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わがままになる

食材ひとつ料理3「麻辣豆腐」


ずいぶん前の話ですが、私が大病をしたとき、イギリスに住むある友人がこんな話をしてくれました。 彼女が通っている鍼灸治療院の先生がこんなことを言ったというのです。

健康になりたいと思う時点で、もう病気に向かっている。 

健康になりたいとは誰しもが思うこと。しかし「なりたい」は「なっていない」の裏返しで、そのことへの不安があるということで、その思い(念)が病気に向かわせるというのです。
「病は気から」といいますから、この話は腑に落ちるところがありました。
 
文化人類学者であり、医学博士の上田紀行さん著書「覚醒のネットワーク」(アノニマ・スタジオ)には、こんなことが書かれています。

「気に病む」こと。それはひたすら「考え続ける」ことです。「なぜ?」「どうして?」は、言語脳(理知的で分析や思考を司る左脳的な働き)と動物脳(感覚的で情緒や意欲を司る右脳的な働き)のバランスを崩し、堂々巡りの言語脳の悪循環へと入っていきます。そしてそれは免疫力、生命力の低下を同時に引き起こします。「気」に病んでいるとき、それは確実に「からだ」が病んでいるときでもあるのです。

覚醒のネットワークからの抜粋(アノニマ・スタジオ)

心身一如しんしんいちにょ。からだと精神は密接につながっていて、分けることができないという意味です。心とからだは互いに影響し合っていますから、どちらかがバランスを崩せば当然、もう一方も崩れるのです。
 
私が病気(癌でした)を患ったときは、治療法を探ることはもちろん、今までの生き方や思考が病気を引き起こしたのだと本能的に思ったので、習慣的にやってきたこと、たとえ‘良い’と思ってやってきたことも、いったんゼロに戻してみました。
30年以上実践してきた菜食も見直して、外食したときには肉や魚を食べてみたり、ジャンクフードも食べてみたり。人が病気になったらやめる行動をあえてやってみたのです。

もっとわがままになろう!
人は自分を守るために、摩擦をさけるために、または相手に好かれたいために、自分の意志とは違う行動を取ってしまいがちです。 気を使い過ぎるのです。少なからず私もそういう人間でした。ですから病気を機に、もっと「心の声」に従うようにしたのです。
会いたくない人には会わず、行きたくないところには行かず。長い髪もばっさりと切りました。今まで我慢していたこと、言えなかったことも、できるだけ言動で示すようにしました。自分の殻を破ることを積極的にしたのです。
思考をなるべく止め、感覚、つまり「おいしい、気持ちいい、楽しい、ワクワクする、いやだ、嫌いだ」を大事にしました。無理やりポジティブにならず、ネガティブな気持ちになったら、いつまでもそのことを考え続けないよう意識しました。
 
心を自由にするって何だろう。
‘そこ’にしがみついている手を離すにはどうしたらいいのだろう。
今までやってきた‘良いこと’が、そもそも間違っているのではないか。
ほんとうの自分は何をしたいのだろう。
 
様々な思いが頭の中でグルグルと回りました。
振り返ってみると、癌になる前は不安だらけで、目隠しをして歩いているようでした。仕事や人生を愉しめず、生きているのがつまらない、と心のどこかで感じていたと思います(その頃は気が付かなかったけれど…)。
心がガチガチだから、からだもガチガチ。外ではなく、内側でストレスを作り、自らで重圧をかけていたので、からだはいつも重くて疲れていました。

自分を愛せず、幸せにしていこうと努力もしなかった。つまり生きる力を自身で削いでいったのです。そういう心の働き方をずっとしていた結果、病気に向かっていったのだと。
 
自分を労り、愛すこと。
自分を幸せにしていくこと。
心を自由にすること。
思い込みをやめ、’そこ’に執着しない。
癌になって学んだことです。
 

情報にあふれているこの世の中では、翻弄されることも多いでしょう。
誰かが「〇〇がからだにいい」と言えば飛びつく。逆に良くないと聞けば食べない。ある食事法がブームになると実践する…。 
食べ物を「言語脳」で選んでも、自分のからだと合っているかどうかは分からないのです。誰かの「良い食べ物と悪い食べ物」が自分に当てはまるとは限りません。
心の声を聞いてみる。
頭でっかちにならない。
もっと動物脳を使うことが、これからの時代はますます大事になってくるのではないでしょうか。
 
付け加えておかなければなりませんが、
今の医学を以てしても、癌という病気の原因ははっきりと分かりませんし、これが絶対であるという治療法も、残念ながらありません。私の場合は2つの病院で診てもらい、癌であることが間違いないと分かった上で、手術や治療を一切せずに自然治癒(代替治療もせず)で寛解しましたが、癌については様々な考え方があり、治療法も人それぞれです。私のように自然治癒で寛解をする人がいることも事実ですが、あくまで「いち体験者の意見」として、ここに記しています。そのことをどうぞご理解ください。


豆腐1丁を主役に

食材ひとつ料理3・麻辣豆腐
さて今日は、豆腐で作る「食材ひとつ料理」をご紹介します。
(’食材ひとつ’はあくまで料理の軸となる食材で、調味料や薬味などは使用します。)

