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はな・物語 巻ノ十二・サザンカ、ツバキ
晩秋から晩春までをつなぐ花木
育てやすさで愛されてきた冬の華
自宅の庭のコンセプトがいくつかある。ひとつは「四季を通して、花が絶えない庭」。花が少なくなるとされている冬。実際はパンジーなどの改良が進んだのと、平成以降の暖かさで、横浜であれば冬中咲いている草花がたくさんある。けれども花木となると多くはない。そこで欠かせない冬の花、華となるのがサザンカだ。学名は和名そのままに、カメリア・サザンカ。
ツバキとともに日本原産の花木であり、古来、愛され、栽培されてきた。庭植えなら、手入れといえば、花が咲いた後から春までに、剪定をして木姿を整えるくらい。時期を誤らなければ、かなり切り詰めても大丈夫だ。遅くなると、翌年の花芽を切ってしまうことになる。夏以降は、飛び出した枝を整理する程度にしておく。
この管理はサザンカ、ツバキとも同様だ。庭植えの場合、よほど土が硬いなど、植える場所に問題がなければ、よく育つ。厳しい寒さ、極端な乾燥、過湿は嫌うが、日当たりに対しては適応の幅が広い。
鉢植えで育てるなら若木で毎年、古木なら3年おきに植え替えを行う。時期は春、開花後がよい。植え替えない場合は咲き終わった頃に肥料を施すこと。育てやすく、枯れにくく、毎年、よく咲いてくれる花木といえよう。
サザンカが咲くと晩秋から初冬に季節が切り替わる。少し遅れて年末から年始にかけ、ツバキが咲き始める。いずれも品種が多いので、開花時期にも早晩がある。立春には秋から咲いていたサザンカが概ね咲き終わり、そこから3月にかけて、ツバキの盛りを迎える。遅咲きの品種と組み合わせれば、ソメイヨシノが散る頃にもまだ咲いている。
サザンカ、ツバキを栽培していて、一番厄介なのは、チャドクガの幼虫がつくことである。なぜか家ではこの数年、ほとんど発生していなかった。2017年の夏、久しぶりに発生し、翌2018年も続けて発生。これには驚いた。その後なぜかまた沈静化している。
昭和の終わり頃までは、チャドクガ、もっといたような気がするのだ。ただし、自宅の庭と私の周辺に限った話なのかもしれない。
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チャドクガ問題とその対策
学校などの敷地内に植栽されている、サザンカとツバキが次々と伐採除去されていると聞く。伐採まではせずとも、新しく植栽を設ける際に、ツバキとサザンカは禁忌、とも聞く。原因はチャドクガである。その名の通り毒をもつ。触れると大人でも大変である。蚊に刺されたようなかぶれが、蚊よりも酷く広範囲に生じて痛痒い。掻けばかぶれの範囲が広がり悪化する。
症状は明らかに個人差があって私は比較的軽く済む方だ。すぐに洗い流せば、その日には引いてしまう。高校生の頃からの知人はチャドクガに弱く、直接触らなくてもかぶれるし、何日も治らないことがあると聞いた。体質によってはアナフィラキシーショックで重体化する可能性もある。
チャドクガの厄介さはその生活環にある。毒のある部位は幼虫の毛と成虫の鱗粉だ。若齢幼虫は群れる。成長すると分散する。蛹になる際は毒毛を含ませた繭を作る。羽化すると飛び、交尾し、産卵する。
卵は、毒のある鱗粉に覆われている。年に2回発生、冬は秋に産み付けられた卵塊で過ごす。鱗粉は飛散しやすいし、幼虫の毒毛も虫体から外れやすい。要するに一生を通して毒に守られ、その毒は虫自身がいなくとも残り、風で拡散するのだ。
対策は発生時期をおさえた早期防除だ。冬から早春の開花時期、春の剪定時、卵塊がないかよく見て、あれば確実に除去する。剪定の際には、混み過ぎた枝葉を整理して、見通しをよくしておくことも、大切なチャドクガ対策といえる。
夏、成虫が飛来する6月から8月までは要注意。夏に産み付けられた卵は孵化するのもその後の成長も早い。卵塊や、孵りたての幼虫の群れがあればすぐに除去。その際には濡れ雑巾を用意し、包み込むようにして処分すると、人体への被害が軽減できる。途中途中で適切な殺虫剤を散布すればなお確実。
自宅ではチャドクガ対策に限らず、春から秋まで頻繁に殺虫剤散布を行っているから、概ね発生を防げているということかもしれない。
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サザンカとカンツバキ
