台所は真剣な遊び場だから
土台レシピ15・「畑のつくね」
食べたい。
このストレートな気持ちが’おいしい’を作ります。
台所に立つ人は食事を共にする人の好みに、どうしても合わせてしまいます。自分が何を食べたいか、という気持ちよりも、「作らなきゃ」「食べさせなきゃ」が先に立ってしまいます。
私も主婦として、仕事として、長いこと台所に立っているあいだに、自分が食べたいものが分からなくなり、作る楽しさを一時期、失ったことがあります。食欲は失せ、料理は義務的になり、作ることや食べることの喜びを、あまり感じることができませんでした。
今、改めて考えてみると、自分を愉しくさせたり、幸せにしていこうという‘気’がなくなっていたのだと思います。
ルーティーンをただこなしていくだけの日々は、人の意識を鈍感にさせ、人生でもっとも大切である‘創造’というエネルギーを枯渇させてしまうのかもしれません。
それで何をしたかというと、
1. 自分が食べたいという素直な気持ちに従う。
夫と二人暮らしなので、自分が食べたいものを優先するのはさほど難しくはありませんでした。食べたいと思う気持ちはおいしさにつながりますし、何より台所に立ったときの高揚感が違います。料理を頭に思い浮かべ、味や香りを想像し、それを形にしていく。どんな小さな一品でも怠らずにやっていることです。
2. 料理の皿をいくつも並べなければいけない、という思い込みをやめる。
おかずはせいぜい2品。時間がないときは1品だけを作ることにしました。足りなければ、漬物、佃煮、のり、納豆などを出します。
量より質、満腹より満足、を考えます。
市販の顆粒だしやブイヨンは使いませんし、ごはんは羽釜で炊いておひつへ。何より食材の味を台無しにしてしまわないこと。料理の一番大切なことです。
土鍋、鉄フライパン、すり鉢など、道具主体で料理するようになったら、手順も簡素になり、楽な気持ちで料理するようになりました。
ちなみに「楽」は安らいだ気持ちで料理をすることで、手抜きをすることじゃない。素描料理ではとても大切な要素です。
3. 料理時間を見直す。
作りたい、楽しみたいという気持ちを持つには、時間的な余裕が必要だと思ったので、どんなに忙しいときも、夕方5時になったら仕事をやめることを自分に約束しました。
5時になったら気持ちを切り替えるために少し休憩します。ときにはゆっくりお茶を入れ、力を抜き、5時半には台所に立ちます。 我が家の夕食は7時なので、それまでの1時間半、料理に没頭します。この1時間半がいわば創作時間で、そこで考え、形にし、動きをしっかり見ていくという、おいしさを探求する大切な時間です。
台所に入れば、そこはもう「ひとり舞台」。今日を象っていくように、道具と相談しながら料理に向かいます。
目をつぶっても作れる定番料理でも、もっと良いものに、と手を動かします。調理方法を変えてみたり、新しい食材を加えたり。思い通りに出来上がったときも、うまくできなかったときも、それはそれでよしとし、また進む。そうやって日々、研鑽していった先には、すごくいいことが待っているような気がするのです。
人それぞれのルーティーンがありますから、毎日じゃなくても週一回とか、月一回でも「料理を愛すための時間」を作るのは、価値があることのように思えます。暮らすって結局、愛情を注ぎ込むことだから。
私は「時短」という言葉は嫌いです。今の時代は効率化していくことをよしとするけれど、本当にそうでしょうか。省いてしまったものの中に真実が見えることもあります。「間」とか「遊びの部分」が、人生を豊かにし、創造を生むこともあります。
何でも時短、効率化するから、人生がつまらなくなくなってくるのです。