麻辣豆腐マーラーどうふ
四川料理です。さしずめ「麻婆豆腐」の肉なし版といったところでしょうか。使用する中華調味料は、麻婆豆腐とほぼ同じです。

ちなみに麻辣マーラーは、花椒ホアジャオと唐辛子、2つの辛さで味付けした料理のことを言います。

作り方もさほど難しくありません。麻婆豆腐を作るのと一緒です。
中華調味料や薬味を炒め、ほかの材料と豆腐を入れてさっと煮込み、とろみをつけます。

頭から汗が出てくるほどの辛さがクセになる我が家の定番料理で、土鍋で作ってそのまま食卓へ出します。’グツグツ’という音を聞きながら食べる麻辣豆腐がまた、たまらんのです。(今回は撮影用に器に入れましたが、普段は土鍋を使っています。)

麻辣豆腐に使う中華食材・調味料について、少し説明します。
味噌や醤油のような発酵食品なので、味に深みを出します。

花椒ホワジャオ
中国の山椒の実を乾燥させたものです。粉では販売していないので、すり鉢などで粉状にします。道具がないときは包丁の腹で潰し、みじん切りにします。こうすることで香りが引き出せます。
花椒を使わないときは胡椒を多めに入れてください。日本の粉山椒を仕上げに振ってもいいですね。

花椒は粉にする

豆板醤トウバンジャン
空豆、唐辛子、塩、麹で作る発酵食品です。
メーカーによって味が少しずつ違います。ちなみに私は中国四川省ピー県で作られている「ピーシェン豆板醤」を使っています。3年ほど熟成させていて、色は茶色。強いコクと香りがあります。
豆板醤がないときは唐辛子で代用してください。←味は変わります。

豆鼓トウチ
大豆と塩で発酵させたもの。日本では大徳寺納豆や一休寺納豆など、豆鼓と似た発酵食品があります。おそらく中国から伝わったものでしょう。
私はこの料理にはいつも一休寺納豆を使っています。(一休寺納豆についてはこちらをご覧ください。)
豆鼓が手に入らない場合は、スーパーでよく見かける「豆鼓醤トウチジャン」でもOK。

甜麺醤テンメンジャン
中国の甘みそ。小麦、塩、麹で発酵させています。
甜麺醤の代わりとしては、田楽みそがありますが(田楽みその作り方はこちら。)、どちらもない場合は、味噌と砂糖同量、そこに醤油とごま油を少々入れたもので代用してください。

*代用食材を記しておきましたが、中華調味料を使わないと少し単調な味になります。 また、代用食材を使った場合の分量は変わってきます。

一休寺納豆(左上 豆鼓も同じ形状)
甜麺醤(右上)
ピーシャン豆板醤(左下)
花椒(右下)

中華食材はスーパーに売られているものも多いので、手に入りやすいと思います。
豆板醤や甜麺醤など瓶ものは、雑菌が入らなければ長期保存可能ですし、豆鼓も長期間、使うことができます。豆鼓の代わりになる一休寺納豆や大徳寺納豆は(←こちらのほうが入手が困難かもしれませんが...)半永久的に腐らないと言われています。

麻辣豆腐の作り方(4人分)
豆腐(木綿)450g
ごま油 (仕上げ)ひとまわし
【材料A】
太白胡麻油またはサラダオイル 大さじ2+ラー油 大さじ1
花椒 小さじ1(うち小さじ1/2は仕上げ用 粉状にしておく)
豆板醤 小さじ2前後
【材料B】
豆鼓(みじん切り)小さじ1
甜麺醤 大さじ1
長ねぎ(みじん切り)大さじ3〜4
生姜(みじん切り)とにんにく(みじん切り) 各小さじ1・1/2
【材料C】
だし汁または水 1カップ
*鰹と昆布だし、昆布だし、中華スープなど。
日本酒(または中国酒)、醤油 各大さじ1
砂糖 小さじ1
塩 適量

1.土鍋(油炒めが可能な土鍋を使用)または鍋に材料Aを入れて火にかける(弱火)。フツフツと泡が出てきたら、混ぜながら1分ほど炒める。

油に豆板醤の色がついてくる


2.豆板醤の香りが立ってきてきたら材料Bを入れて炒める(弱めの中火〜中火。土鍋の場合は底が十分熱くなっているので、火はそのまま弱火)。*調味料を焦がさないように注意。

中華調味料と薬味の香りが出てくるまで炒める

3.数分炒めていると、全体に火が通って良い香りが立ってくる。そうしたら材料Cを入れる。沸騰したら豆腐(2cm角ぐらいにカット)を入れる。再び沸騰したら5分ほど煮込む。
*材料Cの塩は豆腐の水分量によって違ってくるので、味を見ながら入れる。
*煮崩れを防ぐため、豆腐を入れたらあまり混ぜない。

グツグツ煮込む

4.もう一度、味をチェック。必要に応じて塩などを足す。水溶き片栗粉(片栗粉:水=1:1)でとろみをつける。
5.食卓に出す直前に、ごま油と残りの花椒をかける。できあがり。


油のこと
油を多めにすることで、淡白な豆腐料理にこってり感を与え、男子も喜ぶメイン料理になります。

辛さのこと
辛さは豆板醤とラー油で調節します。ちなみに上記の分量は汗が出るほど辛いのですが、ある程度の辛さがないと、この料理の醍醐味が半減してしまうので、減らすときはほどほどに。

だしのこと
私は鰹と昆布だしを使っています。中華スープをいつも使っている人には物足りなく感じるでしょうけれど...。私自身は中華スープを使ったことがないので、味の違いは分かりませんが、最近は無添加の中華スープのだしが売られているようで、そういうものを使ってもいいですね。

麻辣豆腐は、作り方が覚えやすく、どこか’素直さを感じます。
素描料理というのは、まっすぐな’気’を感じることが大切であるのかなぁと、この料理を作りながら思いました。

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