フォロワーを増やすためにお金をかけるのは正しいのか?【音楽マーケティング】
音楽アーティストがSNSを活用するのは今や当然のこととなっています。
しかし群雄割拠のこのSNS時代、多くのフォロワーを獲得することは容易ではありません。
そこで今回は「フォロワーを増やすためにお金をかけるのは正しいのか?」をテーマに、弊社が主催したイベント内の事例をご紹介します!
はじめに
弊社主催の「音楽マーケティングブートキャンプ」は、日本で圧倒的に不足している音楽デジタルマーケターを育成するための長期イベントです。イベント後半で参加者は得た学びを実践すべく、実際に活動するアーティストのマーケティングを担当します。
本記事では、第1回イベントにてヴィジュアル系ロックオペラバンド「Lacroix Despheres(ラクロワ・デスフェール)」のマーケティングを担当したチームの取り組みの紹介を通して、フォロワー獲得にお金をかけることの是非を考えていきます。
マーケティング活動の概要
Lacroix Despheres(以下ラクロワ)の希望は、バンドの無料コンテンツLPのアクセスを増やし、リスト構築につなげることでした。
そこでマーケティングチームはKPIを以下のように設定しました。
Spotify,Instagramのフォロワー10%増加
実行した施策
この目標値に向けてチームがまず行った無料施策は
・各種SNSプロフィール整備
・LINE公式アカウント構築
・Spotifyで番組を開始
・新曲配信のプレスリリースやキャンペーン
といったものです。
また同時にPostgreSQLというDBMS(データベースマネージメントシステム)を用いてデータ分析体制を整えました。
無料施策の結果は以下のようになりました。
Spotify:4%増
Instagram:60%増
またイベント期間に新曲のリリースがあり、それ以降は有料施策も行いました。
・Facebook&Instagram広告(データ分析結果を元に地域選定)
・サブミットハブ
・データ分析結果を元にshopify構築
・セールスファネル構築
これらの有料施策の結果、無料施策を終えた後からさらに
Spotify:54%増
Instagram:77%増
という結果を得ることができました。
ビジネスとしてはどうか?
しかし広告経由の楽曲再生から算出したCPS(Cost Per Stream/1再生あたりの費用)に基づいて考えると、音楽配信の売上よりも広告費が高くつき「100円の広告費で92円の赤字を出すビジネス」になっていました。
ただし上述したようにチームはshopifyでの販売や、セールスファネルの構築も行っています。
一部のリスナーを楽曲DL販売や月額制ファンクラブへ誘導することができれば、これらの購入率を考えた上で、1リストの価値がCPA(Cost Per Acquisition/獲得単価)を越えれば良いわけです。
最終的には
「¥100の広告費で18回再生されて、1.5人フォロワーが増え、¥190の売上をもたらす音楽ビジネス」
を構築することができました。
つまり音楽配信からの売上だけでは数字が合わないため、広告を出す場合は、セールスファネルをCPA<ACV(平均カート単価)となるように構築することが重要だとチームは結論付けました。
これができれば、広告を出せば出すほど再生回数やフォロワー・リストも増え、売上も伸びていく音楽ビジネスができるということですね。
ラクロワマーケティングチームへのインタビュー
ここからは、ラクロワのマーケティングを実際に行ったメンバーへのインタビューを掲載いたします。
Q1.無料施策で最も効果があったものはどれですか?
