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シーズン間のHRの変化と球場の影響
前回の分析では、Khris Davis選手とMike Trout選手の2018年と2019年のHRについて、球場の影響を検証してみました。
2018年の飛球あたりのHRの割合は2人とも高いのですが、2019年はKhris Davis選手はHRの割合を落とし、Mike Trout選手はその成績を維持しました。この2人のHRの割合の変化の違いには何があるのかを検証したところ、2018年のKhris Davis選手のHRには球場の恩恵を受けたものが多いことが分かりました。
これまでの分析では、打球の距離からHRとなる期待値を求めてきましたが、MLB全体の距離から求めた期待値と、球場ごとに求めた期待値の2種類があります。2018年のKhris Davis選手はMLB全体から求められたHRの期待値よりも球場ごとに求めた期待値のほうが高いHRが多くあり、球場の恩恵を受けたと考えました。
この恩恵が2019年には続かず、HRが減少したKhris Davis選手に対し、2018年のMike Trout選手は球場ごとに求めた期待値のほうが高いHRはそれほど多くはなく、結果として2019年にも同程度の成績を維持できたのではないでしょうか?
とはいっても、あくまで2人のデータです。今回は2018年と2019年のMLBのデータを用いて対象を拡大して分析してみたいと思います。
球場の恩恵を受けたHRの性質
今回のテーマは「球場の恩恵を受けたHR」です。前回の分析より、これを球場ごとに求めたHRの期待値がMLB全体の期待値よりも+30%以上高い飛球としました。2018年のKhris Davis選手はこの飛球がHRになる割合が高いという特徴がありました。
今まずは、この「球場の恩恵を受けたHR」の性質を確認してみたいと思います。以下の図1-1には、2018年から2019年に連続して50以上の飛球(フライ・ライナー・ポップフライ)の記録のある打者を対象に、飛球全体に対して、球場ごとに求めたHRの期待値が+30%以上高い飛球の割合のシーズン間の変化を集計したものを示します。
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横の軸に2018年のデータを、縦の軸に2019年のデータをとっています。相関係数は0.18なので、相関は無いといって良い結果です。
次に、2018年の球場のHRの期待値が+30%以上高い飛球の割合と、2019年から2018年の値を引いた値の関係を以下の図1-2に示します。
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中程度の負の相関関係を確認できます。図1-1では無相関だったことから、球場のHRの期待値が+30%以上高い飛球の割合は、シーズン間では安定しないという性質に加え、2018年にこの値の高い打者は2019年には低下するという性質を確認できます。
これらの傾向は、球場のHRの期待値が+30%以上高い飛球は打者自身ではコントロールできないという性質を持っており、その値は運によって左右されるところが大きいといえます。
続いて、球場のHRの期待値が+30%以上高い飛球がHRになった割合について、図1-1、図1-2と同様の集計を行ったものを以下の図2-1と図2-2に示します。
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図1と同様の傾向を確認できました。以上の結果より、球場のHRの期待値が+30%以上高い飛球と、それがHRになる割合は、運によって左右されるところが大きく、打者自身によってコントロールすることは難しいといえます。
全体成績との関係
以上の傾向は、通常の飛球あたりのHRの割合でも見られるものです。それでは、打者の全体成績の飛球あたりのHRの割合(HR/FB)と、これまで見てきた球場のHRの期待値が+30%以上高い飛球あたりのHRの割合(+30%以上HR/FB)との関係はどのようになっているのでしょうか。データを以下の図3に示します。
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結果としては弱い相関が認められるというものです。弱い相関とは微妙なもので、全体成績のHR/FBが高いのに対し、球場のHRの期待値が+30%以上高い飛球あたりのHRの割合(+30%以上HR/FB)の高い打者が多いですが、これには該当せず球場のHRの期待値が+30%以上高い飛球あたりのHRの割合(+30%以上HR/FB)が低い打者も多くはないもののそれなりにいるという関係です。
この全体成績のHR/FBも図1や図2で見たように、前年の値が高ければ翌年は低下するという傾向を持っています。この性質に、球場のHRの期待値が+30%以上高い飛球あたりのHRの割合(+30%以上HR/FB)はどのように関わってくるのでしょうか。データを以下の図4に示します。
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2018年から2019のKhris Davis選手に見られた変化が一般的な傾向であれば、このデータで2019年にHR/FBが低下した、図では下の方にマイナスとなっているプロットで、場のHRの期待値が+30%以上高い飛球あたりのHRの割合(+30%以上HR/FB)が高く濃い赤のプロットになっているはずです。
データを見るにそうはなっていないようで、Khris Davis選手に見られた変化は一般的なものではなかったといえます。
まとめ
1人のデータから見られた傾向が、より一般性を持った傾向なのか検証しましたが、どうもそうではないという結果となりました。試行錯誤の一環ということでお許しいただきたい。
タイトル画像:いらすとや
データ