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【おすすめ植物本】土と肥料【晴読雨読-2】
大学で土壌学を学んだ。農学部の土壌学は農地の土壌診断と改良がすべてだった。一方で私の趣味は園芸、およそ10歳から続けている。庭、畳1枚くらいの花壇と、容器栽培がすべてだった。そこで培った用土肥料のノウハウと、大学で学ぶ土壌学には隔たりがあった。10年ほど前から約10坪の市民農園を借りている。土壌学が役に立つと感じる。農学部の土壌学においても、家庭園芸に言及されるようになった。良い歩み寄りである。
『NHK趣味の園芸 すぐに使える! 土・肥料・鉢』 NHK出版(編)、NHK出版、2016年
家庭園芸、特に容器栽培(植木鉢、プランター、コンテナ)における、用土肥料の本として秀逸。4度目の大改訂を数え、都度、時代に合わせて内容は更新されている。初期は、赤玉土など基本用土を配合する、植物別に配合を変えていくことから、植物別の各論に重きが置かれていた。最新版では市販の培養土から入り、土壌改良材の使い方に重点が割かれている。他社の類書と一線を画すのは常に「鉢」が含まれていること。ここ、とても大事。
『野菜がうまい!土名人』 後藤 逸男(監修)、万来社、2012年
野菜がうまい!とタイトルに重ねつつ、巻末に人気の花の栽培ガイド、それなりにページを割いている。内容は土壌学の教科書、表現は写真、イラストと図表を多用した一般向け実用書。対象は貸農園など多少なりとも野菜を栽培できる畑を持ち、花も含めて栽培している植物好き、家庭菜園・園芸愛好家。草花は1点ずつ土と肥料、施肥のポイントが示されているのに対し、野菜は括った解説なので品目別の各論は別途学ぶ必要がある。
『よくわかる 土と肥料のハンドブック 土壌改良編』 JA全農 肥料農薬部(編)、農文協、2014年
水田、畑地、果樹園、施設(ハウス)の土壌改良について、個別と共通の基本的な事項が平易に解説される。後半は土壌改良材の種類と使い方。各章に独立した項目が立てられ、1項目2ページから5ページの範囲で図解を含めまとめられている。この巻を通すと77項目に及ぶ。どの項目から入っても読みやすく、目的が明確であれば1冊を通して読まずとも、辞書辞典のように使える。それでいて各項目の内容は濃く、実用性充分。
『よくわかる 土と肥料のハンドブック 肥料・施肥編』 JA全農 肥料農薬部(編)、農文協、2014年
JA全農の技術資料から改定・書籍化され、2分冊となった。別巻の土壌改良編と比べると、基本は簡潔にまとめられている。肥料の種類と特性についての記載が、ややもの足りなく感じた。各論は水稲に始まり野菜は品目毎、あるいは課題毎に、より農業生産現場における実用性を志向している印象である。66の項目が独立していて、目的に応じどこからでも読み始められること、図解が豊富で分かりやすい点は土壌改良編と同様。
『改訂新版 土と施肥の新知識』 後藤 逸男・渡辺 和彦・ 小川 吉雄・ 六本木 和夫 (著)、農文協、2021年
土壌学の基礎を網羅した教科書であり、かつ優れた実用書。農地の土づくりにおいて土壌診断がいかに重要か。土壌診断の結果を読み解いて、土壌改良と施肥の設計を行う手ほどきが具体的になされている。不足する要素を肥料として補う、ことは簡単。それよりも過剰な要素を「施さない」ことは難しいと説く。現代の農地は既に肥料成分が偏った形で過剰であることが多い。そのことを土壌の「メタボ化」と表現している。
『地力アップ大事典: 有機物資源の活用で土づくり』 農文協(編)、農文協、2022年
土づくりの類書中、随一の情報量である。土壌学の基礎から入り、各論・応用へ。有機物を中心に、現存の肥料と土壌改良材の解説がほぼ網羅されている。使用事例、効果と注意点が詳しく具体的に述べられている。良くも悪くも農文協の大著らしく、個々に執筆された文書を集積したものと言える。通して読むのは、なかなか、大変だし、事典として必要な項目だけ参照するには少々、情報の粒度が揃わない。
『肥料土つくり資材大事典』 農文協(編)、農文協、2007年
「化成肥料は即効性」「有機質肥料は緩効性」、常識と思っていた。そこで「緩効性化成肥料の存在と使用方法」「発酵済の有機質肥料は即効性があるのか」という疑問が、本書で概ね疑問は解けた。特に後者に関しては「発酵の程度が一律でないこと」「商品化されたのは1970年代から」ということも含めて新知見だった。内容は2022年発行『地力アップ大事典』に引き継がれるも、化学肥料の種類と製造方法、利用方法などは削られてしまっている。
『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』 藤井 一至(著)、山と渓谷社、2022年
「土」の本質を学ぶ機会は極く稀だ。農学部の土壌学も農地土壌の診断改良に主眼が置かれている。著者の専門は土壌圏の生態学、汚染土壌の調査対策である。最初の一般向け著作である本書は面白く読みやすい。研究者の経験が感情を込めてリアルに表現される。読者はぜひ家庭菜園などで栽培を経験、継続してほしい。花でも観葉植物でも、鉢でもかまわない。それによって本書の内容、「土」の本質について、より深く理解が進むだろう。
『土と生命の46億年史 土と進化の謎に迫る』 藤井 一至(著)、講談社、2024年
2025年2月18日、購入し、読書中
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