フォロワー数アップに最も効果があったのは、ライブ映像を切り抜いたInstagramのリール投稿でした。当時はYouTubeショートが始まったばかりだったこともあり、同じショート動画でも、Instagramのリールの方が再生回数もフォロワー増(YouTubeの場合はチャンネル登録)にも効果的でした。
Instagramの中においても、フィード投稿やストーリーズよりも、リールの方が新規フォローに繋がりやすかったです。リールの場合、リールタブに動画が表示されて、そのままフォローボタンからフォローしてもらえるので、新規フォロワー獲得に向いていると思います。
また、セールスファネルへの集客やファネルからの売上に繋がった部分としては、LINE公式アカウントの整備は必須だったと感じています。
無料プレゼント(ライブ映像)でLINE友だちになってもらい、そこから7日間のステップメッセージで想いや理念を伝えて関係性を強め、そのうえでファネルに入ってもらうことで、よりファン化を深めることができ、商品の販売にも繋げやすかったです。
Q2.Excel等でなく、PostgreSQLのような本格的なDBMSを使ったのはなぜですか?
今回はWebから収集したデータをPostgreSQLデータベースに格納し、Pythonでグラフ表示してデータを可視化しました。
データ可視化は、ExcelでもPythonでも使い慣れた方を使うのが良いと思います。
データベースは、データが少ない間はExcelでも構いません。ただ、収集データが日々追加されていくことを考えると、最初から大規模データを扱えるデータベースを採用した方が後々手間がかからないと思います。
Q3.Shopifyではどのような商品を売りましたか?
実践期間中の2021年10月下旬から、Shopifyで販売している商品をSpotifyのプロフィールページに掲載することができるようになったので、急遽Shopifyでオンラインストアを構築しました。
データ分析の結果から、南北アメリカやヨーロッパのフォロワーやオーディエンスが伸びていることが分かったので、世界中から受注や配送が可能となるPrintfulを使い、Tシャツやパーカー、トートバッグなどを無在庫販売しています。2021年10月10日の「Resurrection Symphony」リリース以降は、Dolby Atmosによる空間オーディオを手軽にお楽しみいただけるように、バイノーラルミックス版のオーディオデータ販売もShopifyで行なっています。
また、Shopifyでもプラグインを使うことでアップセルができるので、Tシャツを注文したユーザーにトートバッグをオファーするなど、小規模ではありますがセールスファネルを構築しています。
Q4.LTVとファンクラブ購入率はどのように算出しましたか?
LTVとファンクラブ購入率は、これまでの実績値となっています。
Q5.サブミット系よりもFacebook&Instagram広告のCPSが低かった理由はなぜだと考えますか?
サブミット系は、プレイリストに楽曲が追加されたタイミングでは再生数は急増するものの、その後はまた落ちていく傾向にありました。
一方、FB&インスタ広告は、広告から楽曲再生までに至りやすいユーザーにどんどん広告を出してくれます。そのため、高いエンゲージメントが期待できるより多くのユーザーに再生してもらうことができ、1人のユーザーがリピート再生してくれるケースも増えました。
実際、Spotify for Artistで確認できる「各リスナーの平均再生数」は、広告出稿前と比べて約2倍に増加しました。
Q6.セールスファネル構築のポイントはなんでしょうか?
セールスファネルを構築するためには、フロント、ミドル、バックエンドといった複数の商品が必要になります。楽曲そのものは音楽配信サービスやYouTubeで聴けるので、楽曲を聴いたことのある人が買いたくなるような、魅力的な商品を用意することが重要です。
そのために有効な方法が「オファー設計」です。オファーとは、商品、サービスを1つにまとめた「提案」のことです。ファストフード店のセットメニューを想像していただければ分かりやすいかと思います。ファネルの各段階を、それぞれオファーにしましょう。
フロントは、見込客(まだ何も購入していないが、興味を持ってくれていて購入者になり得る人)を集めるための「キャッチ」となるオファー。ミドルは、広告費を回収するためのオファー。バックエンドはLTVが高い、利益を出すための本命のオファーとして考えるのがおすすめです。
大切なことは、ターゲットとする理想の顧客に、どのようなオファーを用意すると魅力的に思ってもらえるのか、という、マーケティング思考で考えることです。
Q7.マーケティングを実践する中で苦労したことはありますか?
