お知らせ:論文を書きました
今回は日本バレーボール学会が発行している機関紙「バレーボール研究」の25号(2023年)に論文が掲載されましたので,そのお知らせになります。
タイトルは「サイドアウト率とブレイク率による勝率の予測 南部勝率:バレーボール版ピタゴラス勝率の導入の試み」で,渡辺啓太氏(*)との共著になります。*女子日本代表,監督付特命戦略コーディネーター 國學院大學
紙版のバレーボール研究が送られてきたので書き始めたのですが,Web上での掲載はまだのようです。以下のリンクにそのうちアップされると思います。
概要をざっくりと
論文の概要としては,野球にあるピタゴラス勝率という得点と失点から勝率を予測する方法を,バレーボールに何とか落とし込もうとしたものになります。
以前学会発表した内容からデータを追加したり,分析方法をあれこれ修正したりしたものになります。学会で発表した内容については以下でも紹介しています。
ピタゴラス勝率から見る野球の構造
ピタゴラス勝率は以下の計算式によって求められます。
得点の2乗値を得点と失点の2乗値を加算した値で割るという単純なものですが,この値が実際の勝率と近い値になることで知られています。
ピタゴラス勝率の意味はこれだけなのですが,この性質を色々と応用していくことで活用されています。
1つは,目標となる勝率を設定できることがあります。シーズンごとに各順位の勝率にはばらつきがありますが,優勝やポストシーズンへと進出する勝率の目安となるラインは存在します。シーズンを終えて現状の勝率と,目標となる勝率の差を求めると,ピタゴラス勝率は必要な得点増と失点減がどの程度あるかを示すことができます。
そんなものチーム状況を見れば大体分かるのでは?といわれれば,まぁその通りなのですが,世の中には必要なポイントから大きくずれた補強をしてしまうチームが競技を問わずあるわけで,客観的な補強の目安があることは重要です。
また,ピタゴラス勝率とは別の分析で,1つ1つの打席の結果を得点に換算するというものがあります。これとピタゴラス勝率が結びつくことで,1本のヒットが得点に換算され,それがピタゴラス勝率の性質を利用して勝敗に換算することができるようになりました。
つまりは下図のように,野球の構造が成り立つことと,各ユニット間で数値の換算ができるということになります。
これによって,例えば大谷翔平選手の二刀流のように,本来比較のできない質の異なる投打での貢献も,合わせて何勝分の貢献になるかというように同じ土俵で数値化することが可能になります。大谷選手は特殊な例ですが,普通の打者も同時に守備での仕事が求められ,質の異なる2つの成績があるわけですが,こうしたそのままでは比較ができないものも,総合して評価が可能になったわけです。
バレーボールにもあると便利なのでは?
バレーボールも,6人の選手+リベロの役割はそれぞれ異なるわけで,これを同じ土俵で比較するためには,野球のように得点や勝敗にどれだけ貢献したかを明らかにする必要があります。
これは遠大な目標というやつで,まずはピタゴラス勝率が担う部分,得点と勝敗の関係をバレーボールでも明らかにしたいというのが今回の論文のテーマとなります。当然,勝率の目標値を定めることにも利用できます。
バレーボールの競技特性にあわせる
というわけで,バレーボールのデータを用いてピタゴラス勝率を求め,実際の勝率を高い精度で予測できるかということを検証しました。
また,単純にピタゴラス勝率を導入するだけではなく,バレーボールという競技によりフィットさせることも試みました。野球では得点と失点を2乗していますが,この指数の値をデータにフィットさせることでより予測精度を高く出来るので,今回の分析でもやってみました。
しかし,ピタゴラス勝率で扱う得点と失点ですが,野球とバレーボールでは少し意味合いが違います。野球の場合は,得点と失点は独立しています。ここでいう独立とは,攻撃中に得点することはあっても失点することはなく,守備(投球)中に失点することはあっても得点することはないという意味です。
野球では得点には打撃と走塁,失点には守備と投球が関わるといった形で得点と失点が綺麗に分かれています。しかし,バレーボールでは得点と失点は独立していません。攻撃中に失点する可能性も,守備中に得点する可能性もあるからです。
そこで,バレーボールの競技特性に合ったデータということで,以下の元男子日本代表監督の南部正司氏のインタビューで指摘のあったサイドアウト率とブレイク率に着目しました。
サイドアウト率とは,レセプションから始まるラリーでの得点率で,ブレイク率はサーブから始まるラリーでの得点率になります。これらのデータを用いて,下図のようなピタゴラス勝率を改変した予測式を作成したわけです。
というわけで,以下にあげる3つの予測式を用意しました。
・従来のピタゴラス勝率(指数2)
・指数をバレーボールのデータに調整したピタゴラス勝率
・サイドアウト率とブレイク率による予測
これら3つの予測式の予測精度を比較したところ,“サイドアウト率とブレイク率による予測”の精度が最も高かったため,これをピタゴラス勝率の名前を受けての『南部勝率』と命名しました。
次のステップ
執筆を終えての感想としては,バレーボールのデータでは,ピタゴラス勝率のような簡略な予測式とならなかったというのが正直なところです。これについては対策を講じてはいますが,今後の課題としてより簡単な予測式に洗練していく必要があると思います。
とはいえ,バレーボールにおける勝敗との関係を求めることができたので,野球での1つ1つのプレーの得点換算の分析と融合したように,バレーボールにおいても下図のような1つ1つのプレーを得点換算して,それを勝敗へと結び付けたいと考えています。
あくまで仮のモデルで,野球のように攻守が独立していないので,ここをどう組み立てていくかがポイントになりそうです。
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タイトル画像:いらすとや