ツバキの自生地は日本各地に知られている。対してサザンカの自生はあまり聞かない。それもそのはず。分布は山口県から四国、沖縄を含む九州に限られている。まとまった数の自生地は福岡県にあるくらい。冬の花であるサザンカは意外にも南方系なのだ。
江戸時代から改良が進み、現在あるサザンカの園芸品種は、いくつかの系統に分類される。まず確実に純粋なサザンカの改良品種が、サザンカ群。開花時期は10月から12月。次いでカンツバキ群、開花時期は11月から3月、カンツバキは重要なので後で詳しく述べる。次いでハルサザンカ群、開花時期は12月から3月、これはサザンカとツバキの交雑種説が有力になった。
最後、タゴトノツキ群。主に田毎の月という品種で、長くサザンカとされていたものの、今は別種、中国に広く自生する、ユチャとされている。
カンツバキ群について。寒椿と書き、生け垣など植栽に多く用いられている。真冬に長期間咲く濃桃色の花、一見してツバキにも近い。サザンカとツバキの基本的な識別はよく知られる通り、花弁がバラバラに散るサザンカ、花ごとまとめて落ちるツバキである。カンツバキは花弁がバラバラに散る。ただし開花時期が遅いことなどツバキと共通するところが多く、ツバキとサザンカの交雑種説がある。
ただし現時点、確かな論文等で確定していない模様。よって、カンツバキの学名はサザンカの一品種となっていて、雑種としての学名は異説扱いされている。カンツバキの基本となった品種が獅子頭である。まず関西で栽培され、関東に移って寒椿と呼ばれる。樹高は低めで、枝は横方向に伸びやすい。這寒椿とも、よばれる、のかも。
一方、現在、一番多く栽培されているこの系統品種は勘次郎、別名が立寒椿。樹枝が上方向に伸びやすく、放任すると3メートルくらいになる。花がやや大きめで、花弁数は少なめ。
寒椿については、ずいぶん調べた。残る謎。勘次郎=立寒椿に対して、獅子頭=寒椿=這寒椿、なのか? 別名が這寒椿なのか、あるいは、這寒椿なる品種は別に存在するのか? 確かな文献に這寒椿の記載がなかったりして、謎のまま、継続調査中。メモとして下記、学名とシノニム(異説)一覧。
Camellia sasanqua 'Shishigashira'
Camellia sasanqua 'Kanjirou'
Camellia hiemalis
Camellia × hiemalis
Camellia sasanqua var. hiemalis
Camellia sasanqua var. fujikoana
Camellia sasanqua 'Fujikoana'
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ヤブツバキとユキツバキ
ツバキという植物名は、総称として使われる。ツバキ属または、そのなかでサザンカ、チャノキなどを除き、主に冬から春に咲く交配品種を含めたグループをツバキと呼ぶ。
狭義、1つの種に当てる和名としては、別名ヤブツバキが相当する。学名、カメリア・ジャポニカ。サザンカよりは東日本よりながら、太平洋側が中心で、比較的温暖な地域に自生が多い。1万本を超える自生地をピックアップしてみた。青森県・夏泊半島椿林、1万本。東京都・伊豆大島、300万本。高知県・足摺岬、15万本。山口県萩市・笠山、2万5千本。長崎県・初崎群生林、4万本。伊豆大島が半端ない。実から採取する椿油が名産として知られている。
対して北日本、日本海側に多い種がユキツバキである。学名、カメリア・ルスティカーナ。ヤブツバキほどまとまった自生地はないが、東北から北陸の日本海側山地に広く自生している。豪雪に耐えられるよう、しなやかな折れにくい枝が特徴。ユキツバキの自生地まわりに稀な存在として、ヤブツバキとの自然交雑により両方の特徴をもつユキバタツバキが知られている。交雑種ながら学名は独立してあり、カメリア・インターメディアという。
ヤブツバキとほぼ同時期に、非常に大きな花を咲かせるツバキがある。それは中国原産のトウツバキ、カメリア・レティクラータ。日本よりも欧米で特に好まれ、多くの派手な大輪花を咲かせる園芸品種の元になっている。中国原産のツバキ属は数多く存在する。日本ではあまり見かけない、やや小型のサルウィンツバキも、欧米を中心に数々の園芸品種を生み出している。
日本文化の真骨頂が、ワビスケである。詫び寂びのワビ。とにかく花は小さく、満開でも口をすぼめたように、地味に咲き地味に落ちる。園芸種であるにもかかわらず、カメリア・ワビスケという独立した学名が認められている。それだけ独特なのだろう。なおこの学名と現存するワビスケとされる品種について、その由来など興味深い物語がある。またの機会として割愛する。