自身の楽曲やアーティストのアイデンティティと、マーケティングのバランスを見誤らないようにするのが難しかったです。
僕はもともと自分でアーティスト活動をする中で、マーケティングの必要性を感じて学び始め、マーケティング思考、顧客思考の大切さを知りました。
ただ、アーティスト活動においては、オファー設計の際にはマーケティング思考で考えるものの、表現内容に関しては、アーティスト自身が表現したいものを表現することが最優先、最重要だと思っています。まずアーティスト自身が価値を感じる表現を行い、それをマーケティングで広めていく、売っていく。
マーケティングの世界では、「プロダクト・アウト」ではなく「マーケット・イン」で商品開発することが推奨されていますが、アーティストビジネスにおいては「価値観・アウト」。アーティストの価値観で作品を制作し、それを「マーケット・イン」でオファー設計してファネルを構築し、集客していく。この流れを変えてしまうと、そもそもアーティスト活動を継続すること自体が難しくなると思っています。
ちなみに、今回のブートキャンプ実施期間でも、7分以上ある「Resurrection Symphony」をリリースする際に、配信用にショートバージョンを作った方が良い、という話が出てきましたが、結局フルバージョンでの配信を選択しました。
もちろん、どちらにもメリット・デメリットは同じだけありますが、アーティストとしての価値観に合うのはフルバージョンなので、そちらを選択して良かったと思っています。
Q8.担当アーティストの今後の課題や目標はなんでしょうか?
Lacroix Despheresの活動ペースが比較的緩やかなこともあり、楽曲リリースやライブなどの大きなイベントがない時期に、いかにSNSなどを継続的に発信していくか、という部分が課題です。
また、現在の月額制ファンクラブは日本語でのコンテンツ提供となっているため、海外ファン向けにコンテンツをローカライズする必要があります。
目標としては、先日アルバム最終楽曲のオーケストラ録音が完了したので、その他のパートの録音やミックス、マスタリングを行い、できるだけ早くアルバムリリースをしたいです。
昨年リリースした「Resurrection Symphony」ではDolby Atmos対応のミックスを行なったので、アルバムも全曲Dolby Atmos対応できたら良いなと思っています。
Q9.今回なぜイベントに参加したのでしょうか?
きっかけは、クラブハウスで(本イベントの主催者である)山口さんと再会して、久しぶりにお話しさせていただいたことと、Facebook広告を見たことです。
それから説明会に参加して、「日本の音楽デジタルマーケティングは世界と比べて5年は遅れている」とお聞きし、日本で音楽デジタルマーケティングができる人材を増やしていきたい、との理念に共感して参加を決めました。
一番大きかったのは、キックオフミーティングの日程がちょうど僕の誕生日だったことですね(笑)また、僕は個人的に、ラッセル・ブランソンなどアメリカのマーケターからマーケティングを学んできているので、その知識などもシェアできたら良いなと思っていました。
Q10.学んだことを今後どう活かしたいですか?
今回の実践を通じて得られたことは、アーティストビジネスにおいても、セールスファネルを構築して広告を出稿することで、短期間で再生数やリスナー数、フォロワーを拡大しながらリストを増やし、売上に繋げていくことができるということでした。
これを踏まえて、今後のラクロワの音楽活動においては、さらに複数のファネルを構築していくことでビジネス全体のLTVをより高めていきたいと考えています。
また、若い世代の音楽家やアーティストにもマーケティングやファネル構築の重要性を伝えていき、人生の舵を自分で取れる音楽家を増やしていきたいと思っています。
いかがだったでしょうか?この記事を読んで、音楽マーケティングに取り組む方が一人でも増えてくだされば幸いです。
第3回音楽マーケティングブートキャンプの開催が決定!
そして、音楽マーケティングブートキャンプの第3回開催が決定しました!音楽マーケティングを最速で学び実践したい方は、こちらの応募もご検討ください!
迷われている方は、まずは説明会へどうぞ!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?