お金にならないけれど楽しいこと。一見すると無駄なこと。非効率なこと。そんなことが私たちの心を明るくしたり、ほんとうの自分を知ったり、心を豊かにするんじゃないかなと。
台所は真剣な遊び場です。そのことが分かったときに、はじめて料理が愉快になり、愛するようになります。私がそうだったように。
さて、今年最後の土台レシピは「畑のつくね」。
12月頃になると、長野県のあちこちの直売所で新豆が並びます。黄大豆、青大豆、黒豆、くらかけ豆…。新豆は早く煮えて、甘みが強いのので、この時期に買うのがオススメ。
今回は青大豆が手に入りましたので、これでつくねを作ります。
ちなみに黄大豆と青大豆はどう違うのかというと、まず品種が違います。また青大豆の方が大粒で甘みやコクがあります。青大豆は育てるのに手間がかかるので、流通量が少ないのも特徴です。
「畑のつくね」はどんな豆も使うことができますが、私が好んでよく使うのは青大豆の他、黒豆(丹波の黒豆!)とひよこ豆。
焼いてハンバーグに、揚げて様々な料理に、茹でて鍋料理に、色々な使い方ができるので、すぐ使えるように一度にたくさん煮て、冷凍しています。
特につくねを茹でる場合は、片栗粉の量が少ないとバラバラになってしまいますので気をつけましょう。タネを固くする必要はありませんが、丸めたときに丸い形になっていなければなりません。やわらかめの団子でも卵と片栗粉が入っているので大丈夫です。
煮豆とレンコンの割合は4:1ぐらい。厳密に計らなくても大丈夫です。レンコンの量が少し多目でもいけると思います。
和風の場合は玉ねぎではなく長ネギのみじん切りや、生姜のすりおろしを入れても!
1.煮豆をすり鉢に入れてよく潰す。
2.レンコンを鬼おろしまたはおろし金ですり、水分を絞って1.のすり鉢へ入れる。
3.みじん切りの玉ねぎ(鬼おろしですっててもよい)、塩、こしょう、卵を入れてすりこぎでする。
4.最後に片栗粉を入れる。
片栗粉はまず大3入れ、様子を見ながらつくねがまとまるぐらい入れる。(あまり片栗粉をたくさん入れると固くなるので最大、大5までとする。)
これでタネの出来上がり。
この「つくね」を下記のようにフライパンで焼いたり、揚げたり、鍋料理にします。
a.焼く
→バーグ状にして多めの油で焼く。(表面に片栗粉をつけると形が崩れにくい)
小さなバーグやバーガーとしても。甘辛のタレを絡めてもおいしい。
b.揚げる
→ボール状に丸め、片栗粉を付けて揚げる。
辛子醤油で。
甘酢あん、甘辛タレと絡めても。
c.茹でる
→丸めて片栗粉をつけて熱湯で5,6分、つくねが浮いてくるまで茹でる。
*熱湯につくねを入れると、片栗粉が固まって鍋底にくっついてしまうので、つくねをひとつ入れるたびにコロコロとスプーンで動かす。
茹でたつくねは土鍋料理(下記参照)やスープに。
中華スープ鍋の作り方(茹でたつくねを使用)
1.生姜、にんにくはスライス、長ネギは斜め切りに。
土鍋にごま油を大さじ1ほど入れ、薬味3種と唐辛子1〜2本を入れて火をつける。
2.油が十分回ったらだし汁1リットル前後(鰹と昆布のだし汁、または中華スープ)、日本酒または中国酒を1/4カップほど入れる。
3.白菜やキノコなどお好きな野菜を2,3種類入れて煮立てる。
4.野菜が柔らかくなったら薄口醤油(または濃口醤油)、塩で味付けする。
5.茹でつくね(または揚げつくね)を入れてひと煮立ち。食卓へ。
今回はいったん揚げたつくねを土鍋に入れました。
長ネギ、キノコ、生姜など、和風にしても。
寒い冬においしい鍋料理です。
アノニマ・スタジオ連載で以前、お正月に使う「黒豆(黒大豆)」の余りでとカブを使った揚げつくねをご紹介しました。熱々を辛子醤油で食べます。レンコンを使うとよりしっかりしたつくねになります。ぜひ、こちらもお読みください。