話を少し戻す。日本原産のカメリア属を交雑種を含めた5種のうち、ここまでに4種を紹介した。サザンカ、ヤブツバキ、ユキツバキ、ユキバタツバキ。あと1種は南西諸島にあるヒメサザンカ、別名が琉球椿、学名がカメリア・ルチェンシス。小さい花をビッシリと咲かせるので、他種と趣が異なる。香りがあり、僅かだがツバキとの交配による園芸品種が存在する。
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黄色い椿と、膨大な園芸品種
中国原産の黄色いツバキに触れておく。20世紀前半までに発見された野生種、そこから改良された園芸品種ともに、黄色いツバキは存在していない。江戸時代の図譜に残るとされるが現物はなく真偽不明。ツバキ愛好家の間で、黄色いツバキは青いバラに匹敵する幻の花だった。
中国南部からベトナムにかけて、黄色いツバキの原種が自生している。中国から1965年、明らかに黄色い花の標本とともに、初めて記載発表された種が金花茶、キンカチャである。園芸関係者にはビッグニュースだったものの、国交がなかった関係で、日本や欧米諸国への導入は1980年前後まで待たされた。カメリア・クリサンサ。この学名、半世紀以上使われていながら、最近の分類で変わったらしい。カメリア・ペテロティが今の学名だが、その情報はまだ乏しい。文献、Web情報とも、多くは金花茶=カメリア・クリサンサで通っている。
江戸時代の初期、二代将軍秀忠がことのほかツバキを好み、栽培を推奨したことはよく知られている。家康から将軍家三代が園芸好き、各藩の大名も好み、そこから町民庶民にまで広がり発展した江戸の園芸。ツバキはその中核をなす植物のひとつだ。各地域によって個性があるなかで、熊本県の肥後椿は特異的である。花弁が平たく開き、雄しべが目立つ。
日本産のツバキ、中国産のトウツバキなど、17世紀にはヨーロッパに渡り、たちどころに流行した。歌劇「椿姫」が大ヒットするくらい、メジャーな花になった。アメリカでも盛んに栽培、品種改良されている。欧米系は概ね八重咲大輪が多く、ド派手になりがちだ。
現存するツバキの品種数は、日本国内で2200以上。欧米など海外で4000~5000とされる。あわせて8万品種に届くかという膨大な数だ。いまなお、新しい品種を目指して、専門業者や愛好家による品種改良は続けられている。
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植物名一覧
ツバキ科 ツバキ属
サザンカ Camellia sasanqua(カメリア サザンカ)
ハルサザンカ Camellia × vernalis(カメリア ヴァーナリス)
ユチャ Camellia oleifera(カメリア オレイフェラ)
カンツバキ Camellia sasanqua 'Shishigashira'(カメリア サザンカ シシガシラ)
タチカンツバキ Camellia sasanqua 'Kanjirou'(カメリア サザンカ カンジロウ)
ヤブツバキ Camellia japonica(カメリア ジャポニカ)
ユキツバキ Camellia rusticana(カメリア ルスティカーナ)
ワビスケ Camellia wabisuke(カメリア ワビスケ)
ユキバタツバキ Camellia × intermedia(カメリア インターメディア)
トウツバキ Camellia reticulata (カメリア レティクラータ)
サルウィンツバキ Camellia saluenensis(カメリア サルエネンシス)
ヒメサザンカ Camellia lutchuensis(カメリア ルチェンシス)
キンカチャ Camellia petelotii(カメリア ペテロティ)
参考Webサイト
全般、品種、栽培、専門系
品種についてより深く
ツバキ科 の分類|小石川植物園の樹木
https://warpal.sakura.ne.jp/kbg/0-classification/f-theaceae.htm
キンカチャ 金花茶|小石川植物園の樹木
https://warpal.sakura.ne.jp/kbg/camellia-chrysantha/chrysantha.html
名所
販売
チャドクガについて
最新情報
参考文献
最終更新日:2025年2月13日
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