みなのにSNSで手伝いに行こうか?と連絡をくれる人、いつでも行けるように待機してるよとの言葉もいただいた。こういう時に人間性って出るものですよね、ブーストかかってより頑張れました。

人間性と言えばみんなの上に立つ人間のほとんどが連絡すらしてこないと言う状況に私は怒りどころか呆れ果てましたね。パートで働く方々が連絡をしてきてくれていると言うのに。

早番さんが出勤してくると一気に状況改善のベクトルが右肩上がりになった。先に言った元気な人間の導入と言うかバトンタッチですよね。私もバトンタッチを行い、翌日かその次の日に放水可能な状況になったら泥にまみれた玄関の復旧作業を仲間にバトンタッチしたいと思います。翌日も出勤なので私がやるべきなのだが、実はその日は予防接種なのです。過去3回高熱が出ているので、今回も恐らくただでは済まないと予測します、廃人になるからです(笑)

最後に

今回の災害を受けて、仲間の心のエールってホント現場では力になるし、元気出るし、勇気も出るなぁと感じました。仲間のピンチには私もエールを送り、可能なら助けに行こうと思います。

駆けつけるのも大事だけど、待機するのも大事ですよね。今力になる事と、引き継ぐ力になる事、人の輪が力を繋いでいく、凄いよね、人の心って。

たくさんのエールに救われました、ありがとうございます。

来た人も待機してくれた方も、皆で踏み出した一歩が希望を繋いだこと、これは大きな経験となり、糧となりました。

帰宅後の塩ラーメンが泣けるほど美味しかった。

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