小説版『アヤカシバナシ』訪問者
親戚の女の子が癌を患ってしまい、
余命宣告をされてから数ヵ月が経った。
私はその日仕事が休みで、午後から異常な睡魔に襲われ、
伴侶も仕事だったため少し眠ることにした。
ボムッ・・・
どれくらい眠っていたかはわからないが、
玄関のドアが閉まる音がした。
当時住んでいたマンションはホテルのような造りで、
ドアはとてもがっしりしており、閉まる時も静かに、
そしてゴムが吸い付くようなボムッと言う音がするのだった。
伴侶が帰って来るのは夜だ、明らかに今は夕方、
帰って来るはずがない、早退だとしてもケータイに連絡があるだろう。
床が全面防音で防火用のカーペット仕様なので歩くと
微かな足音しかしないが、廊下をズッズッズッと歩く音がする。
玄関から伴侶なら5歩だが、6歩だった。
おかしい・・・でも鍵を伴侶以外が持っている訳がない、
もちろん不動産屋さんや管理人が勝手に入ることなどあり得ない。
カッチャッ・・・・
廊下から居間に抜けるドアが開けられた。
そこは14畳くらいの居間に。
その隣が私が今寝ている寝室。
歩数にして5~6歩と言ったところか・・・・
スッスッスッ・・・
来てる、完全にこっちに来てる。
目を閉じて待ち構えていると、瞼に影が落ちるってわかりますかね、
目を閉じていても光はわかる、その光を遮る影が落ちたんです、
つまり私の顔の真ん前に誰かが居ると言う事を意味する。
その影が大きくなる、近づいている証拠だ、感覚では鼻の先から
2~3cm先に相手の顔があると思う・・・
そして微かな吐息を感じた。
目を開けるべきか悩んだが、吐息が感じるが臭いがない、
影は感じるが・・・要するに気配はあるが存在感がないのだ。
ここに不信感を抱き、眼を開けるのをやめるとスッ!と影が薄くなり、
トトトト・・・
スススス・・・
カチャ・・・ボムッ・・・・
と、出て行ったモノ音がしたのです。
バッと飛び起きて玄関に行くが鍵はかかっていた。
開けて通路を見ても誰も居ない。
直ぐに電話が鳴った。
親戚の女の子が亡くなったと言う知らせだった。