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アフターコロナと百年企業の閉店

大変である。

コロナで大変である。

真っ最中である。

コロナの真っ最中である。

新時代の行き方を考えなければならない時が来た。来たというより来ていた。

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年が明け、酔いも覚めた頃に

「何や知らん新しい病気が外国から来たみたいやで」

「新しい流行り病らしいで」

「なんやかんや言うて恐ろしい病気や。かかったら死んでまうらしいで」

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二月

「コロナっちゅうヤツ、危険らしいで」

「イベントも今後中止が予想されるで」

「外出たらアカン法律でもあるんか」

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三月

「用事なかったら外行ったらあかんらしいで」

「自粛せぇいうて、総理大臣が命令するんか」

「大阪から出たらあかんて知事がテレビでお願いしてたわ」

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四月

「緊急事態宣言出るらしいわ」

「商売もしたらあかんらしいで」

「ぎょうさんコロナなっとるがな」

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五月

「もうあかん、コロナちゃうけど死んでまう」

「金ない、おもろない、元気ないのないない尽くしやわ」

「大阪駅、ガラガラらしいで」

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六月

「ぼちぼち人間帰ってきたけど、今後が心配や」

「本番はこれからやで」

「解除はアクションや。自粛させとったら金かかるよってな」

そう、この半年、噂から予想となり、現実に直面し将来不安が広がった。バブル崩壊後、デフレ下の経済予測はことごとく外れたが、人類が短期間に直面することになった事実は誰もが予測できなかった。いや、想像すらしなかったのだ。

例えばである。マッチポンプ説で解いてみると、どこぞのマッドサイエンティストとクレイジードクターがある組織の命令で新種の毒をまいた。組織とは国家かも知れないし、テロリスト集団かも知れない。大企業や宇宙人だってありえる。いや、ひとりの大富豪であるかも知れない。        毒がまかれた。人類が初めて見る毒。人類が初めて体内に吸収する毒。多くの人々が死んでいく。残された家族や恋人たちが悲しむ。それでも毒の脅威は留まることを知らない。一旦おとなしくなって二波、三波と波状攻撃をかけてくる。さらにその次も。                     最悪のシナリオも想定しなくてはならない。自身の死だ。国家の滅亡だ。偶然にも亡くなった方々の中に上級な方も含まれる。そうであってはいけないが上級でない人々が次々に整理されていっているようにも見える。自分自身は上級・上流どころか中流にさえもかすりもしない下の下であるが細々と生きながらえている。

或る日突然特効薬が開発されたと報じられる。しかし、これはダミー。殺人や火災現場の第一発見者と同じく疑われる。推理小説や警察の現場では第一発見者こそが疑わしい。なので敢えて未完成品を発表し、時間をかけマイナーチェンジを数度繰り返す芝居を打って完成品を登場させる。事実を知らない製薬メーカーは日夜研究を重ね新薬開発に励む。その間、地球上の総人口の数十パーセントが減少しているかも知れない。彼らはそれを不要物の除去と言う言葉で表現するのだ。

毒と薬は同時に開発されていた。毒をまくのに何処かの国の何処かの町を選定した。それには数年の年月を費やした。偶発的に病気が発生したのではなく、生活習慣から必然的に発生したというストーリーが必要だった。作られた事実認定だ。ターゲットシティは決定した。毒まきの実行前に仲間たちに都合を仕向けて自主的に町を出るように促した。

計画は予定通りに進んだ。世界はパニック。パンデミック。戦争と同等の効果や利益が得られたのだった。不思議なことに株価も一時的な乱高下を記録したものの、恐慌回避はできているし食料不足も発生していない。違った要因で一部略奪行為も起きてはいるものの暴動も起きない、国家間の小競り合いもない。何処かの国を避難しておけばスケープゴートを簡単に作り出せる。作戦のテーマは組織の繁栄と選ばれた人間の生き残り。いくつかの注意すべき点がある。時に騒ぎ時に声を張る。大きな変化は不要。一時的に経済を混乱させるが安定水域を脱しない。食料の流通には万全を期す。組織からは世界的に見て平均以上のダメージがあるとフェイクする。定期的に世論を惹きつける事件を演出する等。

能ある鷹は爪を隠すものだ。悠々と現在(いま)を生きるものは迫り来るハイパーインフレに耐え得る現金資産があるか、今年に入って現在(いま)を予測できた人だ。狼が来ると言っても誰も信用しないことは予測できたので、賢い鷹は爪を隠したに過ぎない。ここに来てその差は歴然だ。給付金が入金されないと騒いでいる人と、毎晩酒池肉林の宴に興じている人との差がそれを表している。メディアはもちろん後者を非難する姿勢をとっている。国会議員の歌舞伎町でのセクシーキャバクラ遊びや、テンピン雀士の元東京高検検事長、兵庫県警某署の歓送迎会ほか数えだせば枚挙に遑がないが、そんな自分だけは大丈夫病の患者は放っておいて、本当にわかっている族は人知れずこの時代さえも謳歌しているのだ。

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大阪ではてっちりの名門づぼらやが閉店すると報じられた。実に悔しい。天下の台所、食いだおれ、食通。大阪を表現する代名詞は多い。てっちりはご存知ふぐのちり鍋。肝を食ってたま<(時々)と(玉)>に当たるからふぐをてっぽう(鉄砲)と言った。

「鍋はみんなでワイワイ食うもんでっしゃろ、箸も舐めるし唾も飛びまんがな。そらてっちり屋は不利でっせ今後。クラスター出まっせ。ワシら滅多に食えしませんけど、すき焼きもカニもてっちゃん鍋もあかんのんちゃうかっちゅうて、そこらオッサンとさっき公園で缶酎ハイ飲みながら話してましたがな。梅雨入ったとこで言うのもけったいな話やけど、年末の炊き出しも中止ちゃうかちゅうとったオッサンおったで。最近ここら来たみたいやけど。コロナで仕事辞めさされて嫁はんと別れて、ほっといたら踏み台とロープでっせ。ゴッツい雨、降ってきましたなぁ」 (この町に詳しい吉田氏)

街の声が物語るようにづぼらやの将来を絵に描くことはそう難しくはない。100年企業が姿を消すのは寂しい限りではあるが時代とはそういうものなのだ。

前出の吉田氏はづぼらやの社長は賢いと続けた。

「あのオッサンは賢い鷹やで。ワシもづぼらやで社長やっとたら店閉めるわな。板前とオバはんとアルバイトのこと考えたらその方がええ。会社の都合で辞めさされたほうがええんや。職安行って失業保険もろて、一時(いっとき)国の世話になったらええねん。悪いことちゃいまっせ。悪いのは政治家のオッサンとオバハンや。与党も野党もみんないっしょ。お母さんといっしょや。わはは。兄ちゃんもなそんなゴッツいカメラ持っとってもゼニならんど。芸のひとつでも持っとったら別や。人にそう簡単にマネされん写真撮ることがアンタの芸やで。そこらの素人とおんなじやったらやめた方がええ。これからは写真はスマホで十分やで。ワシ、持ってへんけどな」

的を得ている言葉に背筋が凍りついた。コノオッサンナニモン?

「今日日なスマホがモデルチェンジするごとに時代や流行、ほんでから世代が変わっていきまっせ」

「せやろ兄ちゃん、なんや知らんけど5GのGはゼネレーション。つまり世代とちゃいまんのん」

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雨足が激しくなって来た。最近営業再開されたものの客入りの良くないスパワールドの正面玄関からみるふぐの張り子の看板が雨に濡れ風に揺れる。

「ほんだらワシ、行きまっさ。動物園のトラに今年の阪神優勝するかどうか聞いてきまっさ。手帳あったらタダで入れまんねん。ええ写真撮って大センセーなったら缶酎ハイでパーテーやったりますわ」吉田氏はそう言って建物北側の階段の方へ左足を引きずりながら歩き始めた。

階段を降り始めた時、「吉田さんありがとうございます。ぼく、もうちょっと頑張ります。磨きもせんかった芸、ピッカピカにしてみせます」と言った。声が建物の空洞となった部分でこだました。

背中で声を聞いた吉田氏は「兄ちゃん頑張りや」と踵を返すのが窮屈らしく、手すりを両手でしっかりと持ち右肩に顎を乗せる姿勢でそう言った。

吉田氏の頭のてっぺんが見えなくなるまでただ後ろ姿を見ていた。向こうに沈んでいった姿。誰も上がってこない。私以外の誰もいなくなった建物の中の空洞が近い未来の自分自身の立場のように思えて怖くなった。町から色は褪せ、通天閣の展望台付近がデフォルメされた。粒状のノイズが町を包み始めた。雨が激しさを増してきた。その雨でさえノイズを搔き消し洗い流すことができなかった。

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