投球の角度と変化量と空振りの関係 左投手編
これまで投球の角度について、あれこれと分析を進めてきました。打球の角度については既にお馴染みですが、「角度のあるストレート」という言及は随分と昔から聞きますが、そのデータをあまり見たことが無かったからです。
前回の分析では、投球の角度を水平・垂直方向の2方向から集計し、空振りとの関係を分析しました。
今回は、この前回の分析に投球の変化量を加えて分析をしたいと考えています。その場合、投手の左右、打者の左右、投球の角度、変化量と要因が非常に多くなってしまいます。分析できないわけではないのですが、条件を分けていくと出力される図表の量がとても多くなってしまいます。ここは自分の作業保管庫くらいのイメージで記録を残しているので、少々図表が多くなっても構いはしないのですが、それにしたって多いだろうということで、今回は左投手に限定して結果を報告します。右投手はまた来月に。
投球の変化量
今回の分析にあたり、2023年のMLBで投げられたストレート(4-seam fastball)投球の変化量は以下に示す4つのグループに分類しました。これは投球の変化量、水平方向(pfx_x)と垂直方向(pfx_z)の2つの値をクラスター分析(k平均法)によって分類した結果になります。以下の図1にデータを示します。
この図は横の軸が水平方向(pfx_x)の変化量を、縦の軸が垂直方向(pfx_z)の変化量を反映しています。このプロットは捕手・審判視点のものなので、図の右側にプロットがあるのは、左打者のインコースへ水平方向に変化していることを意味します。
4つのグループの特徴をあげると、
Group1:水平方向(pfx_x)と垂直方向(pfx_z)の変化の大きさは中程度
Group2:水平方向(pfx_x)の変化が大きく、垂直方向(pfx_z)の変化は小さい
Group3:水平方向(pfx_x)の変化が小さく、垂直方向(pfx_z)の変化は大きい
Group4:水平方向(pfx_x)と垂直方向(pfx_z)の変化はともに小さい
これら4つのグループで投球の角度が変化することでパフォーマンスがどのように変化してくるかを検証していきます。
投球コース
投球の角度は、投球コースによって変わってきます。例えば、垂直方向の角度であれば低めに投げたほうが当然大きくなります。角度の違い=投球コースの違いとならないように、下図の区分によって投球コースを分類し、それぞれで投球の角度と変化量の影響を検証します。
投球の角度と変化量と空振りの関係
それでは、投球の角度と変化量の空振りへの影響を投球コースごとに比較していきます。まずは、左投手対左打者の組み合わせでゾーン1(外角高め)のデータを以下の図2-1-1に示します。
グループごとに投球の角度と空振りの関係を示しています。空振り率が高くなるほどプロットは赤くなります。投球の角度によって空振りを取りやすくなるのであれば、特定の方向に向けて赤くなるグラデーションを確認できるはずです。
図を見ると、所々赤いところはありますが、角度の違いによる影響は特に確認できません。
それでは、同様の組み合わせで、ゾーン2(真ん中高め)とゾーン3(内角高め)のデータを図2-1-2と図2-1-3に示します。
Group1のみ、垂直方向の角度が小さいほど赤いプロットが目立ち、空振りが多くなっているでしょうか。こんな感じで、変化量のグループの違いも確認していきます。
続いて、ストライクゾーン内の真ん中の高さ、ゾーン4からゾーン6までのデータを以下の図2-1-4から図2-1-6に示します。
こちらでは、どのグループにも空振りが多くなる角度は見られません。
同じように、ストライクゾーン内の低め、ゾーン7からゾーン9までのデータを以下の図2-1-7から図2-1-9に示します。
こちらでも空振りが多くなるような角度は見られません。
次に、ストライクゾーン外の高めのゾーン11と12のデータを以下の図2-1-10と2-1-11に示します。
こちらでは特にゾーン12(インコース寄り)での空振り率が高く、Group1では水平方向の変化が大きく、垂直方向の変化が小さいほど赤いプロットが目立ちます。Group2とGroup4も似た傾向ですが、Group3は全体的に赤く、サンプルも少ないために判断が難しくなっています。
最後に、ストライクゾーン外の高めのゾーン13と14のデータを以下の図2-1-12と2-1-13に示します。
こちらでは、どのグループにも空振りが多くなる角度は見られません。
次に、左投手対右打者の組み合わせで同様のデータを見ていきます。ストライクゾーン内の高め、ゾーン1からゾーン3までのデータを以下の図2-2-1から図2-2-3に示します。
全体的に薄っすらと赤く、空振りのとれるコースであることはわかりますが、角度の影響は見られません。
続いて、ストライクゾーン内の真ん中、ゾーン4からゾーン6までのデータを以下の図2-2-4から図2-2-6に示します。
どのグループにも空振りが多くなる角度は見られません。
次は、ストライクゾーン内の低め、ゾーン7からゾーン9までのデータを以下の図2-2-7から図2-2-9に示します。
こちらも、どのグループにも空振りが多くなる角度は見られません。
次に、ストライクゾーン外の高めのゾーン11と12のデータを以下の図2-2-10と2-2-11に示します。
どちらのゾーンでも垂直方向の角度が小さいほど空振り率が高いという関係を確認できます。これは変化量のグループを問いません。
最後に、ストライクゾーン外の高めのゾーン13と14のデータを以下の図2-2-12と2-2-13に示します。
ゾーン13(アウトコース)で、Group3とGroup4では垂直方向の角度が大きいほど空振り率が高くなっています。
全体的にみると、空振り率が高くなるのは、ゾーン11と12の高めのボール球で、垂直方向の角度が大きいほど空振りを取りやすいといえます。
打球の評価
これまでの分析では投球の角度の影響を空振りから見てきましたが、それだけでは足りないという思いもありました。そこで今回は、追加の分析としてhit in playとなった打球の角度と速度からwOBA値を推定した値(estimated wOBA)でも同様の集計を行いました。一例として、左投手対左打者の結果を以下の図3-1-1に示します。
他のゾーンと投打の組み合わせでも、このように特に投球の角度や変化量のグループによる違いは見られませんでした。だらだらと長くなってしまうので、他の図表は末尾に参考資料として表示しておきます。
まとめ
以上の集計より、投球の角度の影響は高めのボール球で空振りがとりやすくなるところにあるでしょうか。“角度のあるストレート”といわれると、低めへの角度の大きなストレートのイメージがありますが、効果があるのは逆の角度というのは興味深い結果です。
次回は、また長くなってしまいますが、今回と同じ集計を、右投手を対象にやった結果を報告します。
データ元
タイトル画像:いらすとや
以下は、打球の評価の残りの図をアップしておきます。
打球の評価:左投手対左打者
打球の評価:左投手